第41話 策をろうするものたち
俺が示した作戦は単純だった。
南側から近付いてくる盗賊たちを森と南側の入り口との中間地点で待ち伏せして盗賊たちの側面を突く、というものだ。
作戦を成功させるためにはこちらが盗賊たちの目論見通りに動いていると思わせる必要がある。
第一に、南側の広場に残した戦力が北側へ援軍に駆け付けたと思わせる。
実際に残った護衛のうち、俺たち四人を除く護衛と俺たちの代わりに護衛に扮した非戦闘員を北側の入り口へと向かわせる。
第二に、ベルトラム商会長は広場に残り万が一に備えて警戒していることを知らしめる。
つまり、クラウス商会長には
この二つについては盗賊たちにとっても重要事項なのでわざわざ知らせるまでもなく察知してくれるはずだ。
そして盗賊たちに奇襲をかける俺とカリーナ、デニスのおっさん、フリーダさんの四人は密かに村をでて迎撃地点へと移動する。
「――――万が一、奇襲に失敗してもクラウス商会長が村の中央へ避難する時間くらいは稼げます」
クラウス商会長を囮にすると説明したところで、カリーナとデニスのおっさん、フリーダさんの顔色が変わったので最後に付け加えた。
俺が作戦を説明し終えるとカリーナが間髪を容れずに反対した。
「危険すぎるわ」
「盗賊たちが襲撃してくるんだから、危険じゃない作戦なんてあり得ないだろ?」
「盗賊たちの主力が南側からくるなら、こちらも北側の戦力を急いで呼び戻して南側の入り口で戦うべきでしょ?」
「嬢ちゃん、そいつは無理だ」
「呼び戻すよりも早く盗賊が到着するでしょうね」
「じゃあ、村の中央で迎撃しましょう。中央なら北側の戦力が合流するまでの時間くらいは稼げるでしょ? 自警団はそのまま北側から動かなかったとしても、ベルトラム商会の戦力ならたとえ盗賊が六十人いたとして、Bランク魔術師が五人いたとしても撃退できるわ」
カリーナが「ね? そうでしょ?」、とデニスのおっさんとフリーダに懇願するような顔で同意を求めた。
しかし、デニスのおっさんとフリーダさんの反応は
「そうだな、戦うだけなら、な」
「商会長もその案には賛成しないと思うわ」
カリーナの言うことも一理あった。
だが、被害者となる村人たちのことが抜けている。
当初、盗賊たちは北側から襲撃してくるとの情報を掴んだ。
これに対応するために北側の住人たちの避難は完了している。しかし、南側の住人たちはそのままだ。
そこへ、盗賊たちを引き入れることになる。
「盗賊たちを無条件に村の中央まで引き込んだら、連中の狙いがクラウス商会長の誘拐から村人たちの財産の略奪と誘拐に変わるだろうな」
俺がそう言うとカリーナが言葉を詰まらせた。
普段の冷静な彼女からは想像もできない狼狽ぶりだ。
クラウス商会長の身に危険が及ぶ可能性で判断力が低下しているとしか思えない。
「盗賊たちの主力を相手に勝算はあるのか?」
Bランクの魔術師が最低でも五人いるのだとクラウス商会長が念を押す。
確かに魔装は厄介かも知れないが、対処することは可能だ。
強力な魔装なら銃弾を通さない可能性もあるだろう、だが、魔装といっても何から何まで防御出来るわけじゃない。
視認できるなら光は通すだろうし、言葉で意思疎通ができるのなら音を通す。呼吸ができるなら空気を通す。
恐らく水や電気も通すだろう。
「秘密兵器があります」
「それは、Bランク魔術師五人を
俺は自信ありげに映るよう、芝居気たっぷりにうなずく。
「全員を無力化して生け捕ります」
犯罪者とはいえ、六十人からの人間を、自分の判断と自身の手で殺すのは抵抗があった。
生け捕りにして処分はこの国の法に委ねる、それが俺のだした結論だ。
「無力化、だと……?」
言葉を発したのはクラウス商会長だけだったが、他の三人も彼同様に信じられないと言わんばかりの視線を俺に向けた。
「侮りすぎです! ダイチさんは物事を軽く考えすぎます!」
カリーナが詰め寄りそうな勢いで俺を
瞳がランプの揺れる光で輝いた。
気のせいか?
涙を浮かべてるような……。
彼女の瞳を注視しようとしたが、デニスのおっさんに阻まれた。
「六十人の盗賊を殲滅すると言われてもにわかには信じられられないが、無力化して生け捕りにする、というのはもっと信じられないな。具体的にどうするのか説明してもらえないか?」
「そうだな、具体的な手段を知りたい」
クラウス商会長が同意した。
「分かりました。実際に見てもらうのが手っ取り早いんですが……、そういう訳にも行かないので説明します」
俺は今回用意した秘密兵器の説明を急いで始めるのだった。
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