第26話 探索隊の人選
クラウス商会長の仮設テントをでるとカリーナが早足で歩きながら言う。
「探索隊はあたしとダイチさんを含めて四名。ダイチさんが無属性魔法の手練れだと言うことは明かします」
ユニークスキルのことは隠すが、昨夜のキングエイプ襲撃で単独で一匹を討ち取ったことは告げる必要があると了解を求められた。
「別に隠す必要はない。カリーナが必要と思う情報は伝えてもらって構わない」
「ありがとう。でもね、自分がどんなスキルを持っているか、魔法をどの程度まで使えるかはあまり明かさないものなのよ」
人が好過ぎるわ、と苦笑いされてしまった。
「気を付けるよ」
「そうね、特にユニークスキルは何らかの偽装が出来ればいいんだけど」
偽装か……。
既に偽装してあの状態なんだよなー。
「探索中に考えてみるよ」
ユニークスキルと偽った
魔装を使えない弓矢を除外すると接近戦しか残されていなかった。
ここは日本刀でも取り寄せておくか。
そんなことを思案していると、カリーナが一人の女性を呼び止めた。
「フリーダさん!」
二十代半ばのスラリとした長身の美人で、長い赤毛を結い上げてまとめていた。
革鎧の上からでもスタイルの良さがうかがえる。
「どうしたの? 何だか慌ただしそうね」
これから話すことが内密であることを前置いてカリーナが言う。
「森のなかで二十人の怪しい人たちを感知したわ。詳細確認のために同行して頂戴」
「そちらのお客さんはいいの?」
俺を見て言った。
「アサクラ様も探索に協力頂くことになったの」
「あら」
一瞬、驚いたような表情を浮かべたがそれはすぐに興味深げな表情へと変わった。
探索隊に同行する以上、護衛の対象ではなく戦力だと受け取ったようだ。
「よろしくお願いします」
クラウス商会長の客人と言うことだが、堅苦しい敬語は苦手だと告げる。
「フリーダと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
笑顔で敬語が返ってきた。
「幾ら何でも三人、ってことはないでしょ?」
フリーダさんがカリーナに問いかける。
「あともう一人、デニスさんに同行してもらうつもりよ」
「戦闘を想定しているのね」
「最悪の場合よ」
「でも、詳細な情報を手に入れるつもりなんでしょ?」
戦闘を想定していると分かっていて、なお、フリーダさんの口調や態度から余裕が感じられた。
カリーナが用意した二人が相当の手練れであることが知れる。
「デニスさん、お仕事ですよ」
カリーナが声をかけたのは三十代後半の中肉中背の男性で、淡い栗色の髪を短く刈り込んでいた。
「何だ、嬢ちゃん」
面倒くさそうに歩いてくるデニスに森へ探索隊をだす旨を伝える。
「最低でも二十人か……。割に合わない探索になりそうだな」
「割のいい仕事なんてデニスさんには似合いませんよ」
と笑顔のカリーナ。
「おいおい、勘弁してくれよ。楽をして稼ぐってのが俺の信条なんだぜ、知らなかったのか?」
「初耳です」
カリーナの嘘を吐いているのがバレバレの笑顔をデニスさんがため息で受け流す。
「隊長は嬢ちゃんとして、他のメンバーは?」
フリーダさんと俺にサッと視線を走らせるとカリーナを見る。
表情が戦力不足だろ、と語っている。
同じ人選なのにフリーダと随分と差があるな。
「仮に見つかっても逃げ帰ってこられるメンバーを選んだつもりです」
「そいつは随分と買い被られたものだな」
鼻で笑った。
浮かべた苦笑が自分を指したものなのか俺を指したものなのかは分からないが、気分のいい反応じゃないな。
「アサクラ様は戦闘の素人かもしれませんが、戦闘力だけはあたしよりも上です」
デニスさんとフリーダさんが目を見開いた。
無言で俺を見る二人に「他言無用です」と前置いて言う。
「アサクラ様は、昨夜のキングエイプ襲撃の際に身体強化を使う個体を討ち取っています」
「魔装まで使えるとは驚きだな」
たったそれだけの情報でデニスさんは俺が魔装を使えると断定したようだ。
「カマをかけたつもりですか?」
ため息交じりにカリーナが言った。
「ある程度は知っておかないとな」
魔装を使えると断定したわけじゃなく、カマをかけただけだったようだ。
何とも食えないおっさんだ。
「じゃあ、ちょっとだけ情報公開しますね」
「出し惜しみかよ」
いたずら一杯の笑顔を浮かべたカリーナが告げる。
「身体強化を使うキングエイプに噛みつかれても無傷だったんですよ」
「はあ?」
「なに……?」
フリーダさんとデニスのおっさんの驚く顔が二つ並んだ。
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