第14話 異邦人と猫

 現代から取り寄せた四人用のテント。

 少し大きいかと思ったが実際に寝転がってみると程よい広さだ。


 テントのなかに断熱シートとエアマットを敷いて寝転がっていた。


「人生で最も濃い一日だったかもな……」


 独り言とともに溜息が漏れる。

 俺は身振りでニケを呼び寄せた。


「ミャー」


 フサフサの尻尾を振りながら俺の腹の上に飛び乗る。

 俺はニケの頭をなでながら、自身のスキルについて情報の整理をすることにした。


 先ずは最も重要なスキル、トレード。


 機能は大きく分けて三つ。

 異空間収納ストレージとポイント変換、そして製品取り寄せがある。


 異空間収納ストレージはアニメや漫画、ゲームでよくあるチート能力の一つで、俺が作りだした空間に生物以外の物を収納、取りだしが自在にできる能力だ。

 この異世界にも類似する能力でアイテムボックスがあり、いま分かっている限りでは異空間収納ストレージとの機能差は見当たらない。


 そしてアイテムボックスのスキルを持つ者のほとんどが、王侯貴族に召し抱えられるか好待遇で商人に雇われなり、商人として独立するなりしているのだという。


 思わず口元が綻ぶ。


「ミャ?」


「未来に希望が持てるって素晴らしいよな」


 不思議そうに見上げるニケの頭をなでる。


「マジックバッグか……」


 この世界にはアイテムボックスの下位互換となる空間拡張機能を付与された魔道具――、マジックバッグがある。

 それが俺の足元に置かれたバッグがそれだ。


 クラウス商会長から貰った、日本でよく見かけるデイバッグとよく似たバッグに目をやる。

 これは普通のカバンに空間拡張能力を付与した魔道具で、カバン本来の容量の三倍~十倍の容量を収納できるというものだ。


 軍隊や商人の必須アイテムであり、高額ではあるがそれなりの数が市場に出回っている。


 アイテムボックスとマジックバッグとの最大の違い。

 前者は神の恩寵おんちょうという先天的なスキルであり、後者は人の手で作りだすことが出来ることだろう。


 次いで機能面の最大の違い。

 それは空間内部の時間経過を止められるか否か、だ。


 俺の異空間収納ストレージとアイテムボックスは空間内部の時間を止めて、製品や物資の経年劣化を防ぐことが出来るが、マジックバッグにはそれが出来ない。


 この差は大きい。

 王侯貴族や商人が好待遇で迎えるのも当然である。


「この能力だけで十分に勝ち組人生を送れるということだ」


「ミャ?」


「お前に不自由はさせないからなー」


 ニケを抱え上げる。


「ミー」


 トレードの持つ二つ目の機能。


 ポイント変換。

 異空間収納ストレージ内の製品や物資をトレードポイントという数字に変換できる。


「製品の売買をしないで済むのは助かる」


 この機能があれば盗品だろうと曰く付きの品物だろうと関係ない。

 実際、森に自生していた樹木や転がっていた岩を異空間収納ストレージに収め、トレードポイントに変換できた。


「そして三つ目は現代日本から商品や物資を取り寄せられることだ」


 俺は改めてテントのなかを見回す。

 エアマット、寝袋、LEDランタン、キャンプ用の椅子やテーブル、食器類、キャットフード。この世界で手に入れることの出来ない品物が当たり前のように並んでいた。


 トレードの三つの機能。

 これがあれば俺とニケはこの世界でも生きていける。


「ははははは」


「ミャー、ミャー」


「くすぐったいって」


 上機嫌で笑う俺にニケがじゃれつく。モフモフの毛が俺の首筋をくすぐった。


「お前のスキルはしばらくの間は秘密にしような」


「ミャ」


 首から引きはがして顔の正面に持ち上げたニケに語りかける。

「精霊魔法と鑑定の二つはこの異世界のことをもう少し理解するまで封印だ」


「ニャー」


 ニケが欠伸あくびをした。


「分かってるのか?」


「ミ!」


「何となく、トラブルの原因になりそうな気がするんだよなー」


 まあ、小さなトラブルくらいなら何とかできそうではある。

 無属性魔法がその根拠だ。


 無属性魔法の利用形態の一つ身体強化。

 無属性魔法を体内に巡らせることで、身体能力を著しく向上させるすべである。


「カリーナの話では俺の身体強化はこの世界でもトップクラスらしいぞ」


 更に、魔装まそうと呼ばれる無属性魔法の熟練者のすべ。無属性魔法を武器や防具にまとわせて、それらの強度を上げる技術がある。こちらも、やはりトップクラスの強度を生みだせていると言っていた。

 持続時間や魔術の展開の速さ、確認しなきゃならないことは山積さんせきしているが、何とかなりそうな気がする。


「ミャ」


「何となくだけど、お前も俺と同じようにトップクラスの身体強化と魔装がつかえるんじゃないかな」


「ミャー」


 気のせいか、ニケが得意げな表情をしたように見えた。


「まあ、何にしてもこれから楽しくなりそうだ」


 俺はLEDランタンの灯りを消してニケとともに寝袋に潜り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る