17:00

車で一人あの場所に向かっている。


ここの街でしか聞いたことがない17:00を知らせる鐘がなっている。

毎年この鐘を聴くと君のことを思い出すよ。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんばんわ。クリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


車でかけているラジオを流し聴きする。


今、俺の助手席に乗っているのは

君が教えていくれたギター。

君に教えてもらわなかったらきっと音楽の素晴らしさにまだ気づけていないんだろうな。


今君は元気にしているのだろうか。


そんなことを考える季節になった。

こんなにネットが盛んになってどんなところでも繋がられるようになってもなぜか君とはメッセージも電話も出来ないなんて思いもしなかったな。


俺が君から卒業するために連絡を絶ったこと今でも後悔している。

でも今更なんだよな。

君は今誰の隣で笑って過ごしているんだろうか。


[では、次の曲、白い恋人達。あなたに幸多からんことを。]


俺の父さんがいつも聞いていた曲だ。

君のお父さんも好きだって言ってたね。


君も冬になるとこの曲を聴きたくなるって言っていたな。

思い出ばかりが蘇る。


君との新しい思い出はこれ以上増えないのに

やっぱり君のことを今年も想ってしまうよ。


今日はこの曲にしようか。


俺はあの場所に一番近い赤レンガの駐車場に停めて

ギターを背負い君との思い出の場所に向かう。


「今日もいないか。」


君との最後のデートの待ち合わせ場所の公園。


始まりの終わりもここで喋ったね。


俺はギターをケースから出して、

チューニングする。


「んんっ…あー…」


ここの公園は、海が見えるけどなぜか人が全く来ない。

君はそんな公園だから好きって言ってたね。


その頃から一人の時間を大切にしていたね。


俺はもう少し一緒に居たかったけど

ちょっと難しかったんだね。


俺はギターを弾き始める。


かじかんだ手が中々ギターをうまく引かせてくれない。

なにもうまくいかないものだな。


車で聞いた曲を歌い始める。

君に届くのが先か、俺が君を忘れるのが先か

どっちなんだろうな。


白い息が目の前を霞ませる。


君との思い出がたくさん蘇り、歌に気持ちが乗る。

いつも以上に君に届くように歌い、願う。


君が元気に暮らしていますように。

この寒さで風邪をひきませんように。


これで何度目の一人クリスマスを過ごしただろう。

君の存在が大きすぎだから、また来年も1人で来てしまうのだろう。


…あぁ、もう一度君に会えたなら手放さないよう努力をするのに。


君への歌が終わり、ギターを片付けようとすると

背中の方から一人の拍手が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る