3:00

今の時代こんなに隙間風が入る家なんてどれだけあるんだろうか。


俺は寒さとうるさいので眠れずにいる。


掛け布団と毛布で二重に、エアコンをつけているけれど隙間風に勝てない。

また俺はここの家に一年も住んでいたんだな。


変えよう、変えようと思っていても、

更新が近づくとまあいいかとなってしまう。


きっと心のどこかで変化を嫌っているのだろう。


少し前に隣に引っ越してきた初々しい青年は彼女が出来たのかよく部屋に連れ込むようになった。


彼とお似合いな純粋そうな彼女だった。


ただ会ったり話したりするのは構わないのだがこのオンボロのアパートはとにかく壁が薄い。

また二人の愛し合う声が聞こえて悶々とする。


こんな日だからってわかっているけど、

やっても構わないんだけどもう少し抑えてくれないだろうか。


もういいわ、俺がこの部屋から出ればいいんだ。


俺は暑手のコートを着て外に出る。

こんな時、扉をバン!とやったら少し気が晴れるんだろうがやっては自分が嫌な奴になってしまうから静かに音を立てないように締める。


俺ってなんでここにいるんだろうな。


外に出て当てもなく歩く。


あまりものを持たない、金もない俺は10年使い倒しているハンディラジオにイヤフォンを指しラジオを聴く。


ラジオをポケットに入れて適当に周波数を合わせる。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんばんわ。クリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]


お、今日は簡単にあったな。

こんな小さいことでも喜んでしまう人生ってなんなんだろうな。


しばらく歩いたがあてのなさすぎる散歩に嫌気がさしたので近くの公園のベンチに寝っ転がる。


俺は結構慎ましく生きてきたつもりなんだけど、

あまり人生は好転しない。

最近は不況の波でそろそろフリーターになりそうだ。


家族も恋人も友人もいない。

家族は病気で早く亡くなった。

その当時はボロ泣きだったけどもう何年経ったんだっけな。

涙腺は緩むが、涙はこぼれない。


友人も初めはなんとか取り繕うとするが、

なぜかうまくいかない。

きっと、俺は一人があってるんだろうな。


恋人はいたことはあるが長く続いて2年といったところだろうか。

きっと俺の能力の低さに逃げていくんだろうな。


空を見上げて星を見ようとするが

雲が厚く全く見えない。


今日はラジオの周波数だけが俺の幸運か。


[では、次の曲、Green Christmas。あなたに幸多からんことを。]


なんか眠くなってきたな。


このままじゃいけないんだろうけど、

もう何すればいいか分からない。


俺はずっと選択を間違え続けていって一人死ぬんだろうな。


「はあぁー…」


目をつぶり、体も片側だけ大の字になる。

すると、モフっとしたものが手に当たる。


びっくりして起き上がると子猫が一匹ベンチの横にいた。


「お、おい…だ…」


公園には誰もいない。

ほかの猫もいない。


「大丈夫か…?」


俺は手の匂いを嗅がせて安心させ、抱き上げる。

すごく軽い…子猫ってこういうものなのか?


イヤフォンを外して、改めて猫を見つめる。


ずっと鳴いていたみたいだがイヤフォンで気づかなかった。


「ごはん食べるか?」


猫は応答するかのように鳴く。


俺は来ていたパーカーを前後ろ逆にしてフードに子猫を入れた。

抱っこしていると潰してしまいそうで怖かったからだ。


そして俺はコンビニに向かいごはんを買うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る