23:00
だいぶ呑んだな。
白い息からアルコール臭がする。
さっき友達との飲み会が終わり、帰宅中。
やっぱりこの季節は君を思い出してしまうな。
少しは成長できたと思ったんだけど、
君が好きなものを見るとやっぱり涙が出る。
最近はよく君を思い出す。
早くこの季節が終わって欲しいと思ってしまうが
長く続いて欲しいとも思っている。
勝手だよな。
気を紛らわすためにイヤフォンをつけて
ラジオを聞く。
僕のプレイリストは君のお気に入りの曲ばかりだから、ラジオの知らない音楽をここのところ聞いている。
[May happiness come to everyone who listens.
皆さんこんばんわ。明日のクリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]
寂しくなっていた一人の僕は、
その人の声を聞いて少し気分が落ち着く。
手がかじかんで音量を調節できないまま大きめの音で我慢する。
ポケットに手を突っ込み、彼女に渡したピンキーリングを感覚で触る。
またこのリングをはめてあげる願いも叶わない。
彼女は突然の交通事故で亡くなってしまった。
交通事故って結構あるんだな。
僕たちが知らないとこで亡くなっている人が多いことを彼女が亡くなってから知った。
事故に会う前の自分を恨む。
もっと彼女との時間大切に過ごせばよかった。
いつ、どこで大切な人が死んでしまうかわからないのにその時間を無駄に過ごしてしまうのは本当に愚かな行動だと思う。
僕は彼女といてもよくスマホをみる癖があった。
友達からの連絡やSNSをなんとなく見てしまう。
そんな時間一人の時にいつでも出来るのにね。
もっと彼女と話をしていれば良かった。
もっと彼女が喜ぶことをしたかった。
もっと彼女の笑顔を見たかった。
君を失ってからこんなにやりたいことが出てくるのは何故なんだろうね。
いる時になんで気づけないんだろうね。
本当に僕って馬鹿だなぁ。
一人暗くて寒い道、僕は涙が止まらなくなる。
[では、次の曲、ニットの帽子。あなたに幸多からんことを。]
はぁ、曲まで僕を追い込んでくる。
今日は泣かないって頑張ってたんだけどな。
少し前までは、僕を駅まで迎えに来てくれてこの道を手を繋いで歩いていたんだけどな。
もうその手は消えてしまった。
わかってるんだけど、戻らないこともわかっているんだけど、もう一度会いたい。
手をにぎったらもう離さない。
どこにも行かせない。
僕が守るからさ、戻ってきてよ。
片耳のイヤフォンがぽろっと落ちる。
手を勢いよく出した瞬間、
彼女のリングも落としてしまった。
「あ!待って!」
コロコロと転がり落ちていたニット帽にあたり止まる。
良かった、排水溝に落ちなくて。
リングに駆け寄りついでにニット帽を拾い上げると、帽子の中にリップと小さい折りたたみ財布が入っていた。
彼女もパーカーの帽子に手ぶらにしたいからっていれてたな。
落ちたイヤフォンを拾い、交番届ける事にした。
なんか今ので涙も引っ込んで酔いも冷めた。
ポケットにリングと、ニット帽を大事にしまい、交番に向かう。
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