10:00

「あと30分で開店しまーす。」


店の人が大声でみんなに知らせる。


はあ、また今年もあの子は来るのだろうか。


私は毎年デパートの屋上で開催されるクリスマスマーケットのサンタクロース役をやっている。


体系がサンタクロースに似てるから詰め物を買わなくていいということだけでだ。

まあ1日子供と写真撮ってればいいだけだから通常業務よりは楽っちゃ楽だ。

だから拒否はしない。


こうやって毎年やっているとやってきた子供の顔を覚えるもんなんだよな。

歳を重ねるごとにだんだんと成長していく子供たちを見るとおじいちゃんが孫を見ているような感覚になる。


そろそろ屋上に上がっておこう。


エレベーターで最上階まで登り屋上に出る。

毎年毎年クオリティの高さに感動する。

使いまわしているものもあるがおとぎの国に迷いこんでしまったかのような空間だ。


今日と明日で使う休憩室に入ると、

さっきまで誰かがいたのかラジオがつけっぱなしになっていた。


[May happiness come to everyone who listens.

皆さんこんにちは。明日のクリスマスが終わるまでひとつまみの軌跡をお届けします。]


やっぱり今の時期はどこでもクリスマスばっかだよな。

そんな浮かれても何も変わらないのにさ。


ミントガムを噛む。

この時期になると口臭ケアをしっかりするようになった。子供はなんでも正直だからな。


いつもこの時期に憂鬱になるのは理由がある。


このクリスマスマーケットが始まって5年が経つが毎年来てくれる皆勤賞の子供達、その中でも一番印象に残っている子供がいる。


その子は私のサンタクロース姿を見て開口一番、


「ホンモノのサンタさんじゃない!」


と言った。

まあこんなところにサンタがいるわけないと考えているんだろう。

それかヒゲの偽物感が否めないのか。


[では、次の曲、Silver Bells。あなたに幸多からんことを。]


ラジオからクリスマスソングが流れる。


その子は毎年律儀に並んで、

私に本物ではないと言ってくる。

親が良かれと思って連れてくるのだと思うが

私的にはその後の気分が少し重くなる。


多分今日も来ているんだろうなぁ。

しかもなぜか毎年一桁台の順番でいる。

それが印象的で顔を覚えてしまった。


出来ることならサンタと信じてもらいたいものだ。


「あ、じゃあそろそろ席にお願いします。」


係の人に移動を促される。


「はい、今行きます。」


噛んでいたガムを捨てて係員についていく。


デパートの下からは子供の賑やかな声が聞こえる。

とても楽しそうだ。

この時間は私でも少しウキウキしてしまう。


デパートの開店アナウンスが流れ、子供たちの声がデパートの中に入っていった。


しばらくすると一気に20組くらいの親子とカップル、友人同士で来ている人たちがきた。

今年も始まったな、と気が引き締まる。


子供連れの親が私の前に並び子供たちがキラキラした目でこちらを見てくる。

あの目はサンタクロースへの憧れの眼差し。

子供たちは私を見てとても喜んで親に

とても嬉しそうになにかを話している。


ああいうの見ていると顔が自然と笑顔になる。


ふとあの見たことある顔が見える。

あの子だ、今日は3番目か、だいぶ早いご到着だ。


係員が一組ずつ私の元へ案内する。

私はしっかりサンタクロースになりきり子供を抱きかかえ子供の話を時間が許す限り聞いたり写真を撮ったりする。


そしてすぐにあの子の番。

するとあの子はよちよち歩きの弟の手を引きながらこちらに来た。

最近は母親か父親どちらかこの子を連れてきていたが弟の面倒を見ていたのか。


あの子は引いていた弟の手を私に差し出す。


「ほら、サンタさんだよ、ちゃんとあいさつしてね。」


と優しく弟に話しかけていた。


やっとあの子にサンタさんと認められて私は今年一番の笑顔で二人と写真を撮った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る