5:00
「さみぃ…。」
ハラハラと雪が降っている中、木のおかげで雪が落ちてこない公園のベンチに座りさっき買った缶コーヒーで暖を取る。
俺は何やっているんだろう。
あいつのことずっと大切に想ってるのに。
見返りなんか求めてないし、報われないのも分かってる。
ただあいつといるだけでいいのに、一緒にいると欲張りになってしまう。
「あぁ…!俺、ダメな奴だな…。」
足を放り投げ空を見上げると同時にカツンと足に何かが当たる。
当たった足先を見ると少し古びたラジオがあった。
さっきは気づかなかったな。
家を飛び出してきたからスマホがないのでラジオで暇を潰そうと俺は古びたラジオを拾い上げてまたベンチに座り、ラジオを付ける。
「なかなか合わないもんなんだな。」
ジジジと周波数を合わせると一つの局に繋がった。
[May happiness come to everyone who listens.
皆さんおはようございます。明日のクリスマスが終わるまでひとつまみの奇跡をお届けします。]
お、やっと合った。
俺はラジオをベンチに置き、缶コーヒーを飲みあいつの事を思い出す。
俺とあいつは本当にたまたま飲み会で出会ってしまった。
あいつといる時間はとても楽しくて日が経つこと仲を深めていった。
俺の気持ちに気付いたのはあいつが別の人と付き合うことを報告してくれた時。
ちょっと前から相談はされていたけど、なぜ心がチクチクするのか分からずにいたんだ。
「付き合えることになったんだ。応援してくれてありがとな。」
その言葉を聞いた時になぜか嬉し涙ではなく、きゅうっと心臓が締め付けられて痛くて涙が出た。
「おめでとう。」
涙目の俺は空っぽの祝福を伝えた。
しばらくあいつらは付き合い、俺とあいつが会う頻度が減ってしまった。
だけどこの間、あいつと付き合ってる子の浮気が発覚した。
「なんか悪いことしたかな…。」
と、思い詰めるあいつのことを抱きしめは出来なかった。
俺の気持ちを知った時、あいつは俺の元からいなくなってしまうだろう。
ただ、寄り添いの言葉をそっと渡すことしか出来なかった。
そして昨日の夜、あいつは話をつけるために浮気した子に会いに行った。
だけど、何時間経っても帰ってこなかった。
心配で何度も連絡をしようと思ったけど俺はあいつはただの友達、必要以上にあいつのことを想ってしまうのはダメなんだ。
俺はそのまま眠れずにあいつを待っていた。
夜明けが近づき、空の青みが増す頃に鍵が開く音がした。
「ただいま。」
と、鼻が真っ赤のあいつが帰ってきた。
「話せたのか?」
「ううん。…来なかった。」
「ずっと待ってたのか?」
「うん。メッセージ送ったけど、見てもくれなかった。」
「なんだよ…、それ…。」
ふつふつと怒りが湧く。
こんないい奴なのに…、寒空の下で8時間近くも自分のことを大切にしてくれない人を待てる奴なのに。
「ごめんね。たくさん相談乗ってくれたのにこんな結果になっちゃって。」
寂しいそうに笑うあいつの顔なんか見たくない。
「なんでだよ。」
「え?」
「俺の方がお前のこと想ってるのに。」
俺は怒りでぽろっと本音が溢れてしまった。
慌てて口を抑えるが遅い。
そのままコートを取り、俺は無言で外に出ようとするとパシッと冷え切った手で俺の手を掴むあいつ。
俺はその手の意味が分からなくて振り払って走ってここまで来てしまった。
[では、次の曲、粉雪。あなたに幸多からんことを。]
「ははっ…、懐かし…。」
思わず笑みが零れる。
そういえばあいつと出会った飲み会でこの曲が流れて先輩が熱唱してたな。
あいつの笑った顔がたくさん俺の頭を巡る。
だけど、どれも俺を友達としてしか見ていない笑顔。
ああ…、出来ることなら本音が出る前に戻ってまたあいつの笑顔を友達として見ていたい。
でももう無理だろうな。
友達と思っていた奴が自分とは違う想いを持っていたと知ってしまったら。
「おーい!どこいった!?」
と、好きなあいつの声が聞こえる。
なんなんだよ…。
追いかけてくるなよ。
風邪引くぞ。
タッタッタと走っている音が聞こえてくる。
はぁ…。
あいつが風邪引く前に見つかってやろう。
見つかって全部想いをぶつけよう。
「本気でお前のことを想っている。守り続けたい。」
って。
あいつとの最後の時間大切にしよう。
愛している声がする方へ俺は走って向かった。
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