洗い物

「俺、洗いますよ?」


「ふふっ、じゃあ一緒に洗おう?」


「ああ、一人で大丈夫ですよ?夏美さんは休んでもらって」


「私が一緒に洗いたいんだよ?」


一緒に洗いたいってどういうことだ?洗いたい?休んで貰って大丈夫なんだけどな…。ご飯も作ってもらって悪いしな…。


「ねぇ、一緒に洗お?」


そ、そんな上目遣いで言われると…。っていうか美人の上目遣いは破壊力がヤバい…。


「分かりました…」


結局そのまま押し切られてしまった。


**

ジャアアー


というわけで俺は夏美さんと並んで洗い物をしている。


え?何?この状況…。あと距離が近い気がする。腕同士が当たる距離感だ。


ちなみに海斗はというとアイツはお風呂に入りに行ってしまった。


「そういえば…、聞いたこと無かったんだけど…」


聞いたこと無かったんだけど…?何だ…。何を聞かれるんだ?


「翔君って好きな人……いるの?」


「………好きな人ですか?」


「うん…。付き合っている人がいるかは聞いたけどこれは聞いてなかったから…」


そう言って不安そうな顔をする夏美さん。

な、何でそんな顔をするんだ…。そして何でそんな質問をするんだ…。


「好きな人ですか……?いないですね…」


「そ、そっか!ふふふ♪よかったっ!」


漫画だったらパァーという音が付きそうなほどに満面の笑みだ。なんかちょっと尊さまで感じるぞ…。


「二人で洗い物してるのって、何か夫婦みたいだね?」


「………」


ヤバい…。何かすごいもんぶっ込んできたぞ、この人…。えーっと…。こういう時ってどう答えるのが正解なんだ…?


「………」


ダメだ…。何も思いつかないから沈黙しかない…。早く何か答えないと…。


「もしかして……。嫌だった…?」


くっ!とりあえず何か…。もう適当に何か言うしかない…。


「い、いや…。こんな美人で家事も出来る素敵な人が俺の奥さんなんてすぐに想像出来なかったんです…。すいません…」


あぁー!俺何言ってんだ!ヤバい…。恥ずかし過ぎる…。ていうかこんなこと言ったらなんか口説いてるみたいになる…。


そんなことを考えながらも恐る恐る夏美さんの反応を見る。


夏美さんは食器を洗っている手を止めて下を向いている。


「………ごめん。私、トイレ行ってくるね」


あっ……。これやらかしたパターンや…。どうしよう…。




(夏美視点)

私はリビングの扉を開けて外に出る。そしてその場に座り込んだ。


「不意打ちは反則だよ……」


恐らくあのままあの場にいたら顔のにやけが止まらなかったと思う…。でも、嬉しかったなぁ…。


はぁ…。顔の火照りが収まるまでここにいよう…。

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