第21話 捕物帳の幕引き

「変わっていないわね……」

 エリスは笑う。


「何がですか?」

「あんたが強情っぱりなところ」

「な、何を言うんですか?」

「……ま、いいわ」


 ミリアが珍しく狼狽したところで、エリスはフッと笑う。


「それより、デイエスは……」

「そうですね、ここまで来て逃げられたらたまったものじゃありません」

「そうよ、賞金が……!」

 エリスとミリアは辺りを見回す。

 そこに逃げ去ろうとするデイエスの背中が見える。

「あ、待ってぇ!」

「逃げるつもりですか、この卑怯者!」


ドォォォン!!


 エリスとミリアの叫びをかき消すかのように、デイエスが逃げようとしている方向から二機、ヴァーランスと同じだけの全長を持った機体――レージュが現れる。

 ヴァーランスと同じ赤を貴重としているものの、そこかしこに錆がついていている。

 きっと急ごしらえのものをいきなり持ち出してきたのだろう。

 こちらの方が新造の分、一対二とはいえ若干有利だと客観的に見える。


「む、向こうもあんなの持ってやがったのか!」


 しかし、マシンノイドを操縦するのはこれで二度目のダイチにとって、この二機はとんでもない強敵に思える。


「なに、恐れることはない」


 フルートは膝上でダイチを鼓舞する。


「あんなポンコツに、妾とダイチが負けるはずがないんじゃ」

「ああ、そうだな」


 力強くそう言われたことで、すくみあがりそうな気持ちが引っ込んだダイチはディスプレイを操作する。

 相手が同じマシンノイドなら遠慮することはない。思いっきり武器を使ってやる。


「スタンスティック!」


 ヴァーランスは背中から引き伸びた警棒を手に取る。


「でぇいッ!」

 まずは振りかぶって、頭に向かって振り下ろす。


パキィン!!


 当たった。しかし、頭にではなく、肩にだった。

 敵の方が寸前のところで避けたのだろう。


ジジジジジジジ


 だが、スタンスティックの攻撃はこれだけで終わらなかった。

 棒の先からプラズマが発生し、機械回路をショートさせる。

「あぎゃぁぁぁぁッ!!?」


 しかも、プラズマによる電撃は操縦者にまで及んだらしい。その悲鳴がスピーカーを通して聞こえてくる。


「これ、結構便利だな」

「あと二、三発打ち込んでもいいですよ」

「お、おう!」

「そうはいくか」


 もう一機が拳をぶちかましてくる。


「ぐわッ!?」


 頭を殴られたはずなのに、コックピットまで振動が伝わり、機体は大きく揺らぐ。

 それになんだか、自分が打たれたような感覚さえある。


「くそ、やりやがったな!」


 ダイチは反撃に別の武器を取り出す。

 ハンドガンである。


「ところでダイチさん、射撃の経験は?」

「一応ある! なくてもやる!」


 ダイチは即座に撃つ。


バキューン!


 見事、弾丸はレージュの肩を撃ち抜く。


「おっし!」


 ダイチはガッツポーズを取る。


「さすがじゃのう! どんどんぶっぱなせぇッ!!」

「え?」


 フルートは勝手に操作して、ハンドガンを馬鹿馬鹿撃つ。


バゴォォォン!!


 散々撃ち込まれたレージュは爆散する。


「お、おい、やりすぎじゃねえか!」

「敵に容赦していては戦いには勝てぬぞ!!」

「その通りですわね」


 同情している女子二人は血気盛んで強気であった。


「それでは、もう一機もこの調子で八つ裂きにしてくれようぞ!」

「いや、操縦は俺が……」

 しかし、ダイチがそれを言い終わる前に増援がやってくる。

 同じ機体――レージュが三機。合わせて四機。


「むむ、数に頼るとは!」

「ちょっとまずいか?」

「いえ、所詮はジャンク品。こちらは保安の機体ですから性能はダンチです」

「あ、ああ……」

「何よりダイチさんの操縦がありますから」

「いや、そこまで頼りにされても」

「頼りにさせてもらいます」

 ミリアは強く言う。

 そこまで言われると、ダイチとしては頑張るしか無い。


「頼りにされたらやるしかないだろ」


 そう言って自分に言い聞かせる。

「よし! サーベルだ!!」


 ヴァーランスは腕ほどもある頼もしいサーベルを出す。


「やれぇッ!」

 フルートのかけ声とともに斬りかかる。


ザシュ!


 サーベルの抜群の切れ味でレージュの頭を一閃して切り落とす。

 さらに片方の手で持っていたハンドガンで追撃をかける。


「まず一機!」


 しかし、敵だって黙ってやられているわけではない。

 前方と後方に分かれて携帯している棒で殴りつけてくる。


「ちっくしょうッ!」

「やはり、多勢に無勢ですわね」

「ええい、こうなったら!」


 フルートはダイチの手に手を重ねる。


「フルート?」

「妾の力を貸す! 存分に暴れるのじゃ!!」

「貸すって?」


 ダイチは訳が分からないまま、ディスプレイを見る。


「出力が上がっている!? おりゃぁぁぁぁッ!」


 ダイチはレバーを操作して、ヴァーランスを動かす。

 あっという間にレージュから距離を取る。今までにない素早い動きであった。

 まるで身体が一流のスポーツ選手のモノになったみたいだ。


「これはフルートの力なのですか?」

「そうじゃ、妾のエヴォリシオンで機体の性能を底上げしているのじゃ!」

「そんなことも出来るのか!?」

「私も詳しくは知りませんので……」

「なんだってよいじゃろ! さっさと攻撃せぬか!」

「お、おう!」


 ダイチは言われるがまま、サーベルで斬りかかる。


ザシュ!


 出力の上がったヴァーランスは目にも留まらぬ速さでレージュを真っ二つにする。

「スタンスティックだ!」

 振り向きざまにスティックで殴りつける。


ジジジジジジジジジジ!!


 さらに棒先からプラズマが発生して機体を爆散させる。


「あれ? こんな威力だったか!?」

「うむ、こんなものじゃろ」


 フルートは満足そうに言う。


「残りは一機ですね」

「それなら、ハンドガンで!」


 ヴァーランスの武器をハンドガンに持ち替えて最後の一機に向かって撃つ。


バゴォォォン!!


 弾丸が命中したレージュは爆発する。

「よし、全滅だ!」

「さすが妾のダイチじゃ」

 上機嫌になったダイチとフルートはハイタッチを交わす。

「あとはデイエス、ですが……」

 その陰でミリアはハッチを開けて、デイエスの姿を探す。

「いました!」

 ミリアは即座にデイエスが逃げようとしている方向に熱の分身を飛ばす。

「逃しません!」

 ミリアの分身は両手を広げてデイエスの行く手を阻む。

「チィッ!」

 デイエスは舌打ちする。

「おいおい、嬢ちゃん……ぶっ殺されたくなかったら、さっさとそこをどけや」

「あら、口説き文句ですか? あいにくとそのような戯言でときめくような心は持ち合わせておりません」

「ふざけてるんじゃねえぞ!」

 デイエスは殴り掛かる。


バシィ!!


 しかし、その拳はエリスによって止められる。


「てめえ!」

「私の家族に手を上げてるんじゃないわよ!」


 エリスはもう片方の……今にもバラバラになりそうな義手で殴りつける。


「ぐわあッ!」

 デイエスは思いっきりぶっ飛ばされる。

 しかし、殴ったエリスの方にも激痛が走る。


「くう……!」

「エリス、もう一息です」

「ええ」

「足りないときは私も手を貸しますから」

「ありがとう……でも、今はいいわ」


 そう言ってエリスは倒れたデイエスを掴み上げる。


「て、てめえ!」


 デイエスはまだ衰えない戦意を向けてくるが構わず殴り飛ばす。


「がはッ!」

「散々手こずらせてくれたけど!」


 エリスの拳を熱を帯び、殴られた人間の意識を断つ苛烈な拳打を繰り出す。


「これで、終わりよぉぉぉッ!」


 最後の一撃放った時、デイエスの意識は途切れ、またエリスの拳は文字通りバラバラになった。




 廃墟のビルの屋上。

 そこはこの一連の騒動をの一部始終を一望出来る絶好の観客席であった。


「中々いい見世物でしたね。

ですが、デイエスは思っていた以上に使えない男でしたね。

まあ、百人程度の手下を集めてみましたが、それでも見世物としては小劇場がいいところでしたね。

エリスという花形が現れなければ退屈で殺してしまうところでしたよ」


 少年は満悦顔で携帯端末を操作する。


「プロフェッサーに報告しておきますか。


あなたが蒔いた種はちゃんと芽吹いてきてると……」


 少年はそう言って、屋上を降りる。この見世物を名残り惜しむかのように一度だけ振り向いて言う。

「また会いましょう、

――姉さん」




「はい、あーんしてください」

「ん、くくぅ……!」


 おおっぴらにスプーンを差し出すミリアにエリスは歯ぎしりをする。


「どうしたのですか、あーんしてください」

「あのね、私が自分で食べられないからってなんでこんなことしないといけないのよ?」


 エリスの両手はデイエスとの戦いでバラバラになってしまい、新しい義手を買うお金も無いせいで、エリスは今両手を無くしてしまっているせいで満足に食事もできないのだ。


「嫌ですね、エリス……そんなの私が楽しいからに決まってるじゃないですか」


 ミリアは愉悦に満ちた笑顔で言い放つ。


「ミリア~!」

「そのへんでやめておけよ」


 ダイチはミリアを諭す。

 というか、そのとばっちりを被りたくない。

「でしたら、ダイチさんが食べさせてあげるのはどうでしょうか?」


「「はあ?」」


 ダイチとミリアは唖然とする。


「それはならぬぞ、ダイチ!」


 そこへフルートが止めに入る。


「ダイチへ食べさせて良いのは妾だけ。

妾へ食べさせて良いのもダイチだけ。それが夫婦というものじゃろ」

「いや……俺は別にいいんだけど」


 フルートの発言はスルーするダイチであった。


「エリスがいいんならよ」

「わ、私に振らないでよ!」

「照れなくてもいいのに、本当は嬉しいんでしょ?」

「照れてないし、嬉しくない!」


 エリスは顔を真赤にして答える。


「うるさいわね、食事ぐらい静かにできないの田舎者」


 マイナは不機嫌そうにタコを頬張りながらぼやく。


「タダ飯食らいが偉そうにしてるんじゃないわよ」

「ああ、俺も耳が痛いぜ」


 ダイチも同じような立場なだけに心が痛む。


「というか、この家居候が増え過ぎじゃない?」


 エリスは辺りを見回して言う。


「エリスがダイチさんを拾ってくるからこうなるんです」

「お、俺のせいなのか?」

「いえ、賑やかになっていいと私は思います」

「賑やかといえば、イクミはどうしたんだ?」


 食事時に一番賑やかなイクミの姿が無いことをダイチは気にする。


「イクミならさっきからずっと通帳データに張り付いてるわ」

「そういえば今日だったか、振込は」


 あの後、デイエスを倒して保安に引き渡した。

 ビムトは不機嫌顔だったが、フーラは上機嫌で引き渡しを受け入れた。


「賞金は後日、口座に振り込む手はずになっている」と言っていた。

 それが今日なのだから、穏やかにしていられないのも無理はない。


――ひょっとしたら、賞金は貰えないかもしれない。


 何しろ、ダイチは保安のヴァーランスを持ち出したのだから、窃盗罪で逮捕されてもおかしくなかったのだ。

 それをフーラの計らいで無罪放免になった。その代償として賞金はゼロになるといわれるのではないか。

 いざその日になってみたらそんな不安が押し寄せてくる。


「やっぱ、俺もみてくるわ

「……単純ね」

「エリスは不安じゃないのか?」

「そうね……もし、賞金振り込まないんだったら、叩きのめすからそれはそれで楽しみね」

「それお前が賞金首になる道まっしぐらじゃねえか!」

「エリスらしくていいですね」

「ミリアはミリアで本気だし」


 この二人はやっぱり仲が良いよな、とダイチは思った。

 それはそれとして、賞金がちゃんと振り込まれるのか気になったのでイクミの部屋に押しかける。


チャリーンチャリーン


 なんだか小銭が落ちる音が鳴り出す。


「おう! ちょうどええとこきたなあ!」


 さらにイクミが満面の笑顔で迎えてくれる。


「えぇっと、入ったのか?」

「ああ、たんまりとなッ!」

「よっしゃ!」

「よおし、これで天王星行きの旅費は確保したでー!」

「さっそくチケットを手配しなさい!」


 エリスもいきなり入ってきて命令してくる。


「おう!」

「ついでに私の新しい義手も手配しなさい」

「おう! って、それが先やな!」


 イクミはカタカタ打ち出す。


「それでしたら、私の足も新調してほしいですね」

「お主らも大変なんじゃのう」

「とりあえず、いっぺんに要望言われても無理やで。とりあえず計画を立てようか、まずはエリスの義手やけど……」


ピコン


「おい、イクミ……呼び出しじゃないか?」


 ディスプレイから『コールサイン』の文字が出ている。


「あん、こんなときに誰や」


 こういう場合、誰かからの着信なのかメッセージが出ているはずなのだが、それが出ていない。


「誰や……」


 イクミが首を傾げながら、通知ボタンを押す。


『――久しぶりだね』


 そこで画面に顔が出てきて、ダイチ達は仰天する。

 出てきたのは火星の皇――マーズ・グラディウス・ハザードその人であった。


「――は!?」

『そこまで驚くこともないじゃないか』

「いや、驚くでしょ! 何いきなりかけてきてんのよ!?」


 エリスは文句を言う。

 皇に対して、その口の利き方はまさしく神をも恐れぬ所業であったが、当のマーズは気にしていないようだ。


『フフ、振込直後にかければ、その賑わいに参加できると思ってね』

 マーズは笑って答える。


「ああ、あんた寂しかったのね」

「エリス……ミリアもそうだが、お前も大概だな」


 ダイチは呆れる。

 もし、ここでマーズの機嫌を損なうと、一瞬で保安が動いて逮捕されて死刑台に送られてもおかしくない。と、密かにビクビクしている。


『いや、私相手にそこまではっきり言う人間は少ないからね。ある意味、一番信頼できる繋がりだよ』

「しかし、どうやってうちの回線を割り出したんや?」

『情報部に依頼すればそのぐらいのことは簡単なことだよ』

「ぐぬぬ……情報部、侮りがたし……」


 イクミは悔しさで震えている。


「それでわざわざ連絡してきて何の用?」

『用件は三つある。

まずは賞金を手にしたことへの祝い。

二つ目はデイエスを捕まえてくれたことへのお礼だ』

「お礼ですって?」

『デイエス・グラフラーは厄介なお尋ね者でね。勝手に火星に流れ着いて、勝手に流れ者に負けてしまったところを捕まえたら、勝手に逃げ出して……』

「いや、最後それはそちらの不手際なんじゃないですか?」


 ダイチは訊くと、マーズは苦笑する。


『フフ……それは言われると何も言えないな』

「反論してくれないと火星の治安が不安になります」


 ミリアは毒づく。

「この星の皇はどうも垢抜けているようね」

 マイナはマーズを見て言う。


『うむ、その点はこの先の課題としておくが、ひとまず礼を言いたかった』

「それって、皇がわざわざ出張ってくるほどのものなのかしら?」

『いや、デイエスを逃してしまったことが天王星政府にかなり批判されたんだよ。火星は敗戦星だからね、こういうところで肩身が狭い想いをさせせられるとは思わなかったよ』


 マーズはため息をつきながら言ってくる。

 その様は仕事に疲れた中年のそれであって、皇としての威厳はどこにも見当たらない。


「ま、それも君達がデイエスを捕らえてくれたことで、なんとか目処は立つ。そういった意味じゃその賞金の額でも少々少ないんじゃないかと私は思うよ』

「あれで少ないとか、どんだけ金持ちやねん……」

「少ないって思うんならもっと寄越しなさいよ」


 エリスは図々しく言う。


『そう言うと思って、ささやかながらプレゼントも用意しておいたよ』

「プレゼントってなんですか?」

『君が盗んだ機体だよ、ダイチ君』


 ダイチはドキリとした。

 この一言だけで、目の前のディスプレイに表示されているマーズが親しみやすいおじさんから判決を下す裁判官に変わったような気がした。


『いや、そう警戒しなくても私はその行いを咎めるつもりはない』

「ど、どうしてですか……?」

『理由はデイエスを捕らえた功労者を罪に問うような真似をしたくないんだよ』


「………………」

 ダイチは沈黙する。

 それだけとは思えないが、しかし罪に問われないのであれば、そこを言及して撤回されでもしたら困るので訊くのをやめた。


「機体をプレゼントって、機体を送ってくれるってことでええんやな?」


 イクミは興奮気味に訊く。イクミとしては保安の機体を色々いじくり回して遊べるので、玩具がもらえるとわかって興奮する子供のようであった。


『そういうことだね。正直君の遺伝子が登録されているから他の人間には少々扱いづらくなってしまっているからどうしようかってなっていたのが正直なところだけど』


 それを聞いて、エリスは怪訝そうな顔をする。

 ダイチは地球人で、太陽系の星々に住み着く前の本来のエヴォリシオンの力を持っている。それは今の太陽系のどの星でも失われてしまった技術であり、失われた遺伝子といってもいい。

 そんなものを登録してしまったのだから、マーズは何か知ってしまっているのではないか。

 マーズが信頼できないのではなく、彼の立場からダイチの素性は厄介なことになりそうな予感がしてしまう。


『あれはもう君の物だ。好きに使ってくれてかまわないよ』

「あ、ありがとうございます」


 ダイチはお礼をいうことの精一杯であった。というか、あまりにも身分が高すぎる皇に対してどう接していいのか、未だにわからない。


「それで、三つ目の用件って何?」

『ああ、そうだった。三つ目は……エリス、君だよ』

「私?」

『君やミリア、イクミはフォトライドの孤児院の出らしいね』

「――!」


 それを聞いて、エリス達の表情が強張る。


「なんじゃ、フォトライドというのは?」

「人の名前です……私達から手足を奪い取った張本人です」


 ミリアは憎悪をむき出しにして言う。


「そんなこと調べてたの?」

『生命を狙われた身としては気になってね。だからといって君達をどうこう言うつもりはないが』

「まあ、うちのセキュリティを突破する連中なら、うちらの素性を洗い出すのなんて朝飯前やろな」

『データバンクに残っていてね。彼が残した実験データの中に君達のリストもちゃんとあった』

「それで……その実験台にさせられた私達に何の用?」


 エリスは喧嘩腰で訊いてくる。

 ディスプレイ越しでなかったら、その胸ぐらを掴んで問いただすと言わんばかりの剣幕だ。たとえ、その相手がマーズであっても。


『いや、単純に好奇心だよ。君達はフォトライドのお眼鏡に叶うだけの『何か』があるのではないかと思ってね』

「何かって何よ?」

『それはまだわからない。ただデイエスを捕らえた君のチカラは高く評価しているよ』

「それはどうも。画面越しじゃなかったらぶん殴ってやるところよ」

「おいおいエリス……」

『ハハハ、それは失礼した。ただフォトライドのことに関しては私も知って置かなければならないからね。協力者は欲しいところなのだよ』

「つまり、こっちの情報を提供したらそっちの情報もくれるってことやな」

『それが協力というものではないかな』

「悪い話やないな……エリス、どないする?」


 イクミは決定権を持つエリスに問いかける。


「当然、その話乗ったわ」

『話が早くて助かるよ。早速私が持っている情報をアーカイブで提供しよう』

「マジで!? なんて気前ええんや、あんた!?」


 イクミは歓喜する。


「何か情報を手に入れたら、この回線で連絡をしてくれ。それでは私はこれで」


 通話が途切れる。


「いきなり超大物からかかってきて、ビックリしてしもうたで」

「火星の皇マーズか……」


 フルートは感慨深そうに言う。

 フルートも冥王星の皇。同じ皇を見て何を思うのか、ダイチには想像できない。


「何が目的なのかしら?」

「好意……というわけではなさそうですね。何やらきな臭いものを感じます」

「ま、でも、情報が手に入るならありがたいわ」

「せいぜい利用されないように警戒しつつ、うまいこと利用するべきか。ひとまず、提供されるファイルを吟味してみようか」


 イクミはファイルをタッチする。


「……解析が必要やな、忙しくなりそうやで」

 そう言ったイクミはどこか楽しげであった。

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