冬に降る暖かい雪

一条 遼

第1話

咲いた桜が散り行く春の朝。


ある日突然両親が死んだ。


なんの前触れもなく、なんの別れもなく

歩いていた所に車が突っ込んできたという


いつも通りの朝だった

いつも通り「いってきます」と告げ家を出た

もう二度と帰ってこない


2人はいなくなった。


漠然と彼はそう理解した、納得した


悲しかった、哀しかった

胸が張り裂けそうだった、憎かった、悔しかった

五体が砕け散りそうだった、分からなかった


平穏すぎる日々を生きて

平和というお湯に浸かりのぼせていた彼には

そのショックを受け止められず

どうしていいのかも分からなくなる。


その結果、彼は涙を流せなかった。




事が起きてからすぐ

警察に呼ばれる、裁判所に呼ばれる記者に囲まれる

そんな日々が続く

そのせいで心の整理をつける暇もなく

気がつけば木から葉は全て落ち

雪が降り、年が明け、新たな命が芽吹き始める

少し前の季節に変わっていた


何かを諦めた彼

冬咲螢(ふゆさきほたる)は病院にいた。


その病院で一人の彼女を見た

ベットの上で外を眺める少女を


その彼女の姿があまりにも儚く美しかった

けれど触れてしまえば壊れてしまうほど

弱々しくも見えた。



「……私に何か用?」

ふと、声がかけられる


「あっ、いや…その。」

完璧に怪しさ満点の返事だった

やってしまったと酷く後悔をした。


けれどその彼女の顔を見た時

後悔をしていたことなど頭から消えてしまった

それほどまでに彼女は、

雪風心穏(ゆきかぜしおん)は美しかった。








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