第3話 空腹な気持ち

「鍋にお湯を沸かせ」

探偵は助手に指示し、自らはボールを取り出し缶にぎっしりと詰まった小麦粉を掻き出して入れた。助手は水を張った鍋を二口しかないコンロの一つに置き、火を点火した。

「これでいいですか?」


「ああ、それでいい」

探偵は流しに片付け忘れたマグカップを手に取り蛇口をひねり、カップに水を入れた。小麦粉を入れたボールにカップに入った水を少しずつ様子を見ながら注ぎ、素手でこね始めた。


これぐらいでいい 水を注ぐのを止め粉っぽくないようにこねていった。しばらくすると手につかない程の白く丸い塊に出来上がった。

お湯が沸くまでもう少しかかったため、二人揃って余ったクルミをちびちびと食べた。


お湯が沸いた、小麦粉の塊を一口大にちぎり中央を指でへこませてからお湯の中に投入する作業を繰り返した。

五分ほど茹で、いびつな楕円形の団子が浮いてきたので一つお玉ですくい上げた。

「食ってみろ」

探偵は助手にお玉に入った熱々の団子を渡した。

助手はまだ湯気が上がる団子を軽々と手に持ち口に運んだ。

「味気無いけどもちっとしてて美味しいです」


「よくもまあ、こんな熱いのを素手で持って口に放り込めるな」


「先生が熱いのに弱いだけですよ。ほら先生も食べます?」

助手はもう一つすくい上げて探偵に渡したが、探偵は拒んだ。



鍋に入った団子を全てすくい上げた。

「確かにこのままじゃ味気無い」

探偵は調味料を再度確認し、思い出した。黒い液体の瓶を手に取り計量スプーンに注ぎ、助手に勧めた。助手は躊躇ちゅうちょ無く口にした瞬間、顔を歪ませた。


「何ですか、しょっぱ過ぎます。み、水を…」

助手は蛇口に駆け込んだ。

探偵は小皿に液体を少量を注ぎ、恐る恐る団子を摘まみ液体に浸して口に入れた。

「悪くないがこれだとしょっぱ過ぎるな水で薄めるか」

小皿に水を少しずつ入れ、再度食べたが物足りなさを感じた。

「まだ口の中がしょっぱい…甘さを足してみるか」

小さな鍋に黒い液体、砂糖、水を加え混ぜたものを二人は団子に浸けて食べた。

「いける」

二人は顔を合わせた。

「甘くてしょっぱくて美味しい」


「ああ、これは旨い。温めればもっと旨いかもしれない」


「全部この鍋に入れちゃいましょう。味が染み込むかも」


「どうせならとろみをつけよう、片栗粉があったはずだ」


「まだクルミが残ってるので少し砕いて入れてみてはどうですか」

会話に花が咲いた。

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