実写化できない、私の日常。
荒川 麻衣
第1話 ガラスの動物園
「あなたの人生において、あなたは主役で、俳優です。」
火曜日の朝は、岩手県出身、平成生まれの俳優、松村龍之介がそう話すのを聞いてから仕事に行く。
「母さんは僕が仕事に首ったけだと
思っているのかい?
僕は仕事に行く!」
と、「ガラスの動物園」のトムみたいに私は毎日、仕事に行く。
しかしながら、その仕事と言うのは、
国家から与えられた社会奉仕活動である。ボランティア、ノーギャランティー、良心的に徴兵を拒否した場合にのみ適応される、奉仕活動であり、無報酬の仕事だ。
軍人というのはためらいもなく人を殺せると思いがちだが、それはわずかな人殺しに特化した人間だけで、大抵の場合、戦場に出た瞬間、人は狂うのだ。
軍人に職業適性が出た私に良心的な兵役の拒否、という選択肢は残されていなかった。すなわち、軍人というのは誰もがやりたがらない仕事がゆえに、ひとりでも適性が出たら死ぬまで首輪をつけられるのがルール、決まり事だから、人殺しに適性があるサイコパス、ひとでなしを社会で飼うために、ある仕事を命じられた。それは、間接的に人の首を絞める仕事。精神治療所への永久追放でなく、開放的な自治体の犬、猟犬、いや。豚とでも言おうか。一段落劣った人間どもにふさわしい、との判断だろう。
その仕事は、すなわち、水道の支払いがとどこおった人間の元栓をしめるだけ、水がなければ1週間で死ぬ生物たるホモ・サピエンス、考える人を地獄に突き落とす仕事である。誰もやりたがらない危険な仕事で、過去には爆弾を投げつけられただの、貯水槽に突き落とされて死体として発見された時には歯しか残っていなかっただの、物騒な話しか聞いたことない。
要するに、社会での私の価値は、軍人適性が有効で、軍事的手段ー要するに外交というのは、他者を外国の人間に適用することでそうおこなわれる。
銃が手元になくても、たとえアニメに出てくる、PSYCHO-PASSというマンガに出てくるドミネーター、あれは犯罪係数を速やかに計測するがソシオパスに口づけする銃である。つまり。シビュラ。女神様は気のふれた人間をそばに置きたいがゆえに天秤に細工を加えたのだ。
なぜかこの世に均衡をもたらすのは神話では女神様と決まっており、伝説の国、あるかどうかすら誰も見たことない聯合大国、邪馬台国。や、ま、た、い、という4つの国をまとめてできた帝国である、というのが最近の学説らしい。
ウィキマニアで読んだ。
つまり、この英語ではジャパン、フランス語ではジャポンと称される国家は昔から連合国家、ユナイテッドネーションと呼ばれるが、どちらかといえば、オーストリア=ハンガリー帝国だと考えた方がしっくりくる。つまり、ジャパニーズヒストリー、日本史の最大の謎の一つ、
「なぜ冲城県に風土記が残されているか」を解く鍵のひとつではある。
冲方丁(うぶかたとう)のうぶに、城の崎にてのき、と書いて「むなしろ」と読ませるこの県は、かつて東啓介のひがしに城田優のしろと書いて、とうじょうと呼ばれていた。
それをよく思わない一部の内務省の人間は、作者不詳と称して尋常小学校の音楽の教科書に「むねがしろきはむなしろか」のはやし歌を作り上げた。
元からなかった、「源義経はジンギスカンである」学説が明治期にできたように、東城はもとはむなしろだった、との学説が生まれた。
確かにむなしろは、風土記の時代には「むなしろ」と呼ばれていたが、万葉仮名の時代だし、そう呼ばれていたかどうかはわからない。
明から亡命してきた学者によれば、水戸城は「東城」と呼ばれていたのだから。皇帝に近い存在と思われており、歴代藩主は賢帝とほまれだかい建文帝にまさるとも劣らないと称されていた。
そう言った歴史を踏まえて考えれば、歴史的に低い地位に甘んじ、いわゆる「ロマンティックな都道県ランキング」において、万年最下位なのも納得が行く。
私は毎日、ポルトガル語でハポンと称される国家で、万年最下位のクニ、冲城県、むなしろプリフェクト、弥刀市、ミトシティの、市役所、パブリックサービスディストリクトで働いている。
無報酬なのは、この仕事がいわゆる超内会、ヒーロー業務も兼ねているからだ。
つまり、私の暮らしは、一定の衣食住を担保する社会保障は用意するという、ベーシックインカムシステム、健康で福祉的な最低限度の生活を送れる代わりに、パヴリックサーヴァント、公僕として飼い慣らされる獣である。
ところで、私には秘密がある。
プレディクトZ。
入庁、つまり、この市役所で仕事する前にいわゆるプレディクトテスト、ゾンビ化検診にひっかかり、現在も進行中の病、いわゆるゾンビウイルス感染者で、10年以内に、私はゾンビになる。
それを止める薬は現段階では違法で処方された漢方薬でしか止める薬がなく、私は月5万円、薬を飲んでいる。
しかしながら、強力過ぎる其の薬には副作用が存在し、飲むと必ず眠くなる。
全身弛緩をうながすため、常に緊張状態でいる必要があり、眠気との戦いに日々追われている。
笑っちゃうだろ。町内会の垣根を越えて働くから超内会という名前がついていて、支給品は「ヒーロー」と書かれているジャンパー、外套なのに、どうして。
ゾンビが市民の平和を守っていることは、誰も知らない秘密で、この物語は、誰も読むことのない物語だが、業務日誌として、後世に残すための記録として。
むなしろ風土記に載っただいだらぼうが有澤樟太郎の好きなジブリ映画、もののけ姫に出てくるように、もしかしたら、千年後の誰かを未だに動かす源氏物語、竹取物語。
一部しか残っていないにもかかわらず国境を越えるシェイクスピアやギリシャ悲劇、歌舞伎、能、ミュージカル刀剣乱舞、スーパー戦隊のように。
死ぬまでのカウントダウンは、ゾンビ化するまでの兆候、サインはもういくつも出ていて、化粧でもうごまかせなくなってきた。
ファンデーション、おしろいの色がどんどん合わなくなってつらい。
安い値段であっても、1ヶ月経つたびに色が白くなる。ひどい時には1週間。
ねぇ。いつまで私は。
雨が降る
深夜のラジオ
月曜日の深夜、火曜日の午前、真夜中午前3時に響くラジオは横浜の短波系ラジオ。
技術の進歩には感謝する。スマートフォン、お利口ちゃん電話のおかげ。全国でお気に入りの番組が聞けるのだから。
ミッドナイトレディオ。
ヘドウィグと怒れる1インチ、つまり3センチ。
私は有澤樟太郎さんの声で想像する。
私は松村龍之介さんの声で妄想する。
私は矢崎広さんの声をあてはめる。
私は東啓介さんの声で演じる姿を想像してみる。
私は染谷俊之さんの声で読まれる日を夢想してみる。
しかしもう、その時を待てない。
自分と同じ子役だった三浦春馬くんは死んだ。自分より後に芸能界デビューした人も、ずっと前から芸能界にいる人も死んだ。
みんながみんな、苦しんでいる中で、私だけ生き残っているのは何かの間違いだ。だから、私は、自らの存在を消す。
地球だって嬉しいはずだ。
友達だって親だって同僚だって上司だって先輩だって、みんながみんな私の死を望んでいて、ほら、私1人が死んだら財産が転がるから。
危険手当の分。
私はヒロインじゃなくて、ヒーローにずっとなりたかった。
ねぇ、知ってる。ヘロインとヒロインって同じ言葉なんだよ。ヒーローは薬物の名前にないのに、ヒロインは薬物の名前としてつけられる。
ラ・トラヴィアータ、道を踏み外した女、椿姫。
ファム・ファタール、運命の女。
魔女。誘惑する女。
反対に男は、女を魅惑するチャームする総称も誘惑する男という存在もなく、女だけが規範を求められる。
男を誘惑せず、色欲にふけることなく、聖人で聖母で処女であれ、そして子供を増やしてほしい。
あきれるほどに一部の男たちは愛のままにわがままだ。
ファンなんていない。
私が死んだところで悲しむ人はいない。
「あなたの人生において、あなたは主役で、俳優です。」
火曜日の朝は、岩手県出身、平成生まれの俳優、松村龍之介がそう話すのを聞いてから仕事に行く。
「母さんは僕が仕事に首ったけだと
思っているのかい?
僕は仕事に行く!」
と、「ガラスの動物園」のトムみたいに私は毎日、仕事に行く。
しかしながら、その仕事と言うのは、
国家から与えられた社会奉仕活動である。ボランティア、ノーギャランティー、良心的に徴兵を拒否した場合にのみ適応される、奉仕活動であり、無報酬の仕事だ。
軍人というのはためらいもなく人を殺せると思いがちだが、それはわずかな人殺しに特化した人間だけで、大抵の場合、戦場に出た瞬間、人は狂うのだ。
軍人に職業適性が出た私に良心的な兵役の拒否、という選択肢は残されていなかった。すなわち、軍人というのは誰もがやりたがらない仕事がゆえに、ひとりでも適性が出たら死ぬまで首輪をつけられるのがルール、決まり事だから、人殺しに適性があるサイコパス、ひとでなしを社会で飼うために、ある仕事を命じられた。それは、間接的に人の首を絞める仕事。精神治療所への永久追放でなく、開放的な自治体の犬、猟犬、いや。豚とでも言おうか。一段落劣った人間どもにふさわしい、との判断だろう。
その仕事は、すなわち、水道の支払いがとどこおった人間の元栓をしめるだけ、水がなければ1週間で死ぬ生物たるホモ・サピエンス、考える人を地獄に突き落とす仕事である。誰もやりたがらない危険な仕事で、過去には爆弾を投げつけられただの、貯水槽に突き落とされて死体として発見された時には歯しか残っていなかっただの、物騒な話しか聞いたことない。
要するに、社会での私の価値は、軍人適性が有効で、軍事的手段ー要するに外交というのは、他者を外国の人間に適用することでそうおこなわれる。
銃が手元になくても、たとえアニメに出てくる、PSYCHO-PASSというマンガに出てくるドミネーター、あれは犯罪係数を速やかに計測するがソシオパスに口づけする銃である。つまり。シビュラ。女神様は気のふれた人間をそばに置きたいがゆえに天秤に細工を加えたのだ。
なぜかこの世に均衡をもたらすのは神話では女神様と決まっており、伝説の国、あるかどうかすら誰も見たことない聯合大国、邪馬台国。や、ま、た、い、という4つの国をまとめてできた帝国である、というのが最近の学説らしい。
ウィキマニアで読んだ。
つまり、この英語ではジャパン、フランス語ではジャポンと称される国家は昔から連合国家、ユナイテッドネーションと呼ばれるが、どちらかといえば、オーストリア=ハンガリー帝国だと考えた方がしっくりくる。つまり、ジャパニーズヒストリー、日本史の最大の謎の一つ、
「なぜ冲城県に風土記が残されているか」を解く鍵のひとつではある。
冲方丁(うぶかたとう)のうぶに、城の崎にてのき、と書いて「むなしろ」と読ませるこの県は、かつて東啓介のひがしに城田優のしろと書いて、とうじょうと呼ばれていた。
それをよく思わない一部の内務省の人間は、作者不詳と称して尋常小学校の音楽の教科書に「むねがしろきはむなしろか」のはやし歌を作り上げた。
元からなかった、「源義経はジンギスカンである」学説が明治期にできたように、東城はもとはむなしろだった、との学説が生まれた。
確かにむなしろは、風土記の時代には「むなしろ」と呼ばれていたが、万葉仮名の時代だし、そう呼ばれていたかどうかはわからない。
明から亡命してきた学者によれば、水戸城は「東城」と呼ばれていたのだから。皇帝に近い存在と思われており、歴代藩主は賢帝とほまれだかい建文帝にまさるとも劣らないと称されていた。
そう言った歴史を踏まえて考えれば、歴史的に低い地位に甘んじ、いわゆる「ロマンティックな都道県ランキング」において、万年最下位なのも納得が行く。
私は毎日、ポルトガル語でハポンと称される国家で、万年最下位のクニ、冲城県、むなしろプリフェクト、弥刀市、ミトシティの、市役所、パブリックサービスディストリクトで働いている。
無報酬なのは、この仕事がいわゆる超内会、ヒーロー業務も兼ねているからだ。
つまり、私の暮らしは、一定の衣食住を担保する社会保障は用意するという、ベーシックインカムシステム、健康で福祉的な最低限度の生活を送れる代わりに、パヴリックサーヴァント、公僕として飼い慣らされる獣である。
ところで、私には秘密がある。
プレディクトZ。
入庁、つまり、この市役所で仕事する前にいわゆるプレディクトテスト、ゾンビ化検診にひっかかり、現在も進行中の病、いわゆるゾンビウイルス感染者で、10年以内に、私はゾンビになる。
それを止める薬は現段階では違法で処方された漢方薬でしか止める薬がなく、私は月5万円、薬を飲んでいる。
しかしながら、強力過ぎる其の薬には副作用が存在し、飲むと必ず眠くなる。
全身弛緩をうながすため、常に緊張状態でいる必要があり、眠気との戦いに日々追われている。
笑っちゃうだろ。町内会の垣根を越えて働くから超内会という名前がついていて、支給品は「ヒーロー」と書かれているジャンパー、外套なのに、どうして。
ゾンビが市民の平和を守っていることは、誰も知らない秘密で、この物語は、誰も読むことのない物語だが、業務日誌として、後世に残すための記録として。
むなしろ風土記に載っただいだらぼうが有澤樟太郎の好きなジブリ映画、もののけ姫に出てくるように、もしかしたら、千年後の誰かを未だに動かす源氏物語、竹取物語。
一部しか残っていないにもかかわらず国境を越えるシェイクスピアやギリシャ悲劇、歌舞伎、能、ミュージカル刀剣乱舞、スーパー戦隊のように。
死ぬまでのカウントダウンは、ゾンビ化するまでの兆候、サインはもういくつも出ていて、化粧でもうごまかせなくなってきた。
ファンデーション、おしろいの色がどんどん合わなくなってつらい。
安い値段であっても、1ヶ月経つたびに色が白くなる。ひどい時には1週間。
ねぇ。いつまで私は。
雨が降る
深夜のラジオ
月曜日の深夜、火曜日の午前、真夜中午前3時に響くラジオは横浜の短波系ラジオ。
技術の進歩には感謝する。スマートフォン、お利口ちゃん電話のおかげ。全国でお気に入りの番組が聞けるのだから。
ミッドナイトレディオ。
ヘドウィグと怒れる1インチ、つまり3センチ。
私は有澤樟太郎さんの声で想像する。
私は松村龍之介さんの声で妄想する。
私は矢崎広さんの声をあてはめる。
私は東啓介さんの声で演じる姿を想像してみる。
私は染谷俊之さんの声で読まれる日を夢想してみる。
しかしもう、その時を待てない。
自分と同じ子役だった三浦春馬くんは死んだ。自分より後に芸能界デビューした人も、ずっと前から芸能界にいる人も死んだ。
みんながみんな、苦しんでいる中で、私だけ生き残っているのは何かの間違いだ。だから、私は、自らの存在を消す。
地球だって嬉しいはずだ。
友達だって親だって同僚だって上司だって先輩だって、みんながみんな私の死を望んでいて、ほら、私1人が死んだら財産が転がるから。
危険手当の分。
私はヒロインじゃなくて、ヒーローにずっとなりたかった。
ねぇ、知ってる。ヘロインとヒロインって同じ言葉なんだよ。ヒーローは薬物の名前にないのに、ヒロインは薬物の名前としてつけられる。
ラ・トラヴィアータ、道を踏み外した女、椿姫。
ファム・ファタール、運命の女。
魔女。誘惑する女。
反対に男は、女を魅惑するチャームする総称も誘惑する男という存在もなく、女だけが規範を求められる。
男を誘惑せず、色欲にふけることなく、聖人で聖母で処女であれ、そして子供を増やしてほしい。
あきれるほどに一部の男たちは愛のままにわがままだ。
ファンなんていない。
私が死んだところで悲しむ人はいない。
私は30歳になった。もう、おばあちゃんで、美しさに何の価値も求めていない!
ならば、死のう。
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