第74話 天道と黒龍<前>
夜が明け始める頃には全員が食事をとり終え、セツカの万全とまではいかないもののある程度回復することができたという言葉を信じ、僕たちは一度ソールへと帰路についた。
ソールではティア、ネイア、ラナたちは寝ずに待ってくれていたようで、僕たちの帰還を泣いて喜んでくれた。
「シズク、セツカ殿っ! 無事に帰ってきてくれて良かったのじゃ……」
「ヒドラ討伐、お疲れ様でした。本当にご無事で何よりです……」
「遅いから心配したよっ! シズク君のばかっ……!」
「心配かけてごめんね……。ちょっといろいろあって、時間がかかっちゃったんだ。事情を説明する前に、まずは紹介するよ。こちら、僕たちの新しい仲間になってくれたシオン」
「初めまして、可愛らしいお嬢様方。うちはご主人様よりシオンの名を頂いた、ヴァイオレットヴェノムーー紫龍や紫死毒と言った方がわかりやすいかしら? セツカと同じ龍だけど、よろしくねぇ」
「「「りゅ、龍?!」」」
シオンの自己紹介に驚く三人。
ま、そりゃそうだよね……。
それから今回のあらましと、今後のことも話すために騎士団の人たちと別れた僕たちは、大公邸へと戻った。
エンペラート陛下を始めとしたレスティエ様、ベルモンズ宰相、グラーヴァさん、コアンさんも寝ずに帰りを待ってくれていたようで、すぐに顛末を聞かせて欲しいと朝早いにも関わらず集まってくれることになり、リルノード公の執務室に移動。
リルノード公の言葉に各々違う反応を見せながらも、アッシュヴァイオレンスドラゴンやシオンのことを説明されると、またか……と言いたげな意味深な視線を僕に向けてきた。
「ふぉふぉふぉ。シズクは相変わらず、底が見えんのう」
「セツカ殿に続き、シオン殿まで……。どこまで増えるのか、逆に楽しみね」
陛下とレスティエ様は楽しそうに笑い合っているけど、どこか現実逃避しているようにも見える。
ベルモンズ宰相は頭を抱えているし、コアンさんなんて目を見開いたまま固まってるからね。
「しかしアスリよぉ。灰龍がワシらが討伐したあの黒龍より強かったって、マジなのか?」
「マジもマジ、大マジだよ。別格とまでは言わないけどね、なんていうか力の規模が違う感じかね」
「ありゃー凄かったぞ。あれが街中で暴れたらなんて、考えるだけで笑えないぜ」
アスリさんの言葉に激しく同意するガレリアさん。
その姿を見て、当時を思い出してかグラーヴァさんは眉間に皺を寄せた。
「お前たちが討伐したという黒龍は、目元に一本傷のあるやつだろう?」
「ああ、そうだが……知ってんのか?」
グラーヴァさんが答えると、神妙な面持ちでコクリとうなずき返すセツカ。
「件の灰龍だがな。お前たちが討伐した黒龍、その子供なのだぞ」
「何……?」
「そしてあ奴は……我よりも強かった。とても優しく、強く、誇り高く……偉大な龍だったのだ。灰龍なぞとは比べ物にならんくらいな。あの事件が起こるまでは、だが」
「そう……。見かけないとは思っていたけど、ブラックマリアは討たれていたのね……。でも、その方が良かったのかもしれないわ」
セツカの言葉に、腑に落ちた様子のシオンは少し寂しそうに天を見上げた。
「優しいだぁ……?! あの龍は魔物を大量に引き連れて人間を襲い、一国を滅ぼしかけたんだぞ! それとも、龍からすればその程度のことは日常茶飯事っつーことかよ?!」
ただ、納得がいかないガレリアさんはセツカをキツい視線で睨みつける。
「あの事件が起こるまでは、と言っただろう。だいたい、事情を知りもせずに側面だけしか見ておらんお前たちが、あ奴をーー」
「セツカ、少し落ち着きなさいな。事情を知らない人間側からすれば、突然襲ってきた脅威に違いないのはわかっているでしょう?」
セツカの言葉を途中で遮り、諭すような咎めるシオン。
一度目を閉じて気持ちを落ち着けたセツカは、すぐに冷静さを取り戻した。
「……そうだな。つい感情的になってしまったようだ」
「気持ちはわからなくもないけどね。ブラックマリアはうちたちに強い影響を与えていた、カリスマ的存在だったもの。うちもご主人様がいなきゃ、ひと暴れしてたかもしれないわ。その辺、少しは理解しなさいな?」
シオンの静かな怒りに、ガレリアさんは気圧された様子で悔しそうに黙り込む。
「セツカ、シオン。良かったら、黒龍ーーブラックマリアさんのことを教えてくれないかな?」
セツカとシオンがここまで感情的になる理由を、そして黒龍が人間を襲った理由を、僕はーー僕たちは知らなければならないと思った。
それはアスリさんやグラーヴァさん、エンペラート陛下たちも同じだったようで、静かに二人を見つめている。
「……わかりました。聞いていてあまり面白い話ではないと思いますが、良ければあ奴のことを知ってあげてください。あ奴はーー」
そこから、セツカとシオンは交互に語りながら、ブラックマリアドラゴンのことを教えてくれた。
とても強く、気高く、何よりも『愛』を理解していたとても稀有な龍であったこと。
同族である様々な龍に、他種族との調和の重要性を語り、『愛』を知るべきだと必死に力説していたこと。
龍としては異端だが、
その番は老竜であったが知性が非常に高く、ブラックマリアドラゴンの考えに深い理解を示し、とても仲睦まじかったこと。
番の竜との間には三体の子龍が産まれ、そのうちの一体が灰龍であること。
『愛』を知るからこそなのか、番と共に子育てにも尽力していたこと。
そんな彼女に、ある日悲劇が起きたことーーー。
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本日よりストックが尽きるまで、月・水・金・日の週4回更新にしようと思います!
今後とも当作品をよろしくお願いします。
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