第52話 少し強いくらい
翌日。
ティアたちと合流した際、思わずあくびを噛み殺した僕を見て何かを察した二人に、ニヤニヤと笑われてしまった。
セツカはきょとんとしていたので、気づいていないみたいだけど。
ラナも二人の反応に気づき、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
気恥ずかしくなった僕は空気を切り替えるべく、早々にエンペラート陛下の元へ向かうことを提案。
陛下のご好意で朝食を共にさせてもらい、なんとか話題を逸らすことに成功した。
朝食のメニューがセツカの切な希望により、
程なくしてリーゼルン公国との待ち合わせ場所に赴くと、すでにコアンさんたちが準備を済ませて待っていた。
「おはようございます、エンペラート皇帝陛下。並びにウェルカ帝国の皆様。改めて、この度は我が国へのご支援、感謝致します」
「ホッホッホ。まだ向かうことを決めただけで、何も成してはおらんのだ。気が早いのう」
「それでも、です。他の国も支援の確約こそしてくれましたが、その足でそのまま支援に向かう決断をしていただけたのはウェルカ帝国だけですから」
コアンさんは表情を崩さずそう告げたけど、その声にはどこか憂いが宿っているように思えてしまった。
もちろん、他国の判断も間違いではないと思う。
どの国もそれなりの数の護衛を連れてきてはいるけど、それはあくまで王や重臣の護衛が目的であって、支援に回せばそれだけ自分たちの身を危険に晒すことになるからね。
コアンさんからすれば一国だけでもすぐに加勢に来てくれる事は僥倖なんだろうけど、本音を言えばすぐに問題を解決できるだけの支援を取り付けたかったはずだ。
だけど、そこに誰も予想していなかった人物が現れたことで激震が走る。
「コアン殿、ここにいたのか。エンペラート陛下もご一緒とは、もしや我が国と同じ理由ですかな?」
「これは、ロド国王陛下。どうされました?」
「なに。昨日のコアン殿の嘆願を受け、一晩家臣たちと話し合いましてな。少数ではありますが、我が国の騎士団から人員を派遣することになったので伝えに来たのだよ」
ロド王はそう告げると、背後に控えていた立派な鎧を見に纏う人物を呼び寄せた。
「お初にお目にかかります、エンペラート陛下。コアン殿。ネーブ王国近衛騎士団団長、リキミと申します」
「リキミとその部下を5名、連れて行くと良い。計6名ではあるが、その実力は折り紙つきだ。必ずお役に立てるだろう」
ビシッと6人が一斉に敬礼してみせる。
「感謝致します、ロド国王。ですが、宜しいのですか? 団長殿を派遣していただいて」
「なに、かまわん。我が国には優秀な騎士が多い。ワシらの護衛も、副団長のミハエルが指揮を取ることになっている。気にせずに連れて行くと良い」
「……お心遣い、感謝致します」
「うむ。して、エンペラート皇帝がおると言う事は、ウェルカからも支援を派遣されるのだろう?」
「もちろんじゃ。友好国であるリーゼルンの現状をなんとか出来ないかと思っての。どこまで力になれるかはわからんが、助力を決めたのだ」
「その通りですな。その辺りも含め、これから茶でも飲みながら少し話せませんかな?」
「ホッホッホ。有難い申し出ではあるが、お断りさせて頂こう。これから、コアン殿と共にリーゼルンへ向かう予定での」
「な?! 皇帝自ら赴くと?!」
「さすれば、余の護衛をそのまま支援へと充てられるであろう?」
「そ、それはそうですが……。御武運をお祈り申し上げる」
グッと悔しそうに歯噛みしたロド王は、そう言い残すとリキミさんたちを残してその場を後にした。
リキミさんたちもすでに出立の準備は済ませているようで、ややあったもののリーゼルンへと出発した僕たち。
道中はゼニーへと向かって来た時と同じように、僕が先頭でティアたちが左右と後ろへついている。
本当はコアンさんもエンペラート陛下たちと一緒に部隊の中心で移動するはずだったんだけど、本人の強い希望で僕が乗り込んでいる馬車に同乗していた。
「座り心地はどうですか?」
「お陰様で、この上なく快適だよ……。信じられないくらいにな」
コアンさんは真顔のまま何度も座席の感触を確かめている。
僕が乗り込んでいる馬車は他より多少グレードは高いものの、それでも重臣の人たちが乗るようなクラスのものではないからね。
少しでも快適に移動してもらおうと、ベッドと似たような感じの座席を即席で用意したんだけど、満足してもらえてるようで良かった。
「リキミさん、直に魔物とぶつかりそうです。数は20、そのうち一体は他より大きいですね」
「……本当か? おい、どうだ」
「いえ、私はまだ索敵できてません……」
隣を並列して馬に乗り進むリキミさんに声をかけると、部下の女性に目配せして確認。
女性が首をよこに振ると、僕をキッと睨みつけてくる。
「……どう言うつもりだ?」
「と言われても……」
「お待ちください、団長! 本当です、数までは把握できませんが魔物の反応がありました!」
「なにっ?!」
怪訝そうな表情で一瞬僕をみたリキミさんは、すぐに部下の人たちに戦闘準備の合図を出す。
それからすぐに、こちらに向かって走って来るアースウルフの群れを目視で確認できた。
「チッ、グランドウルフがいるぞ! 俺が前に出て時間を稼ぐ、お前らはなんとしてもコアン殿を守りながらこの場を離脱しろ!!」
決死の表情で叫ぶと、剣をグッと握りしめ僕たちの馬車へ視線を向けるリキミさん。
「コアン殿、なんとしても無事にリーゼルンへとお戻りください。部下のことを宜しくお願いします」
「リキミ殿、私の事は構わず全員で挑めば……」
「アレはそんな甘い相手じゃないのですッッ!!」
一際大きな個体ーーグランドウルフを睨み、叫ぶリキミさん。
確かに、身体だけはすごく大きいみたいだ。
おそらく全長10mくらいあるんじゃないかな。
でも、サイクロプスより少し強いくらいだと思うんだけどなぁ。
「あれくらいなら僕一人で大丈夫ですよ」
「は? なに言って……」
目を見開き固まるリキミさん。
「シズク殿はグランドウルフを一人で討伐できるのだな?」
対照的に、コアンさんは冷静に僕へ尋ねた。
「はい、問題ないです。ちょっと行って来ますね」
この場をリキミさんに任せると、馬車から空中へと飛び上がってウルフの群れへと突っ込んだ。
撃ち漏らすとコアンさんたちを危険に晒してしまうので、まずは水魔法で波を作り出しグランドウルフもろとも群れを飲み込ませ、そのまま水の形を変えて水牢に閉じ込める。
あとは水刃で喉元を切り裂けばお終いだ。
「お待たせしました」
死体が浮かぶ大きな水牢を引き連れ戻ると、コアンさんが初めて感情を顕にして驚いた表情を浮かべていた。
リキミさんは部下たちと目を合わせたあと、乾いた笑いを浮かべる。
「ハハ……こいつはヤベェな……」
その瞳は、いつぞやのフェーサルさんと同じ目をしていたーー。
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