第19話 世紀末スタイル


 サンダーバードのあまりの美味しさに、まさか夢にまで見るとは思わなかった。


 それはティアとネイアも同じだったようで、寝起きにも関わらず三人そろってお腹がグーと鳴ったのは秘密だ。

 


 朝早くから出発した僕たちは、昼過ぎにようやくヘスキンさんに聞いていたダンジョンへとたどり着いた。


 冒険者らしき恰好の人たちが多く、近くには露店なども並び非常に賑やかだ。


 腕試しに来ている人、お宝目当ての人、ダンジョン攻略者の箔をつけに来た人。理由は様々なんだろうけど、一様に目をギラつかせていてどこか近寄りがたい雰囲気がある。


 ただ、ティアにはそんなこと関係ないようで一目散に露店のほうへと走って行ってしまった。ネイアも「お待ちくださいお嬢様ー!」なんて言いながら追いかけていってしまったので、僕は一人置き去りにされ立ち尽くしている。そう、こんな場所で一人ぼっちなのだ。


「おうおう、なんだか弱っちそうなガキがいるぜー? なんだよ、ママについてきちまったのか??」


「あぁん、ガキなんている訳が……ってマジじゃねぇか! ずいぶん不用心だなぁ?!」


 ああ……言わんこっちゃない。思いっきり絡まれてしまった。


 紫色の髪をトサカのようにモヒカンにしている上半身半裸の男と、まるでパイッナプルの実のように頭頂部だけ残した髪を上へと爆発させている黄色髪の男。


 あれ……ここは物語に出てくるような、世紀末時代だったかな。


「おいおい、なんだよオレらにびびっちまったかぁ?」


「こんなところで弱いもんいじめみたいなことすんじゃねーよ! おら、がきんちょ。ちょっとあっちにいこうぜぇ?」


 何を言っても逆上させてしまいそうだと考え込んでいた僕を、どうやらすくみ上って言葉もでないと勘違いした彼ら。


 僕が逃げられないようになのか肩へとガッチリ腕を回すと、歩き出してしまった。


 どこに連れて行かれるのだろうか……。


「うぉい、メレッタさんよぉ。こいつを見てくれよぉ」


「びびって黙り込んじまってんだ。かわいいだろぉ??」


 二人はダンジョンの入り口から少し離れた場所に建てられていた石造りの小屋まで僕を連れてくると、中に居た黄緑色の髪をおさげにしためがねの女性へと声をかけた。


「あんたたち何言って……って、何この子?! え、何?! ついに誘拐犯になったの?!」


「んなわけねぇだろうがよぉ! 親とはぐれちまったのか、一人立ち尽くしてたから連れてきたに決まってんだろぉ!」


「そうだぜぇ! ここなら保護してくれると思ったのに、なんつー言い草だよぉ!」


 んんん……?

 悪漢じゃない……?


 僕が予想外の出来事にきょとんとしていると、女性が僕の前で屈みこみ心配そうに身体をチェックしていく。


「そうならそうと早く言いなさいっ! ボク、大丈夫?? 誰かと一緒に来たの? 怪我とかしてない??」


「あ、はい……。僕は大丈夫です。それと、連れはいますが別に迷子とかではないです」


「あら、そうなの……。ひとまず、ギャレルとブリームはありがとね。私が預かるから心配しなくて大丈夫よ」


 女性が二人にそう告げると、ならあとは頼むぜぇ! と僕の頭を乱暴にわしゃわしゃしてから去って行った。


 二人を見送りながら、心の中で見た目で判断してしまってごめんなさいと謝っておく。


「改めて、私はメレッタ。このダンジョン――プーテル第一ダンジョンの管理を任されている、ギルドの職員よ」


「ご丁寧にありがとうございます。僕はシズク、一応冒険者? です。ここへはプーテルに向かう途中に立ち寄りました」


「あら、そうだったのね。まったく、話を聞きもせずに連れてくるなんて、ほんとにバカなんだから」


 メレッタさんはそう言いつつ顔は笑っているので、きっと悪い関係ではないのだろう。


「いえいえ、僕が二人にびっくりしてしまって、声が出せなかったので。良い人たちなんですね」


「ああ、あの二人は見た目が凄いからね。紫髪のほうがギャレル、黄色髪のほうがブリームっていうのよ。あんなナリしてるけど根は良いやつらだから、もしまた会うことがあったら普通に接してあげてくれると嬉しいな」


「はい、もちろんです。それより――」


 僕がダンジョンのことを少し聞こうかと思っていた所、外から怒声が響いてきた。


 慌ててメレッタさんと共に外に出ると、露店のほうで人だかりができている。複数人の男性が怒鳴っている声が聞こえるので、喧嘩か何かだろうか。


 そんなことを思っていたのに、聞き覚えのある声が聞こえてきて僕は急いで駆けだした。


「だから興味ないと言っておるじゃろうがっ! 妾たちにはすでに心に決めた者がおるっ!」


「あぁん?! どうせへなちょこな野郎なんだろ?! 俺たちが本当の男ってもんを教えてやるから、黙ってついてくりゃいいんだよ!」


「お嬢様の手を放しなさい、この下種がっ!」


「おぉ、メイドの姉ちゃんも威勢が良いねぇ! そーゆー女は大歓迎だぜ!」


 どうやら真昼間から酔っぱらっている冒険者たちにティアとネイアが絡まれているらしい。


 ネイアは二人掛かりで両腕を押さえつけられていて、ティアも掴まれた腕を振り払おうと必死に抵抗しているが力では敵わないようだ。


 さすがに魔法を使ったら殺しちゃうしだろうし、打つ手がないんだね。


「あのー、すみません。二人は僕の連れなので、その手を離してもらっていいですか?」


「シズクっ!」 「シズク様っ!」


 二人が僕を見つけて名前を呼ぶと、男たちも一斉に僕のほうへと視線を向けた。


「あぁん?! あんなガキがこんな上玉たちの連れぇ?? こりゃ傑作だ! お前にゃもったいねぇから、俺らがもらってやるよ! だから怪我しないうちにさっさと消えな!!」


「僕は離してください、と言ったんですが。話し合いよりも、力尽くのほうがお好みですか?」


「くそ生意気なガキが! どうやら世間の怖さをしらねぇらしいな。おいお前ら、やっちまえ!」


 ティアの手を掴んでいた男がそう言うや否や、周りにいた男たちが三人、僕目掛けてナイフ片手に突っ込んできた。


 すぐさま戦闘態勢を取った僕は、わざとナイフをギリギリで躱して頬に切り傷を作ったあと、次々に三人のみぞおちへと拳を突き立て悶絶させていく。


「な?! なんだてめぇ、何もんだよ!!」


「あなたが知る必要はないですよ?」


 驚愕の表情を浮かべた男に一瞬で肉薄すると、ティアの手を掴んでいた手を思い切り握りしめた。


 痛みで手を離したところへ、同じくみぞおちに拳を叩き込む。


 ネイアを押さえつけていた二人は勝てないと悟ったのか、慌てて逃げ出そうとするけどそうは問屋が卸さない。


 彼らの足元に地魔法でわずかにくぼみを作り、つまずいて体勢が崩れたところを土で拘束。


 なんとか逃げ出そうとする彼らに近づき、みぞおちを蹴り上げて動けなくしてやった。


「大丈夫? 二人と――」


 制圧を終え、二人に向き直り様子を聞こうとした瞬間二人が僕の胸に飛び込んできた。


「シズクぅぅううう! 凄く怖かったのじゃぁ!!」


「シズク様、助けてくださりありがとうございますっっ!」


「気づくのが遅くなってごめんね。二人が無事でよかったよ」


 僕がティアとネイアの頭を優しく撫でると、二人はさらに力強く抱き着いて来るのだった―――。

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