第18話 よろしくないセリフ


 ティアとネイアからのやや冷ややかとも思える視線を無視し、どうせならと他の属性でもマジックボックスを真似ていった結果、『ファイアボックス』『ウォーターボックス』『ウィンドボックス』『アースボックス』が完成した。


 属性同士を掛け合わせて一時的に合体させる、『複合属性』でも作れそうな感じはあったんだけど、現状4つも収納スペースが増えたので見送ることにした……というのが建前。


 本当は、追加で作ったマジックボックスを二人に報告したところまるで変人でも見るかのような視線を向けられたからだ。


「いくらなんでもそれは……ぶっ飛びすぎてて、かける言葉が見つからんのじゃ……」


「世の『魔導』『天道』たちが聞いたら、卒倒するか異端者として裁きに来るか……想像したくもないですね……」


「……黙っておきます」


 というのが、つい先ほどのやり取り。

 二人の目から本当にドン引きしている様子がひしひしと伝わり、非常につらかった。


 『魔導』『天道』っていうのは、今の魔法を使える中でもトップを務めている英傑の総称で、ティアたちの故郷である魔界のトップたちは『魔導』、人間界のトップは『天道』と呼ばれている。


 それぞれの属性――『火』『水』『風』『地』『光』『闇』『無』、そして複合属性の『氷』『木』『雷』から一人ずつ選ばれ、10人ずつの計20人存在している訳だけど、そんな人たちならこれくらいのこときっとできるに決まってるのに。


 口にすると二人に言いくるめられそうなので言わないけど、やっぱり少し不満だった。


 そんなこんなで再び目的地へと進み始めた僕たちは、日が落ちて野営の準備を済ませると、ようやくお待ちかねの食事タイムがやって来た。


「サンダーバードなぞ、初めて食べるのじゃ……。ど、どんな味なのかのう?!」


「お、落ち着いてくださいお嬢様っ! こんな機会、一生に一度あるかないかです……!」


「僕も食べたことないから、凄く楽しみだ……! ま、まずは素材本来の味を楽しむために、普通に火をおこして焼いてみようか!」


 僕の魔法で焼くと味が変わってしまうことが判明しているため、ネイアに焚火へと着火してもらい切り分けたサンダーバードの肉を木に刺して焼いていく。


 調味料も一切使っていない、本当にただの肉を焼いているだけにも関わらず、まるで最高級の牛ステーキを焼いているかのような……芳醇な香りが鼻をくすぐる。


 すでに誰一人として言葉を発する余裕はなく、ただただゴクリと喉を鳴らすのみ。


 表面にこんがりと焼き色がつき、全体に火が通った頃合いで一斉にかじりつく。


「……凄いのじゃ! やばいのじゃ! うますぎるのじゃああああ!!!」


「ああ……なんて極上のお肉なんでしょうか。唐辛子とも胡椒とも違う、独特のピリッとした刺激がたまりませんね……!!」


「本当だね! 噛み締めるとスッとほどけるお肉、すごく濃厚な脂の旨味が口の中に広がるのに、さっぱりとした後味……手が止まらないよ!」


 それぞれこぶし大の量があったにも関わらず、あっという間に食べきってしまった。

 当然満足できず、お次は僕の火魔法で焼いたお肉を食べるべく調理していく。


 ほどなくして焼きあがったお肉を前に、言葉を失う僕たち。


「お肉が……お肉が輝いておる! どうなっておるのじゃ?!」


「先ほどよりもさらに強い香り……ああ、辛抱たまりません!」


「そ、そうだね! とりあえず食べてみよう!」


 僕の言葉を皮切りに、勢いよくお肉を頬張る二人。


 なんでかわからないけど、まるできちんとフライパンで焼いたかのように表面がテラテラと薄っすら輝いていて、お肉本来の香りとは別に爽やかな香りもする。


 さて……僕も一口っ!


 口の中で勝手にあふれ出てくるよだれを飲み込み、パクッと食らいついたと同時。

 まるで雷にでも打たれたような……そんな衝撃が身体を走り抜けた。


「妾は……これほど生きていて良かったと感じたのは初めてじゃ……」


「ええ……。今死んでもなんの後悔もありません……」


「何を言ってるの……。死んだらもう、このお肉を食べれないんだよ……?」


 二人は天にも昇りそうなほど恍惚とした顔をしていた。


 たった一口、されど一口。心を満たしてくれるかのような美味しさに、ネイアがそう言いたくなるのもわからないでもない。


 でも、僕はまだまだこのお肉を食べたい。そう思って口にしたんだけど、二人はハッと我に返るとこの肉は誰にも渡さないと言わんばかりに、夢中で頬張り食べ始めた。


 僕も二人の様子を見ていたら我慢できず、ふた口めを口にする。


 ただ焼いただけでも十分美味しかったけど、こちらは程よい塩味が素材本来の旨味をより一層引き立てていて、ピリッとした刺激と共にまるで香草のような爽やかな香りが鼻から抜けていく。


「妾、こんな凄い物を知ってしまったら……夜な夜な思い出してしまい、興奮して眠れなくなってしまいそうなのじゃ……」


「私も、完全に虜です……。二度と忘れることができないよう、身体の奥底にしっかりと刻み込まれてしまいました……」


 気持ちはわかる。うん、わかるんだよ。


 でも、頬を赤く染めてうっとりとした表情で誤解しかねない際どいセリフはやめてほしいな。僕の精神衛生上よろしくないからさ。


 二人のお陰で少しだけ冷静になれた僕は、サンダーバードのステーキを偽物フェイクで作り出すのは当分やめようと心に誓うのだった―――。

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