食べられる魔法?!~神に愛された寵児だと勝手に持ち上げたくせに、初級魔法しか使えない無能だと追い出された挙句指名手配されました。今さら勘違いだった、戻って来てくれと言われてもさすがに無理です~

黒雫

プロローグ


 15歳の誕生日。

 両親から僕に告げられた言葉は、「お誕生日おめでとう」なんて優しい言葉ではなく、「貴様とはもはや親子でもなんでもない。一週間以内に出ていけ、この恥さらしが」という耳を疑いたくなる言葉。そして、実の息子にむけたとは思えないほど冷たい視線だった―――。





 僕――シズク・ラインツは、ネーブ国東部にあるラインツ領を統治する伯爵家に四男として生を受け、生まれた時点で保有していた魔力量が桁外れに多かったことから、両親や家臣からも将来歴史に名を残す偉大な存在になるとして、誰も彼もが大騒ぎで喜んだそうだ。


 この情報はすぐさま王族にも伝わり、両親はネーブ国の王様であるロド王からも直接「期待している」と声をかけてもらったほどだとかなんとか。


 両親や兄様たちもみんな金髪碧眼にも関わらず、僕だけ薄っすらと青い銀色の髪に空色の瞳というとても珍しい色だったのだけれど、それも魔力量が多いせいだと結論付けられ、気味悪がられるどころか他者と違うことこそ神に愛された存在であるという証拠なのだともてはやされたらしい。


 10歳で受けられる祝福の儀までは魔法を使うどころか自分の属性すらわからないというのに、幼少の頃から家庭教師がつき魔法の知識を叩き込まれる日々。


 同時に貴族としての立ち振る舞いや言葉遣い、様々な教養も身につけなければダメだと言われてしまい、兄さまたちと違い遊ぶ時間すら与えられることなく、起きてから眠りにつくまでひたすら勉学に明け暮れた。


 僕はそんな実感はまったくなかったのだけど、教えられたことをどんどんと吸収していく姿はまさに神童のようであったらしく、両親はもちろんのこと家庭教師や僕付きのメイドたちもとても喜んでくれて、僕はそれが嬉しくて仕方がなくて、文句も言わず与えられた課題にさらに打ち込んだ。


 そうして迎えた10歳の誕生日。


 伯爵家ではあるけど四男のためのパーティーにも関わらず、ラインツ家と懇意にしている貴族は当然のこと、先を見越したであろう貴族などもこぞって祝いに駆け付け、挙句の果てには王族である王弟様まで出席なさるという、お父様ですら予想していなかった出席者もありながら最初から最後までひっきりなしに挨拶に来る人達の相手をして幕を閉じた。


 祝福の儀もラインツ領にある神殿ではなく、ロド王からの要望で王都ムーズシにある大神殿で行われることになり、ロド王や護衛である近衛騎士、王家に仕える家臣など大勢の見物人がいる中で執り行われた。


 その重要性を認識したからか、本来祝福の儀を担当するはずである司祭様ではなく、司教のその上――大司教様が神へと祈りを捧げ、儀式を進行していく。


 そして、適正診断の時。


 魔道具の一つである属性を調べる盃へ聖水を注ぎ、そこへ対象――僕の血を一滴垂らすとまばゆく輝き、示された結果を見ながら大司教様が口を開いた。


「シズク・ラインツ様の適正は『火』『水』『風』『地』……なんと! 『光』『闇』、さらに『無』の適正までありますぞ! 全属性に適正のある、まさに神に愛された寵児です!!」


 その言葉に一同は沸き立ち、スタンディングオベーションが起こる。


 ロド王も「これで我が国は安泰だ」と満足そうに頷き、家臣も次々に同意の意を示す。


 大司教様が片膝をつき、僕に祈りを捧げる姿を見たお父様とお母様は大泣きしていた。


 でも……今思えば、心の底から僕を愛してくれていた家族の顔を見れたのは、この日が最後だったのかもしれない。


 祝福の儀を終えて屋敷に戻った僕は、それまでと変わらない数の勉強に加えて、魔法の習得・修練という内容も追加された超過密スケジュールをこなしていくことになる。


 初日、教えられた初級魔法は全て一度で発動できたものの、中級・上級といった魔法は一切発動させることができなかった。

 最初こそ感動した様子の両親や家庭教師も、中級以上の魔法が発動できなかった僕を見て、わずかに落胆の色を浮かべていたことを覚えている。

 それからも、二日、三日、一週間、一ヶ月と繰り返しても発動させられない僕を見て、両親はどんどん練習を見に来る回数が減っていった。

 家庭教師も次第に落胆の色を隠すこともなくなっていき、時間があれば魔法の練習をしなさいと口うるさく言うように。みんなにまた喜んでほしい、凄いですって褒めてほしい。その一心で、僕は来る日も来る日も夢中で修行に明け暮れた。

 でも、寝る間も惜しんで続けた僕の努力も、ついに報われることのないまま五年近い月日が経ってしまった―――。





 中級魔法までは才のない者でも二年、遅くとも三年かければ習得できると言われている中、五年という長い月日は僕を見限るのに十分すぎるほどの時間だったのだろう。

 ベッドの上で目を閉じて過去を思い出しながら、それでも僕は両親の決断にどこか納得できたというか、せざるを得ないと思っている部分もあった。

 もちろん親子でないと言われたことはとても悲しいし、家を追放されることは受け入れたくない。

 でも、僕が使えないから。期待に応えられなかったから。全ては僕のせいだという自覚もあるのだ。

 あと数回しか眠ることができないであろう、使い慣れたベッドに名残惜しさを感じつつ、眠りについた僕は翌日から家を出るための準備を始めるのだった―――。

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