決戦!サメと竜

 地面に倒れ伏したフォルネウスイヴィルダーを尻目に、響はすぐさま地面に落ちている大剣を拾い上げる。

 響が大剣を拾い上げると同時に、置いてある机に手を付けてフォルネウスイヴィルダーは立ち上がる。しかしアッパーカットをもろに受けた影響のせいか、フラフラと足元がおぼつかなかった。


「おいおい、足ががくがくになってるぜ?」


「うるさいガキが調子に乗って……私の力を舐めるなよ……」


 そう言うとフォルネウスイヴィルダーは懐からブエルのイヴィルキーを取り出すと、左腕に装着されているガントレットに差し込むのだった。


〈Buer!〉


〈Buer! Ability Arts!〉


 ガントレットから認証音が鳴り響くとフォルネウスイヴィルダーの背後に、ライオンの頭にヤギの足が五本生えた異形ブエルが現れる。

 ブエルは五本のヤギの足を器用に動かしてフォルネウスイヴィルダーを撫でる。すると傷ついていたフォルネウスイヴィルダーの体が癒えていき、更には先程までは体がふらついていたが、何も無かったようにノコギリザメの頭部を模した剣を構えるのだった。


「ええ先ほどの通り第二ラウンドと行きましょうか」


「回復とアリかよ……」


――先程殴ったダメージから何まで全部回復された。そう考えた響はチラリと己の体を見る。先程の天狗との戦いで傷ついた箇所は塞がっているが、戦闘で摩耗した精神ダメージは癒えてはいない。それでも響は無理やりにでも体を動かす。

 己の持っている武器を構えると、ゆっくりと距離を詰めていく両者。そして先に動き出したのはフォルネウスイヴィルダーであった、響も追従して動こうとするが、蓄積したダメージのせいで遅れてしまう。

 走って近づいてくる響に向かって、フォルネウスイヴィルダーは手に持った剣で突きを放つ。

 放たれた攻撃を回避しようと身を捩る響であったが、紙一重で回避できず脇腹を掠めてしまう。ノコギリザメのような刃で切り裂かれた脇腹は、ズタズタに切り裂かれており、まるで鋭い牙を持った肉食動物に噛みちぎられた後のようであった。


「ぐっ……きついな……」


 舌打ちをしながらも脇腹を大剣を持ってない方の手で抑える響であったが、簡単に傷は止血せずまた傷が塞がるスピードも普段より遅かった。

 その隙を突くようにフォルネウスイヴィルダーが回し蹴りを響に放つ。しかし響はその一撃を逆手で持った大剣の腹で受け止めると、そのままフォルネウスイヴィルダーに斬りかかる。

 襲いかかる攻撃をフォルネウスイヴィルダーは剣で受け止めるが、勢いのまでは殺せなかったのか後ろに下がってしまう。

 後ろに下がった姿を見た響はニヤリと笑うと、そのまま大剣を手放しジャンプして両足飛び蹴りを放つ。


「隙ありいいい、オラァ!」


「く……舐めるな!」


 近づいてくる響を迎撃しようとフォルネウスイヴィルダーは剣を振るうが、響は空中できりもみ回転をして威力を上げていく。

 回転しながら飛び蹴りを放つ響と、フォルネウスイヴィルダーの剣がぶつかり合う。一瞬、両者は均衡するが回転する分勢いが強かった響が競り勝ち、そのままフォルネウスイヴィルダーに蹴りを命中させる。

 両足飛び蹴りを食らったフォルネウスイヴィルダーは耐えようと足に力を込めるが、蹴りの勢いに耐えきれずに吹き飛んでいき机に激突する。

 フォルネウスイヴィルダーが倒れた隙に響は大剣を拾い上げると、そのまま水平に構えて追撃するために走り出す。


「はぁ!」


 近づいてくる響を牽制するようにフォルネウスイヴィルダーは口を大きく開くと、口から小魚に見えるサイズのサメを複数吐き出す。

 襲いかかってくるサメを響は大剣で切り払っていく。しかし飛んでくるサメの数は多く、簡単には近づけないでいた。


「クソ! 飛んできて襲いかかるサメなんてB級映画だけにしておけよ!」


 舌打ちをしながらも響はそのまま前に進んでいきながらも、近づいてくるサメを斬っていく。そして間合いを詰めた響は、フォルネウスイヴィルダーに斬りかかろうとする。

 斬りかかってくる響の攻撃を防ぐように、手に持った剣で攻撃を防ぐフォルネウスイヴィルダー。


「はっ!」


 大剣と剣がぶつかり合い火花が飛び散る。それと同時に響とフォルネウスイヴィルダーは後ろに下がって距離を取る。

 即座に近づくように響が距離を詰めると、振り上あげて大剣を振り下ろす。しかしその一撃はフォルネウスイヴィルダーが横に動くことで回避されるのだった。

 響の攻撃を回避した直後にフォルネウスイヴィルダーは、強烈な回し蹴りを響に向かって放つ。


「ぐっ……」


 回し蹴りを避けれなかった響は、攻撃を受けてしまい苦悶の声を漏らしてしまう。宙に浮いた響であったが、大剣の重さを上手く使うことで体勢を立て直し着地する。

 着地した響は足に力を入れると、大剣を構えながらフォルネウスイヴィルダーに向かってダッシュする。

 近づいた響の放った右薙ぎをフォルネウスイヴィルダーは後ろに下がることで回避する。しかし響も逃さないように続けて左薙ぎを放つ。

 連続で斬りかかっていく響のであったが、攻撃は全て避けられていく。

 響の攻撃を回避したフォルネウスイヴィルダーはジャンプをすると、そのまま響の頭上を飛び越えて背後を取るのだった。


「しまっ……」


 後ろを取られたことに気がついた響は、咄嗟に後悔の言葉を漏らしてしまう。次の瞬間フォルネウスイヴィルダーは響に向かって横蹴りをはなつのだった。

 無防備な背後から放たれた攻撃に防御できなかった響は、そのままゴムマリのように勢いよく吹っ飛んでしまう。

 吹き飛んだ響は食堂内に置いてあった椅子の山に、頭から突っ込んでしまい山を崩すのだった。


「ぐっ……痛え……ああ、邪魔だ!」


 頭に覆いかぶさるように落ちてきた椅子を、響はゴミのよう放り捨てる。すぐに立ち上がると、フォルネウスイヴィルダーへ視線を向ける。

 そして響は一気に戦況を変えるために、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを二度押し込む。


〈Finish Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、巨大な竜の影が響の背後に現れる。そして響はジャンプするとフォルネウスイヴィルダーに目掛けて飛び蹴りを放つ。それと同時に竜が響に向かって炎を放つのだった。


「でやあああぁぁぁ!」


 炎をまとった響はフォルネウスイヴィルダーへ飛び蹴りを繰り出す。それをみたフォルネウスイヴィルダーは迎撃するために、自身のデモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを一度押し込む。


〈Unique Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、フォルネウスイヴィルダーの後ろから体長十メートル近いサメが現れる。


「行け!」


 フォルネウスイヴィルダーが響に向かって腕を向けると、サメは指示に従い響に襲いかかるのだった。

 炎をまとい飛び蹴りを放つ響と、食い破らんと大きく口を開けるサメ、両者は遠慮することなくぶつかり合う。


「はあああぁぁぁ!」


 激突した結果、競り勝ったのは響であった。そのまま響は必殺の一撃をフォルネウスイヴィルダーに命中させた。

 攻撃が命中した結果、学食の窓が全て割れるほどの爆発が起きる。

 爆炎の中、響は炎に包まれた学食を見渡す。しかしフォルネウスのイヴィルキーも、倒れている人間も見つからなかった。


「くそ、逃げられたか……」


 何も見つからなかった響は悔しそうにその辺にあった机を軽く蹴ると、誰にも見つからないように気をつけながらそのまま食堂を後にするのだった。

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