捕食者

 近くに立っている天狗に斬りかかる響を見た三体の天狗達は、迎撃しようと空を飛び素早い動きで襲いかかる。

 近づいて来た天狗達は三体連続で攻撃を仕掛けてくる。

 一体目は錫杖を突き刺すように放つが、響はその一撃を紙一重で回避すると、交差する瞬間に大剣で脇腹を切り裂く。

 地面に落下する天狗を尻目に、二体目の天狗が殴りかかろうとして襲いかかろうとするが、響は大剣の腹で攻撃を受け止めて防御する。


「ぎ!?」


 攻撃が防御されたことに驚く天狗であったが、すぐさま放たれた響のストレートを顔面に受けて苦しむのだった。

 悶え苦しむ天狗を肩を踏みにじった最後の天狗は、上空から錫杖を振り下ろして響へと襲いかかる。しかし響は大剣を地面に突き刺すと、まるで棒高跳びのように飛び上がり天狗を飛び蹴りで迎え撃つ。


「どりゃあああぁぁぁ!」


「げりゃああああああ!」


 一瞬交差した両者であったが、すぐに地面に着地すると同時に回し蹴りを放つ。放たれた足と足は交差して一瞬しのぎを削り合うが、響と天狗は同じタイミングで後ろに下がる。

 距離をとった両者は両手を構えると、次に動き出したのは響であった。顎を狙ったパンチを連続で放つが、天狗は首を左右に動かすことで攻撃を回避する。

 響の連続攻撃を避けた天狗は、響に向かって勢いよく突きを放つが、その一撃は外へ弾くような動きをする響の腕によって裁かれる。

 続けて響の頭を狙って回し蹴りを放つ天狗だが、その一撃も両腕をくっつけた響の防御によって防がれてしまうのだった。


「っげげげ!?」


 苛ついた天狗は鬱憤を晴らすように、力任せのハイキックを響に放つ。だがそんな隙だらけの攻撃を響は受けるまでもなく回避して、カウンターとして天狗のみぞおちに向かって、ひねりを加えたコークスクリューパンチを放つのだった。


「があああぁぁぁ!」


 みぞおちに強烈な一撃を受けた天狗は膝をつくと、そのままよだれと胃酸を口から垂れ流す。しかし響は放っておかずに、うなだれている天狗の頭を勢いよく片足で踏みつけるのだった。

 グチャリと肉が潰れる音と共に、天狗の頭はまるで無残にも潰れたザクロのように、赤い部質を撒き散らすのだった。


「これで二体……残り二体だな……」


 地面に飛び散った液体を一瞥することもなく響は、冷静に残りの敵の数をカウントする。そんな響の姿を見た天狗達は恐怖したか、無意識に後ろへ一歩に下がっていた。

 ――相手は獲物ではなく、自分たちを喰らう捕食者ではないか? 己の存在意義を崩壊させるようなことを一瞬考えてしまった天狗達は、己の心に住まう恐怖心を振り払うかのごとく突撃するのだった。

 一体目の天狗は錫杖を振り回しながら響に近づいていき攻撃を仕掛ける。だが振り下ろされた錫杖の一撃は、突き出された大剣によって防がれてしまう。


「ふん!」


 攻撃を防がれてしまい、隙だらけの体を晒し出してしまった天狗に向かって響は大剣を蹴り上げその勢いで、天狗の体を下から上へと斬り裂くのだった。

 頭から股下まで縦に真っ二つにされた天狗は、そのまま断末魔も発すること無く力尽き、二つの肉片が地面に倒れるのだった。

 頭の高さを超える程に大剣を振り上げた響は、ゆっくりと大剣を肩に担ぐと、そのまま最後に残った天狗へと視線を向ける。


「げ!?」


 残った一体の天狗は恐怖に怯えたような声を出すと、すぐさま逃げるように響に背中を向ける。しかし逃げようとする天狗を見て響は、反射的に走り出すのだった。

 風のごとく疾走した響は逃亡しようとする天狗に追いつき、大剣を振り下ろすのだった。だがその一撃は天狗の背中をわずかに切り裂くだけにとどまる。

 背後からに一撃を食らった天狗は痛みに耐えきれずに姿勢を崩し、そのまま突っ伏すように地面に倒れ込むのだった。

 倒れた天狗はすぐさま立ち上がると、響から逃げようとするがうまく体が動かずに手足がもつれてしまう。

 急いで逃げようとする天狗の前に、追いついた響が立ちふさがる。その姿は死者の国から逃げようとする者を追跡する地獄の番犬のような姿であった。


「ひ……!」


 先程まで無力な生徒達に暴虐な行為を行っていた姿とは打って変わって、天狗のその姿はさながら仕留められる寸前の草食動物のようであった。

 そんな天狗の姿を見た響は、まるでゴミを見るような目で見下す。そしてそのまま大剣を振り上げると、躊躇なく天狗の体に突き刺した。


「げ……が……ぐ……」


 腹を貫かれた天狗は悲鳴をあげようとするが、器官に血が逆流して上手く喋ることができなかった。

 人間より強靭な体を持つがゆえに天狗は即座に絶命することはできずにいた。そんな天狗にとどめを刺すために響は、傷を広げるように大剣を動かしていく。


「あ……が……」


 その行為が致命傷となった天狗はわずかに断末魔を上げると絶命する。その顔は絶望と苦悶に染まっていた。

 絶命した天狗の体は徐々に塵となっていき、先程まで生きていたものがいたとは思えないほどに塵一つも残りはしなかった。


「ふー、これでここは終わりか……」


 全ての天狗を撃破したことを確認した響は一息つくと、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーに手をかけようとする。


「いやぁ、なかなかやりますね」


 次の瞬間、学生の声とは思えない声が食堂に響き渡る。その声を聞いた響はすぐに大剣を両手で構えると、声のする方向に向き直るのだった。

 視線の先に居たのはサメを思わせるような意匠を持つイヴィルダー、フォルネウスイヴィルダーであった。


「お前は……何でこんな所に居る!」


「おや、随分な良いようですね。まあ私用で近くを通ったらイヴィルダーの姿を見たので、話しかけたまでですよキマリス君」


 学校に現れたフォルネウスイヴィルダーの姿を見て、問い詰めようとする響。

 フォルネウスイヴィルダーは響の声を聞いて、以前遭遇したキマリスイヴィルダーと理解したのか、まるで蛇のようにネチネチと話しかける。


「ならサッサとここから居なくなってくれないか? ここは学生の憩いの場だぜ」


「ええ居なくなりましょう……君の実力を確かめてからねぇ!」


 響の嫌味を受け流したフォルネウスイヴィルダーは、右手にノコギリザメの頭部を模した剣を生成すると、響に向かって斬りかかるのだった。


「!?」


 いきなり攻撃してきたことに驚く響であったが、これまでの戦闘の経験からか、無意識に大剣を持った手を動かしてその一撃を防ぐ。

 大剣と剣がぶつかり合い、甲高い金属音が食堂に響き渡る。

 攻撃を受けた衝撃で後ろに一歩下がる響であったが、即座に前に進み出すと大剣を振り上げフォルネウスイヴィルダーに斬りかかる。しかし放たれた攻撃をフォルネウスイヴィルダーは右に動くことで回避するのだった。

 攻撃を避けたフォルネウスイヴィルダーは、響のみぞおちに向かって強烈な膝蹴りを叩き込む。


「がっ……」


 攻撃した後の隙を突かれた響は避けることは叶わずに、膝蹴りを受けてしまう。まるでサンドバッグを殴ったような鈍い音が響くと同時に、響は苦悶の声を出してしまう。

 大剣を杖のようにして地面に突っ伏すことを防いだ響であったが、次の瞬間フォルネウスイヴィルダーのミドルキックが放たれる。

 攻撃を防ぐこともできずに響は攻撃を受けてしまい、そのまま吹き飛ばされて食堂の壁に叩きつけられる。

 響が壁に叩きつけられたことで食堂の壁が破損して、粉塵が舞い上がりフォルネウスイヴィルダーの視界を塞いでしまう。

 フォルネウスイヴィルダーは構えを解かずに、粉塵の中に隠れた響の動きを警戒して注意深く見ているのだった。

 次の瞬間、粉塵の中から光が反射すると大剣が勢いよく飛び出し、フォルネウスイヴィルダーの腕を切り裂くのだった。


「何!?」


「へ、一五点っていったところか? あ!?」


 いきなり大剣が飛翔してきたことに驚いたフォルネウスイヴィルダーであったが、大剣に視線を向けた隙に粉塵の中から響が風を切るように近づいてくる。

 フォルネウスイヴィルダーとの距離を一気に詰めた響は、そのまま顎へ鋭いアッパーカットを右腕で叩き込む。

 攻撃を食らってしまったフォルネウスイヴィルダーは、弓なりのまま吹き飛ばされて、頭から地面に倒れ込むのだった。


「第二ラウンドといこうや」


 倒れたフォルネウスイヴィルダーを見た響は、不敵に笑いながらそう宣言するのだった。

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