きっと誰もが君を心配する
生徒の居ないグラウンドで、響とバラムイヴィルダーは相対する。
響は両腕を小さく横に広げて間合いを図り、バラムイヴィルダーは自然体で響に近づいていく。
先に動き出したのはバラムイヴィルダーであった、バラムイヴィルダーは肩を前に突き出すと突進する。
近づいてくるバラムイヴィルダーを前にして響は回避しようとするが、先程刺された箇所が痛み、うずくまってしまう。
「くらえ!」
勢いよく突っ込んできたバラムイヴィルダーの肩が、動けない響の胸に突き刺さる。
タックルの衝撃で後ろにふっ飛ばされる響であったが、返しにフックをバラムイヴィルダーに向けて放つ。
カウンター気味に放たれた一撃は、バラムイヴィルダーの隙だらけなアゴを強襲する。
「ぐぅ!」
「がぁ!」
肉体を襲うダメージに苦悶の声を上げる両者。
しかしすぐに動き出したのは響であった、響は走り出すとバラムイヴィルダーに向かってジャンプをする。
そしてバラムイヴィルダーの首を両ふとももで挟み込むと、後ろに宙返りするような形で回転し、バラムイヴィルダーの脳天を地面に叩きつける。
フランケンシュタイナーで叩きつけられたバラムイヴィルダーは、頭を抱えながら地面を転がる。
「せいやぁ!」
響は転がるバラムイヴィルダーの背中を抱え込み、そのままバラムイヴィルダーの背中を肩に乗せる。
そして左手をバラムイヴィルダーのあごに、右手をバラムイヴィルダーのふとももを掴む。
メリメリメリという背骨が軋む音と共に、響の両手がバラムイヴィルダーの体を弓なりにしならせる。
「アルゼンチンバックブリーカー!」
雄叫びと共に響はジャンプをすると、着地の衝撃でバラムイヴィルダーの体をさらにしならせる。
背中を襲う痛みにもだえ苦しむバラムイヴィルダーであったが、響はそれを無視してさらにアルゼンチンバックブリーカーをかけ続ける。
そして締めくくりとして大きくジャンプすると、バラムイヴィルダーの頭を地面に向けて、勢いよく叩きつける。
ズンという音と共に、地面へデスバレーボム気味に叩きつけられたバラムイヴィルダー。
叩きつけられた反応が無いことを確認した響は、バラムイヴィルダーの体の拘束を外す。
「うごごご……」
地面に倒れ伏したバラムイヴィルダーは、小さくうめき声を上げながら立ち上がる。
それを見た響は後ろにステップして距離を取り、両手をアゴの下で構えて様子を見る。
次の瞬間バラムイヴィルダーは突進して、響の懐に飛び込んでくる。
バラムイヴィルダーの動きを見た響は、回避しようとするが刺された場所が痛み、反応できなかった。
「っぐ……」
痛みで動けなかった響に、バラムイヴィルダーの鋭いタックルが命中する。
タックルを食らった響は地面に倒れて、バラムイヴィルダーにマウントポジションを取られてしまう。
響の上に乗っかったバラムイヴィルダーは、一方的に殴り始める。
誰も居ないグラウンドに、鈍い打撃音が何度も鳴り響く。
「さっさとどけぇ!」
殴られ続けた響は、バラムイヴィルダーの両手を掴むと、まるで腹筋をするかのように勢いよく上半身を上げて、バラムイヴィルダーに頭突をかます。
頭突を食らった衝撃で、バラムイヴィルダーは響から離れる。その隙を突いて響は、マウントから抜け出す。
マウントから逃れた響を追撃せんと、バラムイヴィルダーは走り出す。それを見た響は立ち上がり、走り出して勢いよくジャンプする。
そしてバラムイヴィルダーに向かって、カウンター気味に両足で飛び蹴りを放つ。
「どおりゃぁ!」
近づいてくるバラムイヴィルダーのスピードと、ジャンプした響の勢いが合わさり、放たれたドロップキックのダメージは、通常のものと比べて強力となった。
ドロップキックを食らったバラムイヴィルダーの体は宙を舞い、壁に勢いよく叩きつけられる。
壁に叩きつけられて動けないバラムイヴィルダー、刺された痛みに耐えながらも響はゆっくりと近づいていく。
後五メートルという距離まで響が近づいた瞬間、バラムイヴィルダーは突如として動き出し、響の首を絞め上げる。
ギリギリギリと首が締まる音が、小さいながらもグラウンドに響き渡る。
「ぐうううぅぅぅ」
「死ね、死ね、死ねぇ!」
恨みのこもった声を上げるバラムイヴィルダー、響は首絞めから逃れようとするが、首を絞める手は簡単には外れない。
響は体を左右に揺らして振り払おうとするが、バラムイヴィルダーを振り払えず壁に叩きつけられる。
響の口からは苦しそうな声が僅かに漏れるが、首を絞め上げる力は衰えることはなかった。
苦しみながらも響は足を上げると、まるでバネのように曲げて、勢いよく蹴りを放つ。
「は・な・せ・よぉ!」
ズドンという鈍い音と共に、蹴りを食らったバラムイヴィルダーの体は響から離れて、地面を転がる。
開放された響は、首を優しく抑えながら呼吸を整える。
呼吸を整えながら睨みつける響、そして立ち上がるバラムイヴィルダー、両者共に様子を見合う。
先に動き出したのはバラムイヴィルダーであった、後ろにジャンプするとまるで最初から居なかったかのように、姿を消す。
「また消えたか!」
響はすぐに消えたバラムイヴィルダーを探して周囲を見渡すが、姿は影一つもない。
探している内に響の背後から、殴られた衝撃が襲いかかる。すぐに背後を見る響であったが、視界には誰も居ない。
周囲を警戒しながら響は、ある場所に向かって行く。決してバラムイヴィルダーに、目標を気付かれないように。
ゆっくりと、気配を探りながら移動していく響、そして目的の物の前にたどり着く。
「よし、あった」
響は水道に近づくと、バルブを全開にして蛇口を手で押さえる、そして水を周囲にばらまき始めるのだった。
ジャァァァーーーという流水音と共に、周囲は水浸しになっていく。
そして誰も居なかったはずの空間に、水滴が人影を作っていく。それは先程消えたバラムイヴィルダーの姿であった。
水滴で姿が顕になったバラムイヴィルダーを見て、響は異形の下でニヤリと笑う。
『よくそんな作戦思いついたね』
『まぁな昨日寝る前に思いついたんだ』
『一つ聞いていい? 水道が近くに無かったらどうしてたのさ?』
『レライエに変身して、周囲を絨毯爆撃』
響の回答を聞いたキマリスは、水道が近くにあって良かったと、ホッとするのだった。
「な、あ?」
逆にバラムイヴィルダーは自身の位置が、響にバレたことが理解できずうろたえる。
その隙に響はバラムイヴィルダーに近づいて、隙だらけのアゴに向かってアッパーを放つ。
鈍い音と共に、アッパーを食らったバラムイヴィルダーは地面を転がる。
地面を転がったバラムイヴィルダーは膝をついて立ち上がるが、その隙を逃すまいと響は走り出す。
「うおぁぁぁ!」
間合いを詰めた響は、バラムイヴィルダーの膝を踏み台として乗り上がると、アゴに向かって強烈な膝蹴りを放つ。
人呼んで
まるでボールのように地面を跳ねるバラムイヴィルダー、響はすぐに追撃として、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを二度押す。
〈Finish Arts!〉
デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、響の右腕にエネルギーが充填される。
エネルギーが完全に充填される前に響は走り出し、エネルギーをまとったストレートを放つ。
立ち上がるバラムイヴィルダーであったが、眼前には必殺の拳があった。
必殺の一撃を食らったバラムイヴィルダーは地面を転がり、そして大爆発をする。
爆炎の後には倒れて気を失った岩居隆一と、バラムのイヴィルキーがあった。
「ふぃ~」
倒したことを確認した響は、変身を解除して地面に座る。次の瞬間、刺された腹部が痛みだす。
すぐさま傷口を見ると、制服が赤くにじみ出しており、傷口が開き始めた事がわかる。
「っう~痛いな」
『ほら、さっさと桜木に連絡して回収してもらったら?』
『我慢しないでそうするわ』
急いで響はスマートフォンを取り出すと、千恵にイヴィルダー関係のメールを送信する。
するとまだ校内に居たのか、すぐにメールは返ってきた。
『加藤くん大丈夫?』
『ごめんなさい、大丈夫じゃないです。契約者を運べないので、グラウンドなので回収してもらっていいですか?』
『どこか怪我でも?』
『ちょっと刺されました……』
響のメールを最後に、千恵からの返信は返って来なかった。
代わりに五分もせずに、千恵が魔術学院の手のものである事務員を連れてグラウンドにやってくる。
「加藤くん大丈夫!?」
「へへへ、まあ何とか」
やってきた千恵の顔を見た響は、痛みに耐えながらも小さく手を挙げる。
腹部を赤く染めた響を見た千恵は、響を優しく抱きとめる。
「無茶をしないで……」
「すいません……」
倒れている岩居隆一を見た千恵は、事務員に「彼を保健室に」と指示を出すと、自身は響をおんぶする。
「ちょっと血で汚れますよ!」
「いいから!」
そのまま保健室までおんぶされていく響。
道中に椿のことを思い出して、メールで「無事に解決した」と送信するのだった。
なお家に帰った響は、赤く染めた制服を琴乃に見られて、存分に怒られるのだった。
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