兄貴、臭い!
保健室に着いた響は達也を、空いている椅子に腰掛けさせる。
そして自分は消毒液とパッド状の
「それで何で桜木先生が居ないって知ってるんだ?」
「ああそれね、俺と桜木先生でお前に告白した女子生徒助けに行ったのよ」
棚から消毒液とパッド状の絆創膏を取り出しながらも、響は達也の質問に答える。そして響は達也の傷口を消毒液で消毒を始める。
「んで助けた女子生徒の内、容態が悪い生徒が居たから先生に任してきた」
「なるほど、それで居ないことが……痛!」
「おっと悪い」
達也の傷口に消毒液を染み込ませた綿棒を強く押し付けたために、響は軽く頭を下げる。
そしてそのまま響は傷口に、パッド状の絆創膏を貼っていく。
「ところで響、オセに変身していたあの女子生徒どうした?」
腕を伸ばして響にパッド状の絆創膏を貼られている達也は、不思議そうに首を傾げる。
それを聞いた響の顔はどんどんと青ざめていく、そしてすぐにポケットからスマートフォンを取り出す。
「響、後処理を忘れていたのか!?」
「しゃーないだろ、達也を保健室に運ぶのに夢中になっていたんだから」
そう言いながも響はメールで千恵に、オセイヴィルダーに変身していた女子生徒について連絡する。
すると一分もせずに、千恵からの返事のメールが返ってくる。
『加藤くんそっちは何とか事態を収拾出来たみたいね。オセの契約者についてはこっちで回収の手続きをしておきました安心して』
『本当ですか? ありがとうございます!』
『どういたしまして、こっちも女子生徒達はみんな無事に病院に送り届けました』
千恵からのメールを見た響は、一安心と言わんばかりに一息つく。
「ふー良かった良かった」
「どうだった?」
「桜木先生が回収の手配してくれたって」
それを聞いた達也も安心したのかホッと一息つく。
そして響が何をしていたのか疑問に思ったのか、「そういえば」と前置きをして聞き出す。
「響、俺のところに来るまで何をしてたんだ?」
「それ聞いちゃう? 後悔しない?」
「やめろ逆に聞きたくなるだろ」
「まあ話すだけならタダだし……」
響は達也を助けるまでに何をしたのかを、ゆっくりと話し出す。
達也に告白してきた女子生徒が無断欠席していること、その女子生徒について千恵に相談して詳しく見ると、告白してきた全員が無断欠席していたこと。
そして警察に位置情報を請求すると同じ場所に全員いて、その場所に千恵と一緒に向かったところ民家の一軒家だったこと。
窓を割って入ったらすさまじい異臭と謎めいた彫像の数々、探索の末に二人は縛られていた女子生徒を見つけたこと。
女子生徒の首元にはスタンガンを押し付けらた痕があり、それは見るに耐えなかったこと。
「……」
響から経緯を聞いた達也の顔は、血の気が引いたかのように真っ青になっていた。
達也の顔を見た響は、そりゃわかると言わんばかりに頬を掻いていた。
「ふー、ドン引きだよ!」
「わかるわ、リアルにホラーゲームしてるかと思ったもん」
響の話した内容を理解するのに、達也は数十秒程時間がかかった。そして完全に理解すると大声で叫ぶのだった。
そんな達也の様子を見ながら響はケラケラと笑う、しかし笑っている本人も家探しした家の事は思い出したくなかった。
響達がそうやって雑談している内に、昼休みの終了を告げる予鈴が学校内に響き渡る。
予鈴を聞いた響達は、顔を青ざめて立ち上がる。
「やべぇ、達也動けるか?」
「ちょっと待て、制服整えるから」
響は使った消毒液とパッド状の絆創膏を元の位置に戻し、達也は制服に付いた血が見えないように前を閉じていく。
そして準備が整った瞬間、二人は急いで保健室を後にするのだった。
何とか授業開始のチャイムに間に合った響は、その後の授業を無事受けると家に帰宅する。
「ただいま~」
響は疲れたように帰ってきたことを知らせると、玄関に琴乃の靴があることに気づく。
「琴乃、先に帰ったのか?」
「おかえり兄貴、先帰った……」
玄関に顔を出した琴乃の格好は既にラフな物になっていた、しかし琴乃は響を見ると顔をしかめる。
「兄貴くっさいよ!」
琴乃は指で鼻を抑えると、もう片方の手で響を指差す。
響も自身の臭いを嗅ぐが、長い間異臭の漂う家に居たために鼻が鈍くなっていた。そのせいか自身に付いた悪臭に気づくことは無かった。
「兄貴は玄関に居て、私はお風呂沸かしてくるから!」
琴乃はそう言い残すと風呂場に走って向かう、玄関に残された響はポツンと一人立っているのだった。
仕方なく一人で玄関に立ち尽くして数分後、響の耳に琴乃の走る足音が聞こえ始める。
「兄貴ーお風呂湧いたから入ってきて、んで制服とか下着は洗濯機に突っ込んどいて。私が兄貴風呂入ってる間に洗濯しとくから」
「おおう、ありがと」
「いいから早く入ってきて!」
響から漂う悪臭を嫌って琴乃は、語尾を強くして叫ぶ。
琴乃から急かされた響は、急いで風呂場に向かうのだった。
風呂場に付いた響は、制服も含めて着ているものを全て洗濯機に投げ入れる。
そして全裸になった響は浴室に入るのだった。
ボディーソープを含んだタオルで、体中を丹念に洗った響はお風呂に体をゆっくり沈めていた。
浴室の外からはゴウンゴウンゴウンと、洗濯機が動いている音がする。
洗濯機が動く音を聞きながら響は、一日中動かした体を休めていた。
(今日一日は大変だったな……)
響は今日の出来事を思い返しながら、寝ないように気をつけながらゆっくりと目を閉じる。
その瞬間ガラララと、浴室の扉が開く音が響き渡る。
「え?」
誰が入ってきたのかと、響は間抜けな声を上げてしまう。
入ってきたのは水着を着たキマリスであった。
彼女は白いビキニを身に着け、少し躊躇しながらも浴室に入っていく。
「ふむ、この格好はちょっと恥ずかしいかな」
「キマリス!?」
「やぁ元気そうだね響」
水着で風呂場に入ってきたキマリスを見て、響は驚きの言葉を上げる。
そんな響の様子など気にしないように、キマリスはゆっくりと向かい合うように湯船に入っていく。
湯船に二人分の質量が入ったために、お湯がザバァと湯船から流れていく。
「……」
向かい合って湯船に座っている二人は、無言のまま時間が過ぎていく。
その間にも響とキマリスの肌は赤くなっていく、それはお湯の温度だけのせいではなかった。
響は気恥ずかしそうにうつむいているが、キマリスは逆にニコニコと楽しそうに笑っていた。
「響そんなにうつむかないでさ、僕の方を見てよ」
キマリスは腰を浮かすと、そのまま響の元に近づいていく。
元々狭い湯船である以上、二人の距離はますます近くなっていく。
二人の間に隙間がほとんど無くなるほどに接近したキマリスは、抱きしめるように響の両肩に腕を伸ばす。
まるでキマリスに抱きしめられる形になった響は、彼女の胸元を見ないように視線を横にそらしてしまう。
そんな響の様子にキマリスは気づかず、響の肩や腕を興味深そうに触っていく。
(この体勢はマズイ!)
響は内心焦っていた、二人は完全に密着して、触れていない方を探すのが難しいほどだった。
そして何より股間のソレを、キマリスに触れられるのを危険と思っていた。
キマリスの太ももが響のソレに触れる直前、キマリスは突如として湯船から立ち上がる。
「え?」
ザバァという音と共にお湯が落ちていく。
響がキマリスを見上げると、キマリスはそのまま湯船から出ていくのだった。
「響が苦しそうだったからね、これくらいにしておくよ。でも響、のぼせたりしないでよ」
そう言ってキマリスはおでこ同士をぶつけると、風呂場を後にするのだった。
「ハァ~助かった」
キマリスに股間のモノを気づかれなかった事に安堵する響。彼はお湯を堪能した後、風呂を上がるのだった。
お風呂を十分に堪能した響は、湯気を漂わせながらリビングに戻った。
そして自分のスマートフォンに、メールを受信していることに気づく。
スマートフォンを操作してメールを確認すると、千恵からのメールであった。
『聞いてよ加藤くん、保健室に戻ったら教頭に無断で保健室を空けるとは何事です、って怒られた~』
メールを開いてみると、愚痴のメールであった。特に文章の最後には、涙を流す顔文字まで書かれていた。
受信時間を見ると、少し前に受信していたので響はすぐに返事を送る。
『俺は先生が凄い事やったって、知ってますから。頑張ってください!』
響がメールを送ると、返事はすぐに返ってきた。
『本当!? ありがとうウレシイウレシイ』
返ってきたメールには大量の顔文字が書かれていて、千恵の喜びようが目に浮かぶ。
ふと、響は服に臭いが付いていたことを思い出すと、急いで注意のメールを作るのだった。
『追伸、家に帰ったら妹に臭いと言われました。気をつけてください』
注意喚起のメールを送ると、すぐに千恵から「ありがとう!」と感謝のメールが届く。
千恵からのメールを見た響は、ゆっくりと自室に戻るのだった。
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