蟹+猫=鍋?

 走り出す響を見て最初に反応したのは赤い車輪を背負った猫の異形であった、異形は背中の車輪を響に向けて投擲する。

 風を切るように襲いかかる車輪、さらに車輪は炎をまとっていて触れれば火傷ではすまないであろうものであった。


「チェストー!」


 しかし響は臆せずに前にジャンプをすると、車輪を勢いよく蹴るのであった。

 響によって蹴られた車輪は、蹴られる前よりも勢いを増して猫の異形に襲いかかる。


「ニャー!?」


 まさか蹴り返されると思っていなかった猫の異形は、驚いた声を上げて車輪によって壁に叩きつけられるのであった。


『キマリス、あいつらはなんだ!』


『蟹の方は化け蟹だね、それで猫は火車だ』


『化け蟹に火車ね、分かりやすい名前だ!』


 響は拳を手のひらに打ち付けると、そのまま化け蟹に向かって走り出す。

 しかし化け蟹の巨体は凄まじく、響が化け蟹の前に到達するよりも早く、化け蟹の脚の一本が響に襲いかかる。


「うぉ!」


 響はすぐに横に体を横転させて、攻撃を回避する。

 だが化け蟹もそのまま響を放置せず、響に近づきまるでタップダンスを踊るように、響を脚で踏みつける。

 ドスン、と地響きが連続して続き、響へ鋭い脚が何度も襲いかかる。


「くそ、調子に乗りやがって!」


 響は体勢を立て直そうとするが、化け蟹の連続攻撃に息つく暇もなくどうしようもない。

 ならばと、すぐにキマリススラッシャーを生成して化け蟹の脚を受け止めるが、質量の差は凄まじく一瞬で踏みつけられそうになる。


「ぐぐぐ……」


 全身の力を出して踏み潰されないようとする響であったが、無情にも化け蟹の脚は地面に近づいていく。


(踏み潰される!)


 マズイと思った響は、すぐさま体を回転させて化け蟹の脚から離れる。

 響が脚から離れた瞬間、ズンという音と共に先程響が居た場所は、コンクリートの地面が砕けた跡となった。

 すぐに立ち上がった響を、車輪を背負い直した火車が襲いかかる。


「ミャー!」


「てめぇ! こっちはデカブツで手一杯なんだよ!」


 キマリススラッシャーを落とした響と火車はもみ合うが、もみ合っている場所は化け蟹の脚の下、化け蟹は二人を潰さんと脚を踏み降ろす。

 頭上から降り注ぐ脚を避けながらも、それでも響と火車は殴り合う。

 逃げれば後ろから殴られ、うまく避けないと脚に潰される。そんなデスマッチを響と火車は続ける。


「さっさと潰れろや!」


 響は勢いよく距離を詰めると、火車の胸に目掛けてストレートを放つ。

 だが攻撃をバックステップで回避した火車は、背中の車輪を両手で持ち響に殴りかかる。


「っく!」


 響は後ろに下がって避ける、そして殴りかかろうとするが、その瞬間上から化け蟹の脚が降ってくる。

 響と火車の両者はすぐに後ろに下がるが、脚が地面に叩きつけられた衝撃で、足が動かなくなる。

 その隙を付いた火車は背中の車輪を響に投擲する、動けない響を襲う車輪はそのまま腹部に命中する。

 車輪が命中した衝撃で後ろに吹き飛ぶ響であったが、空中で体勢を立て直すとそのまま低姿勢となり火車に突撃する。


「しゃぁー!」


 走る響は火車の懐へ走り抜けると、そのまま火車を肩車をする。そして勢いよくジャンプして火車の頭を化け蟹の殻の薄い部分に激突させる。


「Keeeeeeeee!」


「ニャ!?」


 悲鳴をあげる化け蟹と火車、しかし響は構うことなく火車との姿勢を上下入れ替える、そしてそのまま火車の頭部を地面に叩きつけるのであった。

 叩きつけられた衝撃で火車は一時的に意識を失い、そのまま響に地面へ投げ捨てられる。


「さぁてと、こいつはどうすっかな」


 悩む響の目の前には、怒りに満ちている化け蟹の姿があった。

 化け蟹は響の上から移動して距離を取ると、すぐさま両手の鋏を響に叩きつける。

 当たれば人体が真っ二つになりそうな鋏を、響はなんとか回避していくが、連続して放たれる鋏にどんどん劣勢になっていく。

 時に前転で回避し、時に横に飛び込み回避する、しかしそんな場当たり的な回避を続けていく響であったが、視界にあるものが入る。


(あれは……)


 響の視界に入ったものは、先程地面に落としたキマリススラッシャーであった。

 すぐに響はキマリススラッシャーへ走って近づいて行く、そしてそのまま止まらずにキマリススラッシャーを拾い上げる。


「そおらぁ!」


 響はキマリススラッシャーをうまく使い、化け蟹の鋏を受け流しながら化け蟹に近づいて行く。

 そして化け蟹の真下に移動すると、化け蟹の脚の関節に向かってキマリススラッシャーを振るう。

 キマリススラッシャーは殻に弾かれることなく、化け蟹の脚を傷つける。


「これだぁ!」


 響はすぐさまデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを抜くと、そのままキマリススラッシャーに装填する。


〈Slash Break!〉


 キマリススラッシャーから起動音が鳴ると共に、キマリススラッシャーの刀身が巨大なエネルギーに包まれる。

 そして響はキマリススラッシャーを勢いよく振るい、化け蟹の脚八本全ての関節を切り刻む。


「Keeeeeeeee!????」


 化け蟹は奇妙な悲鳴を上げながら、口から泡を吹き出しつつ大きく爆発するのであった。


「よし! 一体終了!」


 化け蟹が死んだ事を確認した響は、すぐに火車がいた方向に視線を向ける。

 すると巨大な火の車が響の目の前まで近づいていた、すぐに響は横に体を投げ出すようにして回避する。


「何だありゃ!?」


 先程とは見違える程大きな火の車に驚く響、すると火の車は動きを止めて火車の姿に戻る。

 火車はジャンプをすると、先程と同じ火の車になって響に襲いかかる。

 凄まじく勢いで接近してくる火の車に対して響は、キマリススラッシャーで迎撃する。

 しかし火の車の円形部は固く、キマリススラッシャーでは斬りつける事ができなかった。だが火の車も無事ではすまず、斬られた衝撃で後ろに吹き飛ばされるのであった。


「ニャー!」


 叫び声を上げながら再び襲いかかる火の車、しかし響は横に避けてフラウロスイヴィルキーを取り出す。そしてイヴィルキーを起動させて、デモンギュルテルに装填するのであった。


「火には、火ってね」


〈Flauros!〉


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音と共にデモンギュルテルの中央部が開き、中から炎の豹が出てくる。

 そして豹はそのまま炎へと体を変えて響にまとわり付く、炎が消えた後にはフラウロスイヴィルダーに変身した響がいた。

 変身した響を見ても臆せず襲いかかる火の車、そこで響は口から炎を吐き出す。

 さすがに炎自体は効かなかったが、炎で視界を遮ることに成功して響は火車に近づいていく。


「よいしょぉ!」


 響は火の車を持ち上げると、そのまま勢いよくその場で回転する。

 そして十秒ほどで響は、火の車を壁に勢いよく叩きつけるのであった。

 壁に叩きつけられた火の車は、そのまま元の火車に姿を戻す。

 火車は立ち上がろうとするが、響のジャイアントスイングをくらって平衡感覚が麻痺したのか、なかなか立ち上がることができない。

 その隙に響は火車に近づき頭を右手でロックする、そしてそのまま空いた左手で火車の頭を拳で殴りつける。

 一発、二発、三発、とまるで振り子のように連続して火車の頭を殴りつける響。


「ニャニャニャ!」


 火車は悲鳴を上げながらも逃げようとするが、響のヘッドロックは固く逃れる事はできない。

 そして響はそのままヘッドロックの状態で、勢いよくブリッジをして火車を地面に叩きつける。

 地面にのびた火車を逃さず響は、ジャンプをしてみぞおちに片膝を突き立てる。

 ズンと鈍い音と共に、響の膝が火車のみぞおちに鋭く突き刺さる。


「あ、あああ」


 火車は苦悶の声をあげるが、響はそれを無視して両手で火車の体を持ち上げる。

 そのまま火車を上に勢いよく放り投げると、すぐにデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを二度押すのであった。


〈Finish Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと同時に、響の右腕に炎がまとう。

 そして高所から落下する火車に向かって響は、炎をまとった右腕を振り上げるのであった。

 必殺のアッパーをくらった火車は、一瞬苦しみそして爆発する。

 後に残ったのは、燃える上がる地面に立つ響だけであった。


「ふー、終わった終わった」


『お疲れ様……』


 響、と言おうとしたキマリスであったが、その言葉を遮るようにエンジン音が響き渡る。

 響がエンジン音が聞こえた方向に視線を向けると、そこには巨大な青いバイクが響に向かって突撃するのであった。

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