暴走、同衾、食事
草木も眠る丑三つ時、野犬も叫ばぬ真夜中の静寂を切り裂くものが居た。
一つはエンジンの排気音と共に法定速度を破りながら走る巨大な大型の青いバイク、もう一つはバイクを追うように走る馬の蹄の音であった。
「待て、今日こそ貴様を鎮圧してくれる!」
馬に乗った者、風変わりなフルプレートアーマーを着た異形が、バイクに乗った者に向かって叫ぶ。
異形の騎士とバイクに乗った者の腰には、デモンギュルテルが装着されていて二人共イヴィルダーであることが分かる。
「そうかい、昨日も一昨日もできなかったを今日できるのかよ?」
しかしバイクに乗る者は動ぜず逆に、騎士に向かって挑発をする。
そのまま誰も居ない道路をバイクは急カーブし、馬も追うように急カーブするのであった。
「だからこそだ、今日こそ法を破る貴様を止めるのだ!」
そう騎士は言うと馬をバイクに近づけさせる、そして手に持った槍で勢いよく刺しに行く。
ゴォと風を切り裂く音とともに、槍がバイクに乗る者に襲いかかる。
しかしバイクに乗る者はうまくバイクを操り、槍を巧みに回避していく。
「チィ!」
槍がバイクに乗る者にかすりもしないことに、騎士は悪態をつく。
その瞬間バイクに乗る者はバイクを半回転させると、騎士に向かって進み出す。
「何!?」
騎士はバイクに乗る者の行動に驚きを隠せなかった。
「ハッハー! 死ねやぁ!」
そのままバイクに乗る者は騎士を跳ねようと真っ直ぐに進んでいくが、騎士はすぐに馬を横に移動させてバイクを回避する。
騎士に避けられたバイクはそのまま誰も居ない道路を、排気音を耳がつんざく程に響かせながら縦横無尽に走っていくのであった。
「今日も逃げられたか……」
騎士は悔しそうに馬から降りると腰のデモンギュルテルからイヴィルキーを抜く、すると騎士が光に包まれていく。
そして光が消えるとそこに居たのは響と同じ制服を着た、一人の男子生徒であった。
男子生徒はその場を去っていくと、残ったのは一切の音が無い静寂であった。
時を戻して、騎士とバイクに乗る者がカーチェイスを繰り広げている中、響は自室のベットで眠っていた。
肩まで布団をかけてぐっすりと眠っていた響は、外から聞こえるエンジンの排気音によって目が覚める。
「ッチうるさいな」
聞こえる音の大きさから察するに、かなりの遠い距離で走っていると思われるエンジン音に悪態をつく響。
そこで響はふと違和感に気づく、布団の温かさにしては温いのだ。
眠たげにまぶたを開きながら布団の中をよく見ると、青と白のチェックのパジャマを着たキマリスが一緒のベットに寝ていたのであった。
「うんんん?」
すぐに大声をあげようとした響であったが、今の時間は真夜中のために近所迷惑を考えて、大声を出すことは避けて小声で疑問の声を出した。
響が驚いた時にキマリスの体にかかっていた布団を動かしたせいで、キマリスは眠そうに目覚める。
「あれ? 響こんな時間にどうしたの?」
「どうしたのって、キマリス何で俺の布団に入ってるんだよ」
「何でって、君と一緒に寝たかっただけだよ」
恥ずかしさもなく当然と言わんばかりにキマリスは、布団を肩にかけ直してそう言い放つ。
「いや、そうじゃなくて……」
「男と女が一緒に寝るのはおかしいかい?」
「いや駄目だろ!」
「でも君、僕の肌に触って気持ちよく寝てたよ」
キマリスの言葉を聞いた響は、「グフ」と胸を抑えてしまう。事実今日の睡眠は温かく、また柔らかくて寝心地が良かったのだ。
恥ずかしそうにしている響を見てキマリスは、響の腕を掴み自身の胸元に寄せるのであった。
「キマリス!?」
「暖かいだろ響、君と一緒に寝たからこうなったんだよ」
響の手はキマリスの体から伝わる心臓の鼓動を、彼女の熱を余すこと無く全て響に伝えていた。
キマリスの胸から感じる感触に、響は暗がりでも分かるほどに顔を赤くしてしまう。
それを見てキマリスは響が自分に反応してくれることに、表情には全く出さずに内心心踊る気持ちで居た。
「ほら響、速く寝ないと。明日も学校なんだろ」
「あ、ああ」
キマリスはそう言うと響の胸元に顔をうずめて、響の足に足を絡ませてそのまま目を閉じるのであった。
キマリスに言いくるめられた響は、何か釈然としない表情ながらもキマリスの熱を感じつつ眠ろうとするのであった。
(いいにおいで寝れねえ)
響の鼻孔をくすぐるキマリスの体臭のせいで響が寝付けたのは、一時間後のことであった。
翌朝、響は自分の教室で休み時間を過ごしていた頃、達也が席に近づいてくる。
「よお、眠そうな顔だな」
「ああ、昨日バイクか何かのエンジン音で目が覚めてな」
「なるほど、俺もこの前それで目が覚めたよ」
響と達也は共通の話題に、文句を言い始める。そして話題はこの前に行った海の話題に移る。
「で、海はどうだった?」
「最高だった、椿君の水着もキマリスもレライエの水着もね」
達也の質問に響は、満円の笑みを浮かべてサムズアップをする。
響の顔にイラッときたのか達也は、「そうかそうか」と聞き流す。
「それでウェパル? はどうなったんだ?」
「ん、ウェパルのイヴィルキーからは反応がなくて、キマリスは眠ってるだけだよって言ってた」
達也もウェパルがフォルネウスイヴィルダーに襲われた、という話を響から聞いていた。
それを聞いて達也は、「そうか、それで変身できるのか?」と聞く。
「まだ使ってねえや」
達也の質問に響は、半笑いで頭をかきながら答えるのであった。
次の瞬間、達也のスマートフォンに通知が入り、「悪い」と一言断りを入れてスマートフォンを見る。
スマートフォンの通知を見た達也は、険しい顔をして席を立つ。
「生徒会がらみ?」
「ああそうだ、それと響風紀委員には気をつけろ。どうも最近ピリピリしてるらしい」
「OKわかった」
そう言うと達也は教室を後にする、残った響は次の授業の準備をするのであった。
同日、すでに日は沈んでおり雲ひとつない空には、月が爛々と顔を出していた。
家でゆっくりしていた響は、今日家族は誰も晩御飯を食べないことを思い出した。
「あー父さんも母さんも遅いし、琴乃は今日友達の家に行くって言ってたな」
お腹をくぅと鳴らせながら響は、独りごちるのであった。
「せっかくだし、外で食べに行くか!」
決断した響はすぐさま外着に着替えると、イヴィルキーを持って外に出る。
ネオンが輝く繁華街、そこには会社帰りのサラリーマンや居酒屋を訪れる人が大勢いた。
そんな中響は迷わずに道を歩いていく。
『響、どこ行くのさ?』
『へへ、いい所』
キマリスの質問に響は、小さく笑いながら楽しそうに答えるのであった。
質問に答えて数分後、響は小さな中華屋の前にいた。店の看板には「男は黙ってラーメン」と書かれてる。
響はそのままのれんをくぐり、店の中に迷わず入っていく。
「いらっしゃいませー!」
少々日本語とは違うイントネーションで、店員が掛け声をあげる。それを聞いた響は指一本を立てて、「一人です」と店員に告げる。
「一名様入りまーす!」
店員に連れられて響は、カウンター席に座る。そして一瞬悩みメニューを注文するのであった。
「すいませーん、醤油ラーメンとからあげと餃子、一つずつで」
「醤油とからあげと餃子の一つずつですね、ありがとうございます!」
響の注文を復唱した店員は、そのままキッチンに戻って注文を伝えるのであった。
注文した商品が来るまでの間響は、水を口に含みながら待っていた。
「美味しいのかい響?」
「ああ美味しいぜ、此処は何度も来てるけど飽きないし」
「ふーん、じゃあ食べてみたいもんだね」
響とキマリスが雑談しながら待つこと数分後、響の前にラーメンと餃子そしてからあげが置かれる。
「いただきます」
そう言うと響は、割り箸を手に取りラーメンから食べ始める。
美味しそうにラーメンを食べる響を見て、キマリスは物欲しそうな視線を響に向ける。
「……食べたいのか?」
「いや、うん、食べたいけど。味覚を同調していい?」
「ああ、それくらいならいいぜ」
キマリスは響の舌の味覚と同調させて、料理の味を味わう。
ラーメンの暖かさ、からあげの揚げぐわい、餃子のパリパリ感を余すこと無く味わうのだった。
『美味しいね響』
キマリスの言葉に無言で頷く響であったが、「キマリス、めちゃくちゃ食べてるな」とは言えなかった。
十数分後響はすべての料理を食べ終わり、お代を支払おうとお金を出していた。
その瞬間、耳をつんざくような悲鳴が店の外から聞こえる。
それを聞いた響は、急いでレジに向かいお金を投げるように渡して店を出るのであった。
「どこから聞こえた!?」
『響、右側を見てくれ!』
キマリスの指示に従って響が視線を向けると、そこには高さ八メートルはある巨大な蟹と、赤い車輪を背負った猫の異形が居た。
「あっちか!」
響は異形達を見つけると、そちらにすぐさま走り出す。
響を見つけた猫の異形は背負ってる車輪を掴むと、響に向かって投擲する。
「うぉ!」
すぐさま響はスライディングで車輪を回避する、しかし響の頭上をブーメランのように車輪が飛ぶのであった。
「危ねえなぁ!」
立ち上がった響の腰にデモンギュルテルが生成される、それと同時に響はキマリスのイヴィルキーを取り出す。
〈Demon Gurtel!〉
デモンギュルテルの起動音と共に響はイヴィルキーを起動させて、デモンギュルテルに装填する。
〈Kimaris!〉
「憑着!」
〈Corruption!〉
起動音と共にデモンギュルテルの中央部が開き、中からケンタウルスの姿をした騎士が現れる。
騎士は一瞬でパーツ状に分解され、響の体に装着されていく。そして響はキマリスイヴィルダーに変身するのであった。
「食後の運動と行くか!」
響はそう言うと、走り出すのであった。
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