09話.[慌て始める彼女]

「もう……朝ですね」

「そうだね」


 徹夜になってしまった。

 その間も知くんは大胆に攻めてくれたけど、その全てが優しさに溢れていた。

 あ、ちなみにただキスをしていただけだ、だからちょっと唇が痛いぐらい。


「これからは頻度を調節しないとね」

「あ、そ、そうですね……」


 すみませんと謝ってきた彼が可愛くてまた抱きしめる。

 正直に言って女の私より彼は可愛いからずるいという話だ。

 一美ちゃんには単純に女として負けてるし、なんで彼は私を好きになってくれたの?


「ただいまー!」


 いまのは母ではなく真夕だ。

 彼女もまた朝帰りなわけだけど、あっちの方はなにも起こっていなさそうだな……。


「ただいま!」

「おかえり」

「ふたりで部屋にこもって怪しいなあ、あとこの部屋、なんかえっちな匂いするし」


 断じてキス以上のことはしていません。

 彼女はこちらに聞くことなくベッドに座って知くんにうざ絡みをし始める。


「え、いままでキスをしていたの? やらし~」

「そ、そういう能木先輩はどうだったんですか?」

「うぇっ、わ、私の方はなにもなかったかな~」


 明らかに慌て始める彼女。

 揶揄するためにしている演技という感じでは一切なかった。


「嘘つき、首にキスマークついてるよ?」

「嘘!? あっ、嵌めたなっ!」


 まあ、彼女がなにかをしていようと違和感はないから気にしなくていい。

 寧ろなにもなかったら逆に失望する、彼女だったら遠慮なく襲うべきだろう。


「猫、ありがとね、何回も大丈夫って言ってくれたから自信が持てた」

「あれだよ、一美ちゃんがはっきりさせてくれたからじゃん」

「それもあるかも、今度お礼をしておかないと」


 彼女はそこで空気を読んだつもりなのか出ていってしまった。

 残された私達も流石にこれ以上はあれなので1階に移動。


「ご飯作って!」

「えぇ、空気を読んで帰ってくれたんじゃないの?」

「なんで空気なんか読まなければならないの? それに朝から盛るとかありえないから」

「さか――もう、なにが食べたいの?」

「カレー!」


 はぁ、もう26日だから当然だけど彼女はいつも通りだった。


「手伝いますよ」

「うん、お願いね」


 でも、知くんとこうして一緒にできるからいいか。

 先程までの彼と違って至って普通の柔らかい表情だった。

 あんまり男らしすぎるよりもこっちの方が好きかもな。


「知くん、これからもよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 好きな笑顔、もっと見ていたい。


「カレー!」

「あーはいはい! いま作ってますよー!」


 けど、わがまま姫のせいでそれはまた後でになった。

 ま、いいかな、ずっと見つめすぎてても疲れさせてしまうだけだろうしね。

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