第69話

「え、えへへ」

 さらに、その様子をミーニャちゃんがうらやましそうに見ている。

 モモちゃんを下ろし、ドンタ君に託すと、ドンタ君がモモちゃんをギューッとしてあげてる。

 ドンタ君は5歳でもモモちゃんのお兄ちゃんしてるね。と、その様子をほほえましく見ながらミーニャちゃんに向かって両手を広げる。

「ユキお姉ちゃんっ」

 ミーニャちゃんが私の腕の中に飛び込んできた。

 美少女にぎゅっとされるなんて、日本にいた時の私に想像できただろうか(反語)。

 ミーニャちゃんが私を思い切り抱き着き、頭を私の肩あたりでぐりぐりと押し付けるようにしてから、ぱっと顔を上げる。

 ま、まぶしい。天使よ、天使。2週間前もかわいかったけれど、ガリガリじゃなくなったら、天使になりました。……これ、街を追い出されたよかったよねとか思わずにはいられない。

 魔力がない人間への扱いを考えると……魔力はないけど、綺麗な女の子が、どんな扱いを受けるのか想像しただけで身震いしちゃう。

 ああ、私も、ある意味眼鏡かけてて、おしゃれしてなくて助かったってことなのかな。ぽいっと捨てられただけで済んだのは。

 って、なんだか、街にたいするイメージが私の中でどんどん悪化していくのは、出会った人間が悪かっただけで、街に住む人にはいい人もいるよね?ダメダメ。まるっとひとまとめで悪く思っちゃ。

「ユキお姉ちゃん……」

 愛おしそうに私を呼ぶ天使。

 ああ、もうっ。2週間前に、皆のお姉さんになるって決めてよかった。

 やっぱりこの子たちはおばばさんに愛情をもって育てられていたけれど、愛情不足だったんだろうな……。こうしてぎゅっと抱きしめられることに飢えて……。

 そうだね。抱きしめられたいよね。いい子。大切な子。大丈夫。大好き。……いろいろな気持ちがハグ一つで伝わるんだもの。

 小さなころは、霊が見えてる私……を、単に子供の空想だと受け止めてもらえていたころは、両親も抱きしめてくれていた。

 それが、霊が見えてると分かったころには……。次第にはれ物を扱うように接するようになり……。

 抱きしめてほしかったのかもしれない。平気だと思っていた小さなころの私。

 だって、こんなに抱きしめると幸せな気持ちになるんだもん。

「ミーニャちゃんいい子。ふふ、かわいい私の天使」

 私が小さなころに欲しかったものを、全部この子たちにあげよう。魔力がないというだけで、悲しい思いなんてさせない。

 ミーニャちゃんをぎゅっとしてるのを、今度はネウス君がうらやましそうに見ている。

 うん、よし、お姉ちゃんの胸に飛び込んでおいで。

 ミーニャちゃんの次にネウス君に向かって両手を広げて見せた。

 ネウス君はあれほどうらやましそうに見ていたのに、動かない。

 あれかな。もう俺はそんな子供じゃないという……そういうやつかな。

 いや、その後ろで、こちらに向かって走ってきては、剣に引き戻されびよーんってなって、また走ってきてびよーん……ゴム紐使ったお笑い芸人のゲームか!って状態の「大人」が見える……のは、見なかったことにしよう。うん。

『何をしておるんじゃ、早く行こう、早く、早く、早く、早くっ』

 と、幼稚園児のようなことを言い続けている大人……もいましたね。

「じゃぁ、行ってくるね!」

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