第57話
さっきから話をしていたのはそれ?
服の襟首が枝にひっかっかってぶら下がっているようで、自力では降りられなくなっているようだ。
ネウス君には見えないし声も聞こえないようなので、枝を揺らす手を緩めることはない。……どころか、実が落ちるのが楽しいのか次第に枝が大きく揺れて……。
引っかかっていた服が取れてポーンと飛んで行った。
『うわぁーーっ!落ちるぅ、死ぬぅ~!』
いや、死んで……ると思うけれど、落下してきた小さな人をぽすんと受け止める。
「どういうこと?」
『どういうことじゃ?』
二人同時に声を上げる。
「あの、死んでるんじゃないんですか?なんで、触った感じがするんだろう……」
両手の平の上に立っている小さなおじいさん。白髭に白い髪、頭頂部がちょこっと薄くて。茶色のダボダボしたシャツにベルトを締めてぴちっとした深緑のズボンに、明るい茶色のブーツを履いている。
『死んでるとはなんじゃ!死にそうだったが、こうして嬢ちゃんが助けてくれたじゃないか……って、なんでワシ、人間としゃべってるんじゃ?』
ぎょぎょーっと大げさなくらいおじいさんが身をのけぞらせた。
『まさか、人間、ワシのことが見えておるのか?』
ここまで会話をしておいて、その質問。
「ええ。えっと、見えてますし、声も聞こえてますし……不思議なことに触れた感覚もあります」
触れる幽霊なんて初めて。
というか、霊の類じゃなくて、妖怪なんだろうか?……妖怪も見える人と見えない人がいると聞いたことがあるにはあるけれど。私、日本にいるときも妖怪は見たことなかったんだけどな?
『おお、なんてことじゃ。精霊のワシが見える人間に会ったのは1000年ぶりじゃ。とはいえ、人間にあうのも久しぶりじゃがの。魔王との決戦の地となってからは人間が現れなくなったからのぉ』
「せ……精霊?」
幽霊じゃないの?
『そうじゃ!ワシが地の精霊ノームじゃ。見てわからんのか人間。このとんがり帽子がチャームポイントじゃ』
頭頂部が薄くなった頭に手を乗せるおじいさん。
『あああーっ!帽子がない!そうじゃった、あのくそ鳥めぇ、帽子を盗んでいきおったんじゃ。必死に抵抗したら、ワシごと飛んで……無念、力尽けてワシは落下してあの木に……ぐぐぐ』
なるほど。ノームさんの話を総合すると、帽子をくわえるか足でつかむか何かした鳥がいて、帽子を取られまいと帽子につかまって一緒に空を飛んで、力尽きたということかな。
『まったく。あの赤い帽子はおきにいりじゃったんじゃが。仕方がないのぉ』
ふぅっと小さくため息をついて、地の精霊ノームさんがズボンの中から緑の帽子を取り出してかぶった。
『すまんかったの、人間。これでワシが地の精霊だと分かるじゃろ』
どや顔のノームさん。
……帽子のあるなしだけでわかるわけもないんですけれど。
「ごめんなさい、あの、私の住んでいたところでは、えーっと、精霊に会うようなことがなくて……知らなかったです」
『ははは、どこに住んでいても精霊に会える人間なんて多くはないぞ。そうじゃなぁ。100年に一人くらいワシら精霊が見える人間がいるかどうかじゃ。よほど、魔力が高いか、魔力の波長が合うか、自然と一体化できるか……何らかの条件が整った人間しかワシらを見ることはない』
……すいません、魔力はないし、自然も少ない日本育ちです。っていうか、私は霊力があるだけで……精霊も幽霊も一緒にして……げふんげふん。これは口にしちゃだめなやつだ。
『ワシらが見える人間の中でも、精霊と契約できる人間はまずいないな。過去に10人ほどかのぉ。聖女と呼ばれた女が水の精霊と契約しておったかの。あとはそうそう、魔王との対戦した時におった賢者と火の精霊が契約しておったかのぉ』
ぺらぺらとおしゃべりを続ける精霊ノームさん。
「ユキ、次はこっちの枝を揺らすよ」
ネウス君の声に見上げると、私の真上の枝を揺らそうとしている。
「ああ、うん、今退くね」
ノームさんが私の手の平に乗ったままふむと小さく頷いた。
『なんじゃ、実を落とすために枝を揺らしておるのか。めんどくさいじゃろう。木ごと揺らしてやろう』
「え?そんなことができるんですか?」
『ワシをなんじゃと思っとる。地の精霊じゃと言ったろう?簡単なことじゃ。この木が根を張っている地面を揺らしてやればいいんじゃ』
地面を揺らす?まさか?
と、思った瞬間、ぐらりと立っている場所が揺れ始めた。
「ネウス君、落ちないように枝にしがみついて!」
揺れているのはどうやら本当に木の生えているそこだけのようなので、私は慌てて木から離れる。
グラグラと木が揺れ始め次第に大きく揺れていく。
ボロボロというか、ボタボタというか、ザァァァというか、実が次々に落ちていく。
『どうじゃ』
「ネウス君、大丈夫?」
揺れが収まりすぐに木を見上げる。
「ああ、うん。大丈夫だ。それより、あっという間に実が落ちたね。拾わないと」
するすると降りてくるネウス君。
ああ、よかった。
『じゃぁ、助けてやったお礼に魔力をもらおうかの』
は?
助けた?
そりゃ、実は確かに落ちて助かったと言えば助かったと言えないこともないけれど。
こちらから頼んだわけでもないし、ネウス君も私も危険な目にあったし。代わりに何らかの対価が必要なんてそもそも聞いてないし。
ちょっと腹が立ったので、意地悪な気持ちが沸き上がってきた。
「好きなだけ私の魔力を差し上げます。足りなければどうぞ、ネウス君の魔力も持って行ってくれて構いません」
というと、ノームじいちゃんは驚いた顔を見せた。
『随分気前がいいのぉ。じゃが、ワシはそんな強欲な精霊じゃないぞ。ほんのちょっと。そうじゃのぉ、指先から水を数滴出す程度の小さな魔力で十分じゃ』
おや?意外と謙虚。
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どうも。やっとこさ、ユキがチート的、霊能力を発揮しはじめ……
精霊も、霊なので、霊力のですね……ですね……
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