第24話

 まずは弓を前後にゆっくり引いてみる。うん。すべりもいいようだ。

 少し弓を前傾にすると動かしやすい。次第にスピードを上げていく。黒い粉が溜まってきた。よし。

 一気にスピードを上げる。煙が上がってくる。もう少し、もう少し。腕が疲れてきたけれど、ここでやめればやり直しだ。

「ユキ、煙が……」

 何をするのか、おババやネウス君だけでなくミーニャちゃんやドンタ君も興味深げに私の周りに集まってきた。

 泣いていたドンタ君の涙も止まっている。

 頑張れ、私!

 よしよし。煙も増え、チロチロと赤いものが見えた気がする。火種、できたかな?

 それをシュロの皮の上にのせてふぅーふぅーと息を吹きかける。

 ぽわりと、赤い火が見える。もう少しだ!シュロの皮を継ぎ足して息を再び吹きかける。

「よし、火だ!」

 残りのシュロの皮の上に置いて風を送る。無事に火が付いた。

「火……だ」

 立ち尽くしたままネウス君が火を見つめてる。

「消えないうちに、薪を」

「あ、うん、持ってくる」

 ネウス君とミーニャちゃんが割手々動き出す。

 ドンタ君だけは、動かないまま、小さな火を見つめていた。

「一体、何が起こったんじゃ?魔法の一種か?」

 おババが座り込んで今起こしたばかりの火を見る。

「私の生きてきた世界……国には、魔法が使える人は一人もいませんでした。魔力ゼロの魔力なししかいなかったんです。だけれど、火は使えます」

 思った通り、この世界は魔法を使えば簡単に火が付けられるから、火を起こす方法が発見されないままだったみたいだ。物理法則が違うわけではない。

 地球じゃ、石器時代からすでに人類は火を起こしていたのに。発明はまず不便を見つけるところからっていうし?便利すぎる方法があるのに不便なものを作り出すようなことしないよね……

「魔法も、魔石も、火を作るのには必要ないんです」

 ドンタ君が弓切り式火おこしの道具に手を伸ばした。指先が震えている。

「私がしたようにやってみて」

「俺にも、火がつけられるのか?」

 不安と期待が入り混じったような目が私に向けられた。

「しっかりと乾燥した木を使うのと、あとは煙が出たからと言ってすぐにやめないようにすること。それから」

 一通りポイントを説明する。

 ドンタ君が火おこしをし始めた。

 皆ガリガリで体力も力もなさそうだ。けれど日本では小学校の授業で体験するところもあるんだから子供でも大丈夫なはず。

 ドンタ君が一心不乱に弓を握って動かす。

『ユキ……魔法じゃないのに、魔石も使わないのに、火を出した……ユキはまるで神様のようだ……』

 ディラの美しい顔が輝きを放っている。……イケメンの、キラキラな瞳はちょっと眩しすぎる。って、言ってる内容は危ないよ

 神様って……。幽霊が神様すごいみたいな話する?この世界の神様はいったいどういう存在なんだろう。奇跡みたいなことは神様じゃなくて魔法やポーションで起きるわけだけど。

 それに、すごいのは日本の教育じゃないかな。

 日常生活では、火はマッチでもライターでもガスコンロでも、すぐにつけることができる。だから、火のおこし方なんて知らなくたって何も困らない。それなのに、知識として学習するんだから。

 おかげで、役に立ちました。


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他にも、ユキの眼鏡を利用してとか、火打石をとか色々試してみる?

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