第16話

「じゃぁ、半分こしましょ」

 コップを傾けもう一つのコップにサボテンの汁を注ぐ。

「え?で、でも……」

 戸惑うネウス君に半分の半分の量になったコップを一つ押し付ける。

 すぐ後ろに、ディラが立っていた。ああ、そうだ。忘れるところだった。

「お供えします、どうぞお召し上がりください」

『え?いいの?やった!』

 コップを持ち上げておいしそうにごくごくとサボテン汁を飲むイケメン幽霊。

『いやぁ、うまいなぁ。久しぶりだよ、この味!これの酒、シーマの好物だったよなぁ。ありがとう、うまかった』

 シーマさん?また人の名前が出てきた。300年たっても、お友達が懐かしいんだ。会いたいのかな。最後に会いたかったみたいなのが未練になってるとか?うーん。だとすると成仏するには……その会いたかった人たち……も、どっかで幽霊になってればいいけど。残念ながら私はいたこではないし……。他のことで満足できればいいんだけど……。

 ディラがネウス君の頭をなでなでしている。

 痩せすぎていて年齢がよく分からないところはあるけれど、もしかしたら20歳超えてるかもしれなくて。

 ネウス君、どちらにしても頭を撫でられるほど小さな子供ではないと思うよ。とは思ったものの、まぁ、本人は撫でられていることに気が付いていないし、見ている私の気持ちはホンワカするのでいいか。

「では、お下がりをいただきます」

 コップを手に、人生初のサボテン汁を口にする。

「あ、美味しい」

 ん?またちょっと霊力上がったような?って、気のせい気のせい。暑くてバテてたところに、飲み物飲んで元気になっただけだよね。

「ありがとう。じゃぁ、今度はこれ飲もう。まだ喉乾いてるよね?」

 小指の爪の先ほどの水の魔石とやらを指でつまんで持ち上げる。まるでクレヨンで色を塗ったようなはっきりした鮮やかな水色の小石だ。

 が、これ、どうすれば水が出るの?呪文とか知らないけれど……。えーっと。

「【水を出して】」

 水の魔石からジャーっと水が出てきてコップを満たした。

 おおお!おっと、こぼれるこぼれる。このまま少年のコップにも水を入れる。って、こぼれるこぼれる。

「【ストップストップ、もういいから】」

 で、水は止まった。なんだ、呪文じゃなくてお願いすればいいのか。

「さぁ、どうぞ」

 顔をあげると、ネウス君がまた青ざめている。いや、だから、何で?

「魔力0と言ったのは……嘘……?」

 ああ、水を出したから?

「本当よ。今は、これ、水の魔石で水を出したの。私の力じゃないよ?」

 手の平に乗せて見せる。

「水の……魔石?なんだそれ?」

 はい?

「えーっと……知らないの?」

 この世界の常識じゃないの?

 どういうこと?

 ディラの顔を見る。

 ディラが首をかしげる。

『いや、子供でも知ってるよな?ダンジョンのモンスターを倒すと魔石が手に入る。魔石には水、火、土、風、光の属性の物があって……って』

「魔石を知らない?」

「……俺も妹も、小さいころから街の外にいるから……知らないことが多いんだ。ごめん。でも、ユキ……俺はユキのものだから。俺ができることなら、なんだってユキのためにしてやる、いや、させてくれ」

 いや、謝ることじゃないし。

 むしろ、異世界から来た私のほうが知らないことだらけだろうし。

 っていうか、いやいや、奴隷扱いしないからね?ネウス君が私のものだなんて思ってないって。


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