私の作る魔力回復薬が欲しい?――知らんけど。

とまと

第1話え

 私、花村由紀30歳。

 従妹の八雲きらら27歳と光に包まれたところまでは記憶がある。


「そっちの女は魔力ゼロか、捨ててこい。すぐに次の召喚にとりかかれ」

 石造りの部屋。

 魔法陣のような模様の描かれている床。

 白装束の魔法の杖のようなものを持った人達数人。

 魔力?

 召喚?

「ほら、ぐずぐずするな。立て」

 何が起きたか分からず冷たい床に座り込んでいた私を、2人の鎧を身にまとい剣を手にした男が両側から腕を持って引っ張った。

「あら、由紀姉さん、捨てられちゃうんだ。ふふふ、仕方がないわよねぇ」

 私よりも前に、魔力が高いと驚かれていた従妹が私を蔑むような眼で見る。

「私は魔力が高いって言われていたから、聖女かもしれないわ。どうしましょう、王子に見初められたら。まぁ、たとえ由紀姉さんに魔力があったとしても王子に見初められることはないでしょうねぇ。よかったじゃない。むしろ、その見た目に即して魔力もなくて。みじめな思いをしなくて済むんだから。くすくす」

 かわいくて常に男の子たちに囲まれにちやほやされていた従妹の八雲きららは、おしゃれに興味がなかった私に時々こうして絡んでいた。

 あまりに素行がひどいときは注意もしたりしたけれど「由紀姉さん、私がかわいいからってひがんでるんですか?」と笑っていた。

 人前で指摘しようものなら「由紀姉さんが私をいじめるんですぅ」なんて周りの男の子たちに泣きついていたたけれど……。


 ぶれない。突然訳の知らない場所に来て、知らない人たちに囲まれているというのに。


「やだ、睨まないでよ。きらら怖い~。もう、ねぇ、捨てるなら早く捨てちゃって、ね?」

 と、この状況が理解できずに茫然としている私とは対照的に、一番のイケメンを見つけて甘えた声を出している。

 こんなわけの分からない状況に陥ったら、知り合い同士力を合わせようという気はさらさらないようだ。

 腰が抜けてろくに立ち上がれない私を、鎧の男二人はぞんざいに腕を持って引きずっていく。

「ばいばぁーい、由紀姉さん。あ、恥ずかしいから私の知り合いだって言わないでよぉ。もうほかに親類もいないんだしぃ、顔合わせる必要なんてないわよね?」

 イケメンの腕を取って、私に向かってきららがにこやかに手を振っている。

 そして、声に出さずに、口が動いた。……ざ、ま、あ……と、動いたように見えたのは、気のせいだろうか。

 私をずるずると容赦なく兵は引きずっている。とても女性に対する扱いではない。

「なんで魔力ゼロの低級民が召喚されるんだ?」

「本当だよなぁ。今までは魔力だけなら上級民以上の者ばかりだったよな。もう一人の綺麗な子は十分な魔力があるのに。こっちの変な顔のは……」

 兵がさげすむような目で私を睨み付ける。

 変な顔?いや、おしゃれ皆無の前髪長めで黒ぶち眼鏡でノーメイクだけれど。可愛くはないけれどよくある顔だよ。変だと言われるほどじゃないよ。

 階段を上がり、石造りの部屋から真っ赤な絨毯が敷き詰められた廊下を通って小さな扉から外へ。

 いや、これ、あれだよね、どうも……。

 地下室で召喚魔法が行われて、日本から召喚されちゃったあれか?

 しかも、もし魔力が非常に高いと喜ばれていたきららが聖女だとしたら、私って巻き込まれたのでは?

「魔力ゼロ。陛下より捨ててくるようにと命を受けた。頼んだぞ」

 裏口らしき場所から外に出され、ずるずるとしばらく引きずられ、兵たちに乱暴に投げ捨てられた。

 捨ててこい……と、確かに、口ひげ生やした偉そうなやつが言っていた。

 ちょっと待って、勝手に召喚しておいて、捨てる?

 魔力ゼロだったから?役に立たないと判断したから?いや、役立たずなら日本に帰してよっ!聖女がいればいいんでしょ!

 と思ってからぞっとする。

 日本に帰さずに、どこかへ捨てに行かせるのはなぜ?日本に帰す方法がないから?

「魔力ゼロ?あーあ、召喚魔法もタダじゃないはずだ。とんだハズレを召喚したもんだ」

 歯が何本か抜け落ちた男に唾を吐き捨てられた。

 なんで?私、何も悪いことしてないどころか、被害者だよね?

「ほら、乗れ」

 兵たちに命じられた小柄な男が、地面に敷かれた3畳ほどの板を指し示す。

 乗れ?板の上に?

 訳が分からないまま座り込んでいたら、背中を蹴られた。

「さっさとしろ。他にも仕事があるんだ。ったく、汚らわしい低級民。魔力だけでなく、脳みそまでゼロか?」

 倒れこむようにして板の上に両手両膝をつく。

「【浮遊、風の力よ、追い風となって向かう先へと進ませよ】」

 小柄な男が板の上でつぶやくと、板が浮かんだ。驚いている間に、1mほど地面から浮き上がった板が動き出す。スピードは自転車くらいだろうか。

「ま、魔法?」

 魔力という単語が出てきたし、召喚も体験した。当然魔法があるだろうというのは想像できたけれど、実際に魔法を目にするとある種の興奮が沸き上がる。



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注*この物語はフィクションであり、霊に関する記述も全く作り物です。除霊方法など試さないように。


よろしくお願いします(*'ω'*)

*他サイトにも掲載中ですが、改稿版でこちらが最新になります。

サイトごとに初稿→改稿→再改稿と、なっております……。

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