彼女の話

 嫌いだ。同僚も、上司も、後輩も。良い大学を卒業出来なくたって夢は追えると思っていたのに。現実はどうだ。希望通りの施設で研究出来ることになっても障害は尽きることなく襲いかかってくる。冷たい空気と視線に満ちた廊下を早足で通り抜ける。消毒液の匂いが鼻をついた。

 結局最先端の研究に携わることは出来ずに、わざわざライセンスを持った人間でなくても出来るようなAI教育の仕事に回された。識別コードもふざけた同僚に勝手に登録された。「この施設に来た6人目の女研究者だから」なんてつまらない建前だ。FailerのF、FランクのFと陰で呼ばれているのはよく知っている。ここで起こる何もかもがくだらない、自分のしている事に意味を見出せない。何もかもが不愉快だ。

「F」

 教育中のAIは今日も下手な機械音で私を呼ぶ。八つ当たりなのはわかっていても、私は「これ」が嫌いだった。作りたかった「自発的に行動を起こす意志を持ったAI」には程遠い人間のご機嫌取りのためだけのプログラム。虫唾が走る。

 AIを無視したまま内部のファイルを展開する。どんなに気に食わなくても、少なくとも業務はこなさなければ。私情を仕事に持ち込むのは非効率的だと理解していても、余裕のない今の自分には優しい受け答えなどできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る