ブラック・アウト
みんと
序章、それと独白
「私の記憶をデータにしたい。あなたを思う時に神経細胞を伝う100mVの電気信号のバックアップを取って、永久に保存出来たらいいのにね。そう思わない?」
「申し訳ありません、私にはそのような機能はないのです、F」
「知ってるよ。解ってて言ってる」
「しかし、Fとの会話で得た学習データから逆算し、擬似的な記録は作れますよ」
「そんなことしなくても、思い出話をしたらいいじゃない。人間の記憶は思い出す度に強くなるんだよ」
雪が降っている日のように寒くて静かな夜。耳を澄ますと、微かなモーターの駆動音と細やかな電子音が聞こえた。皆が帰ってしまったあとの研究所、この部屋には私と彼……正確に言えば、彼を彼たらしめるアプリケーションが存在するコンピュータ、その一人と一つだけ。月は見えないけれど、色んな思い出を笑える記憶に昇華するにはいい日だ。そういえば、「思い出」という概念について彼にちゃんと学習させていなかった気がする。ちょうど良かった。少し、話をしよう。
「ニド、聞いて。あなたとのことを思い出すから。」
電子の海に溢れた恋心が意思を持って広がるのに、そう時間はかからなかった。
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