第2話 マクレガー家の侍女たちと私
「アイリーン様? どうしました?」
お茶の準備をして戻って来た侍女が私の様子に気付いてギョッとしていた。
部屋の中にいた他の二人の侍女も、その声に反応したかのように私の方を見る。
「あ……何でも……」
無いと言いかけて、また涙が流れたのが分かった。
やばい、涙が止まらない。
だって、頼れる人もいない
「こすっちゃダメですよ」
すぐ近くにいた侍女が慌てて、タオルを取りに行っている。
私の涙を拭いたり、紅茶の茶葉をカモミールに変えたりしばらくバタバタしてからやっと落ち着いた感じになった。
「そりゃあ、俺からの愛を期待しないで欲しい。なんて、お屋敷に着いた早々言われたら傷付きますよ」
お茶を入れてくれながら言っている。そういえば、一緒に聞いてたんだっけ、えっと名前は確かエイダ。
「え? 誰がそんなこと言ったんですか? って旦那様?」
日本だとまだ中学生かな? って感じのマチルドも話に乗って来た。
「それ以外に無いでしょう? 私、後ろにいて、何? こいつって思っちゃいましたもん」
「わ~。ひどい。そんな人だったんですね。ここの旦那様って」
もう一人の、少し年上っぽいナタリーまで……。
いや、侍女としてはダメでしょう。雇い主の悪口なんて。っていうか、口の利き方、酷すぎる。さっきまで、上品だったのに。
「アイリーン様。そんな奴の言葉に傷付く事なんて無いですよ」
ナタリーは一生懸命、励ましてくれているけど。
「そんな奴って……。いけませんよ。あなた方の雇い主でしょう? 侍女としてこの先やって行きたいのなら……」
あんまりな言い方に、つい説教じみた事を言ってしまう。
「この先は無いから大丈夫です。私達、行儀見習いで侍女やっている、庶民でも裕福な家庭の娘ですから」
「そうそう。エイダの家なんてここの領主様より強いですからね」
ああ、それで領主に対する敬意も忠誠心も無いんだ。
まぁ、私の世界でも近世以降は、商人に借金してたり色々借りがあったりで、頭上がらない貴族もいたらしいから。
そういう世界観でもないと、身分の低いヒロインなんて悪役令嬢達から不敬罪とられちゃうか。
……もしかしたら、問題児の集まり?
小説は王都が中心の物語で、こちらに戻ってくるのは婚礼の儀間近の頃。
本来アイリーンは、もうこの部屋を飛び出してアルフォードと共に王都に向かっているはず。なのに戻ってきたら、アイリーンの悪評は領地中に広まっていた。
小説や乙女ゲームでも語られていなかったけど、この子たちの所為だったのかな? 怖いなぁ。
「あなた達が、味方になってくれて、心強いわ」
私は、ニッコリ笑って言った。
「任せてください。アイリーン様」
「私達で、アイリーン様を悲劇のヒロインに仕立て上げてあげる」
いや本当に敵に回さなくて良かった。
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