5
「やっぱり分かりませんか」
期待と不安が入り混じったような目を向けられて焦る。
初対面じゃなかったのか?
「あれ? 君みたいな可愛い子、忘れるはずないのにな~?」
どう答えるか一瞬迷ったが、陽キャオートが戻って来た。
スイッチがオンになったり、オフになったり忙しない。
でも、これほど陽キャオートに感謝したことはない。
前世なら思い出せないことが申し訳なくて、この場で土下座を始めていたと思う。
そんなことになっていたら、このお洒落なカフェで笑い者になり、彼女にまで恥をかかせていただろう。
「もう、ひどいですよ。圭太さん」
「へっ!?」
驚きすぎて、変な鳴き声を発してしまった。
名前を知られているということは、やはり初対面ではないようだ。
いや、もしかすると……。
メンヘラ、ヤンデレ系のヒロインで、オレのことを調べつくしていたのかもしれない。
そして、この子はヒロインだが、『物語』自体はまだ始まっていなくて、スタート前の犠牲者がオレだった……とか?
オレはナンパモブではなく、彼女と関わりがあった『過去』として語られる系モブだった?
「…………」
目の前に座る美少女をちらりと見る。
「ひどい」と言われたので怒っているのかと思ったが、彼女は穏やかな顔をしていた。
少し拗ねたような素振りを見せてはいるが、それも可愛いだけで負のオーラは感じない。
「?」
目が合うと小首を傾げつつ微笑んでくれた。
少し動いただけなのに、これもまた可愛い。
どうみても正統派の美少女だ。
ここまで可愛いと、ヤンデレだろうがストーカーだろうが、どうでもいいなと思える。
刺されても本望だ。
「やっぱり、覚えてないですよね……。でも、分からないくらい変われたんだと思えたら嬉しい」
陽キャオートが発動しなかったため、どうリアクションしたらいいか迷っているうちに、彼女は自己完結させたようだ。
よく分からないが、彼女の顔が曇る結果にならなくてよかった。
「あの……」
ホッと胸を撫で下ろしていると、彼女が声をかけてきた。
「うん?」
「…………」
言いづらいことなのか、彼女は言葉を詰まらせている。
少しうつむいて恥ずかしそうにしていた彼女だったが、意を決したのか、こちらを向くと口を開いた。
「連絡先、聞いてもいいですか? これからも会って頂けますかっ!?」
思い切って言葉にしたからか、声が大きくて驚いた。
彼女の透き通った声は店内によく響いた。
「あっ……大きな声を出してすみませんっ」
「あははっ、元気だね。大丈夫だよ、気にしないで〜」
そう言ってフォローしながら、オレは困惑した。
周囲の視線を感じ、恥ずかしそうにしている彼女を見て思う。
連絡先を知りたい、これからも会いたい、ということは、少なからずオレに好意を抱いているということだ。
覚えはないが、オレと面識があったみたいだし、真面目に想いを寄せてくれているのかも……?
自意識過剰かもしれないが、先程からそんな空気を感じている。
美少女に好かれるなんて嬉しいに決まってる。
でも……。
こんな素敵な子が、ナンパばかりしているオレのようなチャラ男に引っかかってはいけない。絶対に!
陽キャオートよ、しばらくオフでいてくれ――。
君にふさわしい人は別にいると伝えたい。
「……オレさ」
ゆっくりと話し始めたオレを見て、彼女が姿勢を正した。
真面目な話だと感じ取ってくれたようだ。
「女の子が大好きなんだ。見た目でも分かると思うけれど……こんな感じだからさ。自分で言うのもなんだけど、碌でもないよ。あまり関わらない方がいい。もっとイイ男はたくさんいるからさ」
なんとかチャラくならずに伝えることができた。
これで碌でもないと自己申告するような奴から逃げてくれるだろうと、そう思ったのだが……。
「あなたが……女の子が大好きなのは知ってます」
「え」
「私はあなたを見た目で判断したりしません。だって、あなたは私を見た目で判断せずに話をしてくれたから」
「?」
思考が追いつかない。
オレがナンパ野郎だと知っているのに仲良くなりたい……?
「オレ、女の子とデート中でも、可愛い子がいたら声をかけに行くような奴だよ?」
これには前科がある。
もちろんブチ切れられたし、速攻でフラれた。
「だったら……! 他の女の子に目がいかないくらい、私がもっと可愛くなります!」
「…………え?」
ずっと予想外のことが起こり続けているが、これは……今日一番の想定外だ。
普通、女好き&浮気宣言されたら、『引く』か『怒る』の二択だろう。
「圭太さんの連絡先を賭けて、私と勝負をしましょう」
「勝負?」
「はい。明日、私とデートをしてくれませんか? 一緒にいて一日、圭太さんがナンパをしなかったら、私に連絡先を教えてください」
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