伊藤時と自画像

はい。これから、講演を再開しようと思う。

伊藤時は、鈴木さんと同じ部屋に住んでいるわけだが、伊藤時はいつも、ある自画像を見て怖がっていた。その自画像は、スイス出身の画家、アルノルト・ベックリンの『ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像』だ。その自画像は、タイトル通りの自画像で、死神というのは、おそらく骸骨のことだろう。この絵画を一度、美術館で見たことがあるのだが、実際に、そうだった。

その自画像に怖がっても、伊藤時は動いていた。あ〜なんて素晴らしい掛け時計なんだ!

伊藤時、素晴らしい。ああ。少し乱れてし

まった。申し訳ない。

さて、話を戻すか。ははは。また、「さて」

を言ってしまった。もう一度言うが、気にしないでくれ。そのことを、会場(ここ)に来てくれている人たちの一人が言っていたように、「無視」と捉えても良いから。

さて、話をしよう。アルノルト・ベックリンの自画像に怖がっても動く伊藤時は、あることにも怖がっている。伊藤時は、鈴木さんを怖がっているんだ。まず、アルノルト・ベックリンの自画像を持っていること。そして、いつも、丑三つ時になると、いきなり叫ぶこと。

それらに……だ。まぁ、名前が珍しいし、焼身自殺が起きた部屋に住んでいるのだから、

鈴木さんに怖がることは仕方ないだろう。

ああ。なんて素晴らしいのだろう。それでも伊藤時は動いているのだ。素晴らしい。あ。申し訳ない。

さて、話を戻そう。さて、さっきまでの話を再開することにしよう。

と、その前に、話を、最初あたりに戻すけど、伊藤時は丑三つ時のことを言っていた。そう、今の時間は丑三つ時だ。さて、鈴木さんが今から、いきなり叫んでもおかしくはない。そうだ。伊藤時は怖がっているのだ。鈴木さんがいつ叫ぶのか、伊藤時は怖がっていた。

そんな時、鈴木さんはいきなり、「な、なんで、こんなわたしが生きてるのよ!会社でいつも上司から叱られているのに。友達が昔からいないのに。あー!なんで!なんで!なんでなのー!」叫んだ。伊藤時は更に怖くなり、一瞬、止まってしまった。しかし、もう一度、動き出した。

動き出した伊藤時は、鈴木さんがもう、叫ばないことを確認した。そして、伊藤時から、さっきまでの恐怖が消えた。

しかし、伊藤時はある光景を目撃し、もっと

怖くなった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る