ウィザードofクラフト
アリエッティ
第1話 杖を握れば..
私達はあくまで大工。
使うのでは無く作り続ける商人。
「ヴジュナの樹にワイバーンの火花、あとは漆塗って完成だね。」
フレイムの杖、発注を受けて作成した
主に火属性の呪文に適した武器だね。
「..よし一本出来た、納品するよ!」
「はいよ、ご苦労さん。」
聖なるヴジュナの樹に火花を振り掛け余った炎は固定して留め置く。質の良い客だと素材は自分でかき集めて来てくれるけど、嫌な客なら全部丸投げ。
「包装完了〜!
ルーンさん、送信頼むわ〜」
「…了解。」
受注係のベジーが依頼を受け、製作係の私レナが腕を動かす。作り終え、包装までしたら配達係のルーンさんが魔法で依頼主に届ける。
「割に合わないよなぁ..」
皆製作能力はあるのに私だけが工房で仕事してる。あとの二人は本読んでるか寝てるかどっちか、まぁそれも一重に私の製作能力が他より高かったからなんだけど。
「送信完了..。」
「はぁ、もう終わり?
なら少し寝ようかなぁ..疲れたわ。」
「疲れた?
杖一本作っただけじゃないか、大袈裟にモノを言ったらいけないよ。」
「..あのねぇ、杖一本たって普通の杖じゃないの。結構大変なんだから、ワイバーンの火花なんて振る量間違えたら大爆発だかんね、超コワイよ?」
ベジーさんはいつも平気でこんな事を言う。片腕を製作中の事故で無くして義手をハメている筈なのに、当時の恐れを忘れたのだろうか?
「腕が悪いと調子もクルウんだね..。
...あ、云っちゃいけなカッタ..?」
「ルーンさん、それ笑えないから。」
また余計な事を言う。
ルーンさんはブラックジョークが好きみたいで、口を開くと災いを呼ぶとかでいつもマスクで隠してる。その後の様子を見たところ大して効果は見られないみたいだけどね。
「とにかく私は寝るわ、また依頼でも来たら起こしてくれない?」
なんやかんやで私は部屋に帰る。
..まぁ部屋といっても工房の脇に無理矢理作ったベッドと物置のある小さな小屋みたいな場所だけど。
「無いよりマシだよねぇ..よいしょ」
扉を閉めて、そのすぐ脇に仕事道具を立て掛ける。身長程もある大きな槌。
「……いつからだろう。
アレが重たく感じなくなったのは」
152センチと小柄ではあるが、重量は己の体重の二倍はある。そういえばベジーさんやルーンさんと比べるとシャレた服も持ってないし、異常に筋肉が付き過ぎてる。
「もしかしてアイツら...こうなる事わかってて製作任せたなぁっ!?」
仕事より〝カワイサ〟を取りやがった
お陰で年中タンクトップだよ!
「フザケンなチクショー!」
『トントン』「あん⁉︎」
頭を掻きむしり怒りを放出しているレナを無視して、平然とした扉のノック音が部屋に響く。扉が開いて顔を出したのは、配達係のルーンだった。
「ルーンさん、何?」
「仕事。」 「仕事、ウソ早っ!」
休む暇も無く槌を持つ。
重みはまるで感じない、悲しい程に。
「次から次へと..」
「まだ二人目だよ。」
無責任な事言ってまぁ、そうですよ。
まだ二人目ですよどうせ!
「何の用?」
工房前の受付に顔を出すと立っていたのは古ぼけた銀の鎧をきた鋭い目の剣士だった。
「これを頼む」
差し出したのは酷く傷んだ汚れた剣。
随分と年季が入ってた、一度に付けられた傷かもしれないけど。
「これをどうしろって?」
「打ち直して貰いたい」
「打ち直すぅ?
あのねぇ、ウチは鍛冶屋でも修理屋でも無いんだ。新規で発注して貰わないと武器は扱えないよ」
思い入れがあるのはわかる、だけど役目を終えたものは棄てるべきだよ。
「だから云っている」
「..何?」
引き下がらないところを見ると、何か言い分がありそうだ。
「ここに新たな素材を加えて、今より〝新しい剣〟へと打ち直して欲しい」
「……〝改造〟って事か?」
「そうとも言えるな。」
モノは言いようだな、こりゃやるまで帰りそうにない。
「..わかったよ、引き受けてやる。
で、素材は何を?」
「ヤマタノオロチだ。」
「はぁ!?
バカかよアンタ!」
地獄みたいに過酷な山に昔から伝わる伝説のドラゴンじゃん!
もしかしてこの剣...そこで受けた傷?
「..持ってるのか?
ヤマタノオロチの素材をさ。」
「ない。」「やっぱバカだアンタ!」
夢見てるのか?
今ここで私に夢を語っているのか!?
「共に集めて欲しい。」
「冗談いうなよ..私唯の大工だよ?
素材集め用の武器はあるけど伝説の竜なんて相手に出来る代物じゃあ..」
「今しかないんだ!」「はえっ!?」
冷静だった剣士が突然声を上げて頼み込んで来た。どうやらヤマタノオロチは今の段階では万全では無いらしい。
「ヤマタノオロチは深く眠りについている。眠ったヤマタノオロチは八つの首を分け、各八箇所の寝床を作ってそこを住処とする。..手間は掛かるかもしれないけど、そこを一つずつ回って首を回収していけば、充分勝てる可能性はあるかもね。」
「‥なんでベジーさんが説明すんの」
「最近読んだ本に書いてあった。」
なまじ知識が豊富だと首を突っ込む回数も多くなるみたいだな。..ヤマタノオロチは今首がバラバラな訳か、八箇所回ってまで直したい剣なのか?
「首の居場所知ってんの?」
「ああ、把握している。
順番でいけば一つ目はヤマタノ一首目〝イチマタ〟の居場所だが..」
ヤマタの一首目イチマタって言うんだ
「灼熱の鉱山だ。」
「..なんかめちゃめちゃヤバそう。」
なんでそんなところで寝てんの?
「..そこなら転送できるよ。」
「なんで出来んのルーンさん?」
「準備いい..?」「いきなり?」
「1..2...」「聞く気無いじゃん。」
イチマタって何が苦手なのかな〜..わかんないけど。水、かな?
「転送..!」
「恩にきる、名大工。」
「あぁもういいや、現地で調達しよ」
役回り最っ悪、素材くらい集めろし!
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