『物質の本質について』
やましん(テンパー)
『物質の本質について』
これは、フィクションであります。科学的な考察ではいっさいありません。
🐶
ものというものは、探す時には、なかなか見つからないものである。
つい先般、そこにあったのを見たような気がするのだが、いざ、ちょっとしたものを書こうとした際に、資料にしたいのにもかかわらず、その姿が見えない。
いやあ、おかしいなあ。
たしか、おとついあたりは、ここで見たと思ったが。
避けておけばよかったなあ。
と思っても、後の祭りである。
ぼくの場合は、たいがい、CDとかLPレコードとか、本とかである。
ときに、役所の関係とかの資料であったりすることもある。
しかし、こうしたものは、時期がくれば必要になることは分かっている。
分かっていても、見つからない物は見つからない。
それに、こうしたものは、ほとんど意味がない。
だから、分かっていない物となると、なおさら難しいのは当然の事だ。
この小さな家の中のどこかにいることは、まず間違いがない。
小さい家ほど、無くなった物を探すのは、むしろ困難である。
なにしろ、整理する場所がないものだから、積み重ねるしか方法がない。
一度重ねると、どんどんと、重なってゆく。
それは、やがて表層なだれを起こしてしまう。
そうなると、前々回くらいに探していた物が、ひょっこりと出てきたりもする。
この時に、しっかと押さえておかないと、再び顔を出すのがいつの日のことなのかは、ますますわからなくなるだろう。
考えてみるに、探し物という物は、直前に、ひょいと顔を出している場合が多いと思う。
彼らは、近々に、探されることを、予知している。
そうに違いがない。
まあ、嫌がらせのようなものだ。
そこで、今日も、ぼくは、一枚のCDさんを探し回っていた。
最近見たに違いがないが、さっぱりと、姿がない。
困ったものだ。
『うつうつ』のねたに使いたいのに、出て来てくれない。
『うつうつ』も、もう、10.000回を超えた。
こっちの機嫌がよい時は、その曲は後に回してしまうが、いらいらしていたり、落ち込んでるときは、意地でも見つけたい。
あっちこっち、地滑りや、がけ崩れを起こしながら、探し回る。
最後に、誰も入れることができない、応接間に行き着いた。
応接間の用をなさない。
もとも、僕のところに尋ねてくるものは、担当の警察官さんくらいである。
気分が悪い時は、寝てしまってることも多いので、気が付かない事もままある。
それは余談だが、ぼくは、ゴミ袋とか、本とかCDとかレコードとか、あらゆる雑多なものが押し込まれた部屋を探し回った。
災害時の避難所みたいに、自然のパーテーションができてしまっているようだ。
もっとも、大きさから言えば、六畳間より狭いくらいである。
様々なものが、足にまとわりつく。
もっとも、我が家は、古い名家でもなく、とくに、お宝などはない。
すると、奥の小さな隙間から、声が聞こえた。
『ああ、ぼくの愛しい君よ。』
とかなんとか、言っている。
なんだろう、と思ったら、昔のLPレコードくんが、探していたCDさんを抱きしめて、キスしようとしていた。
『こおらあ。何やってるの。必死に探してたのに。』
LPくんと、CDさんは、不意打ちにあったものだから、こてんと、重なって、ひっくり返った。
『くそ、やましん。こんな時に出てくるな。』
LPくんが、恨めしそうに言う。
CDさんは、恥ずかしそうに体育座りになっていた。
つまり、ケースが、半開きのまま、動かなくなっているのだ。
『あのね、君たちは、ぼくの所有するモノたちなの。さがしてたんだから、とにかく、ぼくと、付き合ってください。』
CDさんは、困ったように、LPくんの裾を掴んでる。
まったく、ものすごく、歳の差があるのに。
どこで、意気投合したものか。
『やましんは、ぼくらが、幸せに生活できるように、可能な限り、便宜を図る義務がある。それが、持ち主とか雇用主の役目だろう。え?』
『いや、それは、どうかしら。いまさら。』
『だから、やましんさんは、だめなんです。』
CDさんが、小さな声で囁いた。
『きちんと、整理整頓して、お掃除していたら、こんなことにならなかった。』
いちばん、痛いところを指摘された。
『そうだ。その通り。すべて、やましんが招いた問題だ。』
くっそ~~~~~~~。
なんだよ、それはあ。
しかし、まあ、そうだよな。
ぼくには、あまり、彼らを責める資格はない。
生きている資格さえ、ない、そういうべき状態なのだ。
そこでぼくは、そのまま、その場を去った。
とりあえずの物だけ持って、ぼくは、家にカギをかけて、歩いて外出した。
まあ、他に手段はない。
行く当ては、まして、まったく、ない。
久しぶりに、海でも見てこよう。
もっとも、海面の急激な上昇により、このあたりは、島に戻ってしまった。
ほかの家の人たちは、みな、どこかに去って行ったが、なぜかぼくだけは、ここから出ることが許されていないのである。
抗うつ剤を飲んでいたこととか、その他、理由があるらしい。
今は、島から勝手に出ることは、ご法度なのである。
この国の国土は、その多くは、海中に失われたのだから。
***************
おしまい
『物質の本質について』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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