野球拳式クイズ対決 ~学園の支配者!女帝・剣ヶ峰霧子篇~

貴音真

第1話「試合開始!」

【5月1日(金曜日)】


 ここは、私立剣ヶ峰けんがみね学園高等部にあるクイズ部の部室である。

 暗幕で外部からの視線を遮断し、入口を施錠された部室で、二人きりの男女が机を挟んで対峙していた。


 今、まさに!男女二人の知識と矜持とを賭けたクイズ対決が幕を開けようとしていた!


 ズガーン!!!※落雷の音のSE※




「ジャンケン…」


「ポイっ!」


「あら?ジャンケンは私の負けね。では新入しんいりくん、先攻後攻の好きな方を選びなさい」


「では、先攻でお願いします!それと部長。僕の名前はシンイリではなくニイリです」


 攻守を決めるジャンケンに勝ち、先攻の権利を奪い取ったのはこのクイズ部に入部したばかりの男子学生、新入にいり太陽たいようだ!

 太陽はこのクイズ部で唯一の男子部員である。このクイズ部に男子が入部するためには既に在籍している女子部員からの紹介状が必要であり、尚且つ入部時に厳しい審査(実際は部員による多数決)があるため、現在は太陽が唯一の男子部員となっている。

 ちなみに、太陽はこの春に剣ヶ峰学園高等部へ転校してきたばかりの2年生であり、クラスで隣の席に座る女子から誘われて入部に至る。

 余計なお世話かも知れないが、一応説明しておくと、太陽は彼女いない歴=年齢という正真正銘の童貞チェリーである。


「あら?新入部員しんいりであることは確かなのでしょう?…それはどうでもいいとして、やはりあなたも先攻を選ぶのね。まあ、これから私が出す問題に答え続けられれば1回表で即10点差コールドもあり得るのだから、先攻を選択するのは当然のコトワリかも知れないわね。ふふふ…」


 そう言って太陽に不敵な笑みを向けたグラマラスな女は、このクイズ部の部長で剣ヶ峰学園高等部3年生である、女帝クイーン剣ヶ峰けんがみね霧子きりこだ!

 何を隠そう、この剣ヶ峰霧子という女は、現役の学生でありながら、剣ヶ峰学園の理事長であり学生会の会長、さらには風紀委員長も兼任しているなのである。そして、霧子において何よりも注目すべきはそのスペックの高さにある。

 男ならアラン・ドロン、女なら剣ヶ峰霧子と評されるほどの美貌の持ち主であり、ずば抜けたスタイルもさることながら勉学も運動能力も他の追随を許さぬほどである。唯一の弱点と言えば、生まれつき視力が悪いためにということくらいである。その視力の悪さが故に分厚いレンズの眼鏡、所謂いわゆるビン底眼鏡を常時掛けているが、それでも霧子の魅力を隠すことは全く出来ていないほどの魅力的な女、それが剣ヶ峰霧子なのである。

 しかし、それほどの美貌の持ち主である霧子も、小さな頃から箱入り娘として大切に育てられたため、今までの人生で男との交際経験は一切なく、彼氏いない歴=年齢という正真正銘の処女おとめである。

 その人並外れた見た目やクール且つ優雅で余裕のある立ち振舞いなどから、男性経験も豊富に違いないと周囲に思われているため、霧子は俗に言うとなってしまっている。


「さて、新入しんいりくん。準備はいいかしら?そろそろ試合開始よ」


「はい!…僕の名前はニイリなんですけど」


「では第1問」


(僕のツッコミはシカトですか。もうシンイリでいいや…)


 ここで、時間停止タイムストップ


 二人のクイズ対決が始まる前に軽くルール説明をしておこう。

 新入太陽と剣ヶ峰霧子の二人が今から行うのはというものから派生したである。

 野球式クイズ対決とは、野球のように攻守に分かれた出題者と回答者が交互に攻撃と守備を繰り返すクイズである。

 守備側は野球の投手が球を投げるようにクイズを出題し、攻撃側は回答者としてそれに答える。そして、2連続不正解ならばアウトとなり、スリーアウトを取ったら攻守が入れ替わる。ここは初心者が間違えやすい点なのだが、野球式クイズ対決は3連続不正解ではなく、2連続不正解でアウトとなる。謂わばツーストライク制である。

 ツーストライクでアウトとなるのは、本来の野球とは明らかに異なる部分なので勘違いせぬように気をつけてほしい。

 要約すると、攻撃側である回答者は1回の攻撃につき通常6問答えるチャンスが与えられていて、その中で出題されたクイズに正解するとヒットとなる。

 それに加え、連続で正解する毎に長打になっていくというルールがある。

 1問目と2問目は連続で正解してもシングルヒットだが、連続3問目以降は全てツーベース、連続5問目以降は全てスリーベース、連続7問目からは全てホームランとなる。

 そして、10点差が付くとその時点で試合終了コールドゲームとなるというルールもあるため、野球式クイズ対決では先攻が有利とされている。計算上、先攻が1回表に10問連続正解すれば即決着となることもあり得るのだ!

 ちなみに、連続というのは場合であり、一度でも不正解を挟んだ場合はシングルヒットになる。

 例えば、1問目と2問目を連続で正解して一塁と二塁にランナーがいる場面で3問目が不正解で、4問目に正解した場合はシングルヒットとなり、ランナー満塁となる。

 仮に上記の場面で3問目も正解した場合、3問目はツーベースヒットとなり、1点を獲得した上で二塁と三塁にランナーがいる状態になる。

 野球式クイズ対決とは、こんな感じのクイズ形式である。まだまだ説明を続けたいところなのだが、一気に全てを説明するとかなりの長文になるので、その他の説明は対決の要所々々ようしょようしょに交えていこうと思う。


 では、時間停止タイムストップ解じ…おっと!

 私としたことが、大切なことを伝え忘れていた。

 本来、この野球式クイズ対決は、クイズを出し合い互いに知識を高め合うためのものなのだが、私立剣ヶ峰学園高等部クイズ部、通称の野球式クイズ対決はそれだけではない。

 先に記しているため気がついている人もいるだろうが、この二人の行う対決は野球式クイズ対決ではない。


 なのである!


 そう、剣高クイズ部の場合、単なる野球式クイズ対決ではなく、野球式クイズ対決なのだ!

 野球拳式クイズ対決とは、試合が始まる前に互いに身に付ける物を10点までとし、守備側は1点取られると身に付けている物を取られてしまうという脱衣要素がある。ただし、攻撃側になった時に点を取り返すとそれを取り戻せる。

 野球式クイズ対決に脱衣要素を追加した上で試合をし、最終的により多くの物をほうの勝ちというのが野球拳式クイズ対決なのである。

 この脱衣要素は部員達により強い緊張感を与えるために霧子が去年の春に考えついたものである。

 しかし、その理由は建前であり、本当の理由はだからという思いつきで作ったものである。

 なお、野球拳式クイズ対決は脱衣以外は野球式クイズ対決のルールとほぼ同じであるため、以後の説明時には野球式クイズ対決のルール説明となるが、それは野球拳式クイズ対決のルール説明と同義だと思ってほしい。


 余談だが、今日の霧子が身に付けている物を以下に番号を付けて羅列しておく。


 ①ローファー

 ②スカート

 ③ブレザー

 ④女子用ネクタイ(女子はリボンと選択式)

 ⑤ワイシャツ

 ⑥インナーシャツ

 ⑦タイツ(黒色/60デニール)

 ⑧ブラジャー

 ⑨ショーツ

 ⑩メガネ(裸眼の視力は0.0001未満)


 以上の10点が、今日の霧子が身に付けている物だ。

 ちなみに、太陽の身に付けている物は…需要がないだろうから割愛する。


 今回の説明は以上だ!


 では、今度こそ時間停止タイムストップ解除!


「第1問。まずは易しい問題から出すわね。クジラ海豚イルカは生物学上は大差なく、ほとんど同じ生物であるとされているわ。では、それらをクジラ海豚イルカに区別している主な要因はなんでしょう?」


「な!…そんなの知りませんよ!どこが易しい問題なんですか!」


(イルカイルカイルカイルカ…クジラクジラクジラクジラ…)


 太陽は、聞いたこともないその要因を必死で考えていた。


「5、4、3、2…」


「…大きさ!?」


 野球式クイズ対決のルールである、回答者は出題者が出題してからしなければ自動的に不正解になる、という制限時間ギリギリに太陽は答えた。

 ちなみに、出題者も回答者が出題を聞く準備が出来たとから、しなくては自動的に正解になるというルールがある。


「!!…新入しんいりくん、文句を言ったわりにキッチリ答えたわね。まずはシングルヒットよ」


「えっ!?正解なんですか!!!」


「ええ、国際的な定義はないのだけれど、クジラ海豚イルカは大きさで区別するのが一般的とされているわ」


 太陽はあてずっぽうで第1問を正解した。

 簡単な問題とは言ったものの、まさか正解すると思っていなかった霧子は、内心では少し驚いていた。

 霧子の思惑を破る太陽のあてずっぽうでの正解という、波乱の幕開けで始まった新入太陽と剣ヶ峰霧子の野球拳式クイズ対決は、まだ始まったばかりである。


 次回へ続く………

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