桃色生徒会の混乱行動記

K-enterprise

第1話 桃色生徒会

「提出してきたぞ~」


 と生徒会室の引き戸を開けながら意気揚々と発する。


「春ちゃんお帰り~」


「…本気でアレを出したんですか」


 涼香が笑顔で、すももが心底嫌そうな顔で、それぞれ反応してくる。


「おう、ただいま。アレとはなんだアレとは。由緒正しい生徒会の品行方正な会長によるウソ偽りなく公明正大な責務を果たしてきたというのに」


「責務って言うか、権力の行使ですよね。それにしてもよく加藤先生の許可が下りましたね」


 オレは李の質問に答える。


「そこはオレの人徳だわな。この時の為に勉強も運動も生活態度もどれだけ苦労して客観的評価を培ってきたか…その甲斐あって、加藤先生も快諾してくれたよ!」


「春ちゃん、一番得意なのは口だもんね~」


「こら涼香、確かに勉強も運動も生活態度も苦労したが結果として芳しくない結果に甘んじているのは承知しているが、まるで先生を口論で懐柔してきたかのような評価は止めていただきたい。え?見てないよね、さっきの職員室」


「…語るに落ちてますよ先輩。まあ、学祭の生徒会担当自体は慣例として”おふざけ”が認められているのは事実なので、あまりにも大混乱行動に至らなければ先生方も問題視しないって言ってましたもんね」


「こら李、何が大混乱行動だ、混ざる動き、って言葉を無くすだけで新聞沙汰じゃ済まないんだぞ発言には気を付けたまえよ」


「………そ、そんな発想をする脳みその方が新聞沙汰じゃありませんかね?」


 ふふん、純真な世間知らずうぶなねんねめ。妄想で暖房器具に成り下がるがよい。


「李ちゃん、可愛いピンク色~これでこそ”桃色生徒会”の真価ね~」


「「桃色生徒会って言わない!」でください!」


 オレと李の声が重なる。


「入るぞ~」の声と共に生徒会担当の加藤先生が入室してくる。


「先生、どうしました」


「春樹お前な、出し物の申請はいいけど、辞令を忘れんなよ」


「何です?それ」


「何です?じゃねーよ。お前ら執行部の正式な任命書だよ」


「そんなペラッペラの紙切れでオレたちの未来が左右されるなんて…まったく釈然としないものですね!」


「…お前が立候補して成ったんだろうが…会長になればその奇天烈な言動も少しは落ち着くかと思ったんだがな、ま、いいや百川に渡しておこう」


「謹んで拝命いたします」


「おう、気楽にな。あ、春樹、校長にさっきの出し物の話をしておいたぞ。私も参加させてくれるならOKだってさ」


「それはそれは、もちろん。校長のみならず、全ての教職員の皆様にも参加いただきますよ!」


「それと、学祭の準備会には体育館の使用時間を連絡しておけよ?それと指定予算内で済ませるように内訳も事前提出な」


「任せてください!全て滞りなく進めて見せますよ!」


「……百川、桜木、春樹のブレーキ役、頼むな」と失礼なセリフを残し先生は退出していった。こういうデリカシーの無いところが30歳になっても独身の理由だぞ?


「何かデリカシーのない想像をしていそうな顔をしてますね」


「そういうデリカシーのない発言は婚期を遅くするって想像をしていたんだ、気を付けたまえ、李くん!」


「ほらほら婚前交渉の話はそのくらいにして、はい」と涼香に辞令を渡される。


『今期の生徒会執行部は以下の人員によって遂行される(以下略)』


会長:桃井春樹(ももい はるき)2-1

副会長:百川涼香(ももかわ すずか)2-2

庶務:桜木李(さくらぎ すもも)1-1


「わざわざカッコ書きで読み仮名を振るところに先生方の悪意をそこはかとなく感じるのはオレの気のせいだろうか」


「…私なんて、桜色と名前のダブルで利いてますからね…」


「可愛いよね”桃色生徒会”」


「ねぇ先輩、涼香さんって天然なんですか?」


「…いや、案外生粋のドエロ感性の持ち主なのかもしれないぞ」


「どえろってなあに?」ポヤポヤの笑顔で小柄な李の背中から覆い被さる涼香。


「まさか…ひょっとして、男女両方の先輩から身を守る必要があるかもって事ですか。護身用品増やそうかな」


 持ってんのかよ。でもな、それは自意識過剰だぞ?


「何ですか?涼香さんと私を見比べて」こいつの勘は野生動物レベルであることを、古い付き合いの中で理解している。円滑な生徒会運営の為にも、ぐっと我慢だオレ。


「いや、足して二で割るとちょうどいいかなって」我慢できなかった。


「え~わたし太ってないんだけどな」いえ涼香さん、体重じゃありません。特定のパーツです、すみません。


「どうせチビですよ」いえ李さん、身長でもありません。言いづらくてすみません。


「ま、まあそんな事より、オレたちの生徒会活動の最初の仕事が見事決まった訳であるからして、さっそくそれについて詰めて行こうではないか」


「…本気でアレをやるんですよね」


「嫌そうな顔をするな李くん。どうせ通らないと高をくくっていたんだろうが、決まった以上は全力を出してもらうぞ!」


「…はあ、分かりましたよ。こういう時の先輩は絶対に折れないの知ってますから」


「また中学の時と同じだね!それでは「社交ダンス」開催に向けて頑張ろう」


 腐れ縁のオレたち三人による、何気ない生徒会の日常が始まった。


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