あさっぱらから探偵団 猛忍組

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プロローグ

『人間が想像できる事は、人間が必ず実現できる』

海底2万里、八十日間世界一周でおなじみ、ジュール・ヴェルヌの言葉である。

中学生にもなると、夜の恐怖を忘れて久しい。

トイレに行く事すら大冒険だったこと。風呂場で目を瞑るのが怖かったこと。

ゆっくりと背筋を舐めるような夜を彩る風の演奏さえ、遠い昔の事のよう。

今となっては催してもただ用を足すだけのこと。わずか数行にも満たない、描写されることもない当たり前の日常の風景へと変わっていった。


科学技術が発達した現代、妖怪どもの姿は何処かへ去り、彼らの時代は二度と来ないはずだった。

疫病から救ってくれる存在が神への祈りからワクチンの摂取に変わったように。天狗の怒りとされたものが単なる気圧の科学現象と断定されたように。

それは人々が無意識に救いを求めた結果かもしれない。



陰陽師の装束に袖を通し、少年は渦巻く衝動達に瞼を閉じゆっくりと身を委ねる。

青い火の玉達は叫ぶ。魔を祓え、魔を絶て、魔を砕けと。

抵抗はしない。ただゆっくりと大地を踏みしめ、ここに自分は立っていると言い聞かせる。

星を掴むようにゆっくりと手を前に出し、呟く。


装魂そうこん━━━」


青い火の玉達が一斉に少年の身体へ集まり、包み込み、自らを注ぎ込んで行く。閃光が収まった後、そこに立っていたのは少年一人であった。


「お父様、お母様。鴉間明羅からすまあきら、行って参ります」


ぺこりとお辞儀をした後、足元に青い炎を纏わせ夜空へ飛び立つ。


「ほんっとめんどくせえ家に産まれたよなァ、俺……」


潜めた声を、誰も聞くことはなかった。

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