夢見る喫茶 -girasol-

イツミキトテカ

case1-1 アカネ

「あっ、ここだよ」


 くすんだ黄色のスペイン瓦が規則正しくかれた古い洋館の前で、2人の少女がローファーの足を止めた。入り口前に置かれたアンティーク風な椅子に、シャキっと立て掛けられた木製のサインボードを見ながら、少女の1人、アカネが肩まである髪を揺らし、首を大きく傾けた。


「ギ…ラソル…?」


 アカネと雰囲気の良く似たもう1人の少女、ミドリが同じように首を傾けながら言った。


「なんて読むんだったかな?スペイン語で『ひまわり』って意味だったのは覚えてるんだけど…」


「ま、いっか。そんなことより早く入ろ」


 アカネは、はにかんだようにミドリに笑いかけ、重たい扉の手すりを「よいしょ」と引いた。カランカランとベルが軽やかに鳴り、店内に2人の少女の来訪を告げる。ダークブラウンのフローリングが続くその先に、ワイン色のソムリエエプロンを身に付けた細身長身の若い男性がまっすぐ立って待ち構えていた。


 彼は人好きのする笑顔で出迎える。


「ようこそ。喫茶『girasolヒラソール』へ」

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