第8話

「色々とお話をお伺いさせていただいていいですか?」


 ソファに座るとヒルダさんが問いかけた


「はい、なんでも聞いてください、この為に準備をしてきましたから」


 ただ売れそうな商品を持ってきただけが、しかも大半がピント外れ、不安しかない


「お店の場所は同じですか?従業員は何人ですか?商品は前と同じですか?」


 基本的な情報から聞かれた


「前と同じ場所で運営していきます、しばらくは私1人です、店頭に立ち、お客の要望に沿った商品を提供することを把握するために、商品は多少変更します」


 バッグから扱う商品を見せていく、まずは前にも扱ったことのある缶ビール、つまみ、そして炭にグラス、鏡と並べていく、それをヒルダさんが手に取り凝視する、しまいには虫眼鏡のような物で前後左右や離して見たり近づけたりとしている。


「ポーションは置かないのですか?かなりの売れ筋と聞いておりますが」


「祖母から何も話を聞いておらず、仕入れる伝手がないのでそのうち業者を開拓していきます」


「何も聞いていない、、、その割には右手に付けている指輪はなんなんですか?それでおばあ様はいつもポーションを作っていたようですがご存じないのですか?お孫さんって本当ですか?」


(うん、完全になめられてるね、こちらが優位に立つことなんてもう無理だよね)


 こうなったらある程度事情を説明しよう、この人言ってることはイヤミ交じりだが、なによりも笑顔が素敵だ、笑顔が似合う人に悪い人は居ない、居ないで欲しい


「実は祖母の遺産相続で見つけた物でして、この補聴器もメガネも指輪もだいたいの効能しかわかってないのですよ」


 ニヤリと微笑むヒルダ


「最初に話しかけた時から虚勢を張っていることはわかっていましたが、面白そうだったので振りに乗ってみたのですが、素直が一番ですよ、素直がね、これからは2人は”ヒルダ様”と呼ぶことを特別に許しますよ」


(うわっ本物の女王様だ、かなりのSだ)


 どうもこちらの世界に来てから知り合う女性はきつい人ばかりだ、男の人は口は悪いが優しい人ばかりだったので余計に目立つ


「ポーションの作り方なら簡単です、銀貨3枚と言いたい処ですが、特別に無料で教えてあげますよ、”ヒルダ様”がね」


 ただより高い物はない、ただ無一文の身の上では縋るしかないだろう


「お願いします、ヒルダ様」


「わかりました、薬草を3束用意します、そして魔力で作った水をその指輪で合成します以上です」


「え?それだけですか?簡単すぎません?説明が、もっと詳しく教えてください、薬草と魔力水?ってはどこで手に入れればいいのですか?」


「薬草は薬師ギルド、魔力水は魔道師ギルドですね、薬草3束銅貨3枚、魔力水は1リットルで普通魔力水が銅貨2枚、上級魔力水で銅貨3枚ですね、普通のポーションでしたら、原価にして銅貨5枚、それで売値は銅貨15枚ですね、おばあ様は毎日800個ぐらい売ってましたよ」


 えっと計算すると1つの利益が1000円で800個だから1日8万円、30日だと240万夢があるな、ただ問題はこちらの通貨で稼げてもあちらでは無価値、課題は多いな


「ゴートの指輪は物質変換の効果、素材さえ揃っていたら合成もできますからね」


「合成してポーションができたとして、入れ物はどうすればいいのですか?」


 こちらにはガラスがない、できた瞬間に地面に落ちて使い物にならなくなってしまっては折角作ったものが無駄になる


「ポーション見たこともないですか?スライム状の物なのでそのままマジックバッグに入れておけば劣化もしませんし、永久に保存できますよ、取り出して必要な分だけちぎって怪我した患部に塗るだけですからね、怪我が絶えない一般的な冒険者で常備しておくのが大体皆様100ぐらいは入れてあります」


 なるほど、ガラスの小瓶の先を折って飲み込んで体が光って癒されるってゲームとは違うのかポーションも作る目処は経った、後は他の商品の価値も査定してもらおう。


メガネで鑑定はできるのだが、価値としてわかるのはあくまでもこちらの物だけで、現代の物はうまくできない


「他の商品の価格も教えてもらえるだろうか」


「その前に重要な話が、私共がナオト様がいらっしゃったのを心待ちにしていた理由がありますおばあ様が休業している間の税金と商会費が未納となっております、そちらの清算をお願いしたいのですが」


 まさかの延滞税、そう話はうまくいかないか、店の賃貸料とかもあれば経費はまた嵩む


「そ、そうですか、全部でいくらぐらいになるのでしょうか」


「はい、税金が3年分で金貨3枚、そこに延滞税として金貨1枚、商会費は1年で銀貨30枚、3年分ですと、金貨1枚半、全部合わせて金貨5枚半ですね」


 えっ金貨5,5枚って550万じゃん、そんな払えるわけない


「今手元にはそこまで用意がないのですが、期限はいつまでに用意すればいいのでしょうか」


「既に支払い期限はだいぶ過ぎているので速やかにいただきたいのですが、事情をご存じない様子なので多少は待ちますが、遅くても2週間の内には清算していただかないと営業許可は」


「物納でもいいですか?商品を用意してこちらに買い取っていただくってことは可能でしょうか」


「可能ですよ、ただこれだけでは全然足りないのでもっと量を用意していただかないと、そうですね、これの5倍ぐらいは欲しい処ですね」


「わかりました、再度仕入に行ってきます」


 そう言って商人ギルドを後にし、あちらの世界にまた戻ることになった。やっとスタート地点に戻ることができたと思ったが、マイナスからのスタートになった。

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