ドリーム・インフィニティ

西東友一

第1話


 誰かが言っていた、勇者なんて馬鹿がやること。



 勇者を目指す俺には強烈な一言。


 村のみんなも、男手が減る、家はどうする、無責任だと、あーだ、こーだと俺に言ってきた。

 けれど、無責任な俺はちゃんと世界を救う勇者として責任を果たした。


 目の前に倒れている魔王。


 黒竜の姿に戻り、鋼鉄よりも固いウロコは人類が造りし英知の結晶、オリハルコンでできた聖剣ラーテルを以てしても傷を付けることは容易くはなかった。


 対して、魔王のかぎ爪は幾度となく魔物の攻撃を跳ね返し、傷一つ着かなかった鎧に深い傷跡をつけ、魔王の吐く炎の息吹は、姫様より加護をたまわりし魔防のネックレスですら防ぎきることができず、服も体もボロボロになった。


 激闘により荒廃した魔王城で、唯一穢れることなく聖剣ラーテルは白く輝いている。


 俺はラーテルを天高く掲げずにはいられなかった。


 この場にたどり着いたのは決して自分だけの力ではない。

 みんなが俺の背中を押してくれて、みんなが俺に力を与えてくれた。

 それでも掲げずにはいられなかった。


 俺が世界を救ったんだと。


 俺は後ろを見ると、今までサポートしてくれた魔術師のレミナと回復師のルーンが泣きながら抱き合っている。


 当然彼女達はこの戦いに挑むのに欠かせない存在だった。


 戦いだけ?


 なんて、からかわないでくれよな?


 美少女二人と旅をして羨ましい、と街の男たちに言われてきたがとんでもない。

 お金は管理され、女子トークが始まると俺は蚊帳かやの外。

 宿の部屋は別。二人の笑い声に誘われて部屋に行ったものなら、枕を投げつけられて、追い返された。

 いい温泉を見つけても、まず見張りから…はぁ…。


 おっと、勘違いはしないでくれよな?


 あいつらは最高の仲間だ。


 だって、そうだろ?

 仲のいい奴ほど、悪口から言っちまうもんだ。


 戦いでは俺のことを第一に考え、俺が欲しいタイミングで魔法と加護を行ってくれる。俺の背中に目があるわけでも、そういった魔具があるわけでもないが、俺には二人の居場所が目で見えているように感じることができた。


 戦いだけじゃない。


 勇者なんて、救える数よりも救えなかった数の方が多いかもしれない。

 自分の無力さを呪ったことなんて何度もある。


 けれど、挫けそうな時、二人は優しく慰めてくれた。

 痛みを一緒に背負ってくれた。


 俺が重傷の怪我を負ってしまった時は、涙を流しながら、寝る暇を惜しんで治癒魔法や回復の祈りをかけてくれた。

 素直に言えないが、二人は、本当に俺の最高仲間だ。


 そうだな、今言わずにいつ言うときがあるだろうか。

 いや、ないだろう。

 

 俺はラーテルを鞘にしまい、鎧を外して二人の元に行く。

「二人とも」

 顔を上げると二人が飛びついてきた。

「おわっ」

「レオルドッ!!」

 さっき、二人を美少女なんて言ったが、訂正しよう。

 今の二人はお世辞にも美少女なんて言えない。


 どちらかと言えば、不細工だ。


 二人は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら俺の胸に飛び込んできた。

 俺の服をちり紙か、なにかと勘違いしているように涙と鼻水を塗り付けてくる。画家がこの場にいれば、この顔を描き残させて、あとで、みんなに見せてやりたい。


「お前ら・・・」

 俺は二人に呆れて文句を言おうとする。


「レオルドッ、本当に、本当におめでとうっ」

 いつも大人しいルーンが祝福してくれる。

「レオルドッ、本当に無理ばっかして、心配したんだからぁ」

 いつも賑やかなレミナが俺の身を労ってくれる。


 二人が上目遣いで俺の顔を覗いてくる。


「レミナ、ルーン…二人とも本当にありがとう。本当に…本当にだ」

「ふっ、あんた泣いてるし」

「うるせぇ、レミナだって泣いてるじゃないか」

「レミナはいい。そして、私も。女の子だから」

「ルーン、なんだよ。それっ」

 三人で泣きながら笑い合う。

 

 二人の不細工な泣き顔は、記憶に留めたい最高にきれいな笑顔だった。



 

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