第2話 最強お爺さんの本気
見かけ倒しかと思っていた筋肉がそうじゃないと証明するかのように爆ぜるようにして街中を駆けていく。そのまま綺麗なフォームで加速し自転車でのんびりと走行する主婦を抜き、時速三十キロで走行する原付を抜き、しまいには四十キロで走行する自動車までを追い抜き誘拐犯の元へと全力で駆けて行く。
「な、なんだ!?」
「おい!? あの爺さん何者だぁ!?」
「うそだろ!!!!」
「すげぇ!!!!!」
周囲の驚きの声と歓声が街中に響き渡る。
それに気付いた誘拐犯が七瀬を片手に気になり後方を確認すると、車をごぼう抜きし近づいてくるムキムキお爺さんの存在にようやく気付く。
「射程圏内じゃ。大人しく七瀬を返せ! このクソガキ共!」
お爺さんの叫び声が誘拐犯二人に聞こえる。
「嘘だろ? ……こっちは五十キロだぞ!?」
「ば、ばけもの!?」
「しっかり捕まってろ!」
アクセルを回し加速し逃げる二人。
それを見たお爺さんは走りながら大きく息を吸いこむ。
筋肉を動かすは酸素。筋肉は酸素を燃焼しその力をエネルギーに変換することで肉体に力を供給する。つまりは肺活量が多ければ多い程筋肉は十分な酸素が供給され力を発揮する事ができるというわけだ。息を吸い込み肺が膨れ上がっていく。
「ワシをここまで本気で怒らせるとはいい度胸じゃ、いくぞ」
一般的な男性の肺活量は男性で4000~4500mℓとされている。だがお爺さんの肺活量は7500mℓと一般男性のそれを大きく上回る。それは衰えた今の肉体での数値である。
お爺さんは覚悟を決める。
この勝負絶対に勝たねばならぬと。
なにより七瀬の笑顔がそこにある限り、老い耄れたこの肉体を限界まで追い込むと!
お爺さんVS誘拐犯
「気合いじゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」
叫び、足の裏を爆発させ加速するお爺さん。
「うぉぉおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!」
雄叫びがお爺さんの本気を物語る。
さっきまで離されていた距離が徐々に縮まり始める。
相手はスクーターで車と車の間を縫いながら逃げると小回りが利いている。だがお爺さんはスクーターより小回りがもっと利く己の肉体一つで逃走犯を追っている為小回り勝負ではお爺さんの方が断トツに圧勝だった。
車と車の間を抜けそれでもルートが確保できない時は大きくジャンプし車を飛び越えと常人離れした動きで逃走犯を徐々に追い詰めるお爺さん。
ガチャ!
一般車ではなく改造車に取り付けられた赤色灯に足がぶつかり一度パトカーのボンネットに身体毎落ちたがすぐに態勢を整え警官に見向きもせずに走り始める。
と同時に赤色灯が赤く光回転した。
「そこのお爺さん待ちなさい!」
赤色灯とは別に備え付けられたスピーカーから聞こえてくる声にお爺さんは聞く耳を持たず誘拐犯だけを追っていく。
パトカーがサイレンを鳴らしお爺さんの追跡を始める。
誘拐犯が逃げる。それを追うお爺さん。そしてお爺さんを追うパトカー。
三者が車道で一列に並ぶ。
誘拐犯はパトカーが早くも自分達を追ってきたと判断しさらに加速し逃げる。それを見たお爺さんは老体の身体に鞭を入れ気合いだけで追いかける。
「そこのお爺さん! 一体何キロで走っていると思っている! 今すぐ止まりなさい!」
警告を無視し走り続けるお爺さん。
そして次の瞬間。
「見えた! 行くぞ、クソガキ共!」
急な方向転換でパトカーを振り切り、路地裏へと入っていく。
逃走犯は逃げることに必死になってお爺さんには気付いていない。
パトカーはヒビが入り少し割れた赤色灯を回しお爺さんの動きを先回りしようと動く。凹んだボンネットをそのままにして犯人を逃がしましたとなっては世間の目が厳しいこともあり必死になっていた。
「へへぇ、どうやら俺達の勝ちのようだな」
逃走犯の一人がミラーを見て呟く。
「そりゃよかった……」
もう一人も安堵する。
「――ッ!?」
路地裏から凄い勢いで姿を見せたお爺さん。
「チェックメイトじゃ!」
そう言って今度はスクーターに向かって一直線にかけていく。
両者の距離が縮まる。
お爺さんの足が誘拐犯二人の懐にまで飛び込み、さらに一歩奥へと突き進む。
拳を握る。
ただの左手。だが忘れてはいけない。左手はクソガキに鉄拳制裁をするにはとても便利が良いってことだ。そしてすれ違う刹那右手は泣きじゃくる七瀬をしっかりと掴み握りしめてお爺さんの懐へと連れてくる。
同時に別々の事が出来る腕はとても便利が良い。
それに犯人特定の証拠として痕跡が何一つ残らない最強の武器でもあるからだ。
お爺さんの拳が誘拐犯の一人の腹部に抉り込むように入り、そのまま貫通するのではないかと思える勢いのまま二人目の腹部に衝撃波のみで大ダメージを与える。
二人は態勢を崩し身体を回転させながら地面に転がり、無人となったスクータは近くのガソリンスタンドに突撃、並びにガソリンが燃え広がり火事へと繋がった。
限界を超えたお爺さんは一息つく。
するとムキムキだったお爺さんの肉体が元へと戻る。
「ほら言ったじゃろ。警察では遅いと」
それからサイレンを鳴らしお爺さんを追いかけてきたパトカーは姿を変えたお爺さんの前ではなく火災が起きたガソリンスタンドの近くで止まった。
「なら七瀬、じぃじと一緒に帰るか」
優しい微笑みで言うと、七瀬が泣き止んだ。
「じぃー、じぃー!」
「おー、そうか、そうか。よしなら帰りにアイスでも買ってあげようかのぉ~」
二人はこうして楽しい時間を過ごしながら帰りは帰った。
後日ムキムキのお爺さんが警察車両を壊した疑いと三十キロオーバーのスピード違反の疑いで全国指名手配犯へとなった。とここでは述べておこう。
そのお爺さん全国指名手配犯にして最強の名を持つ爺王!? 光影 @Mitukage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます