(3)
俺はぎょっとして飛び上がった。ミカか? どう応対すればいい? 平静を装うか? それとも問い詰めるとか? ・・・なあんだ。〈ミレーマ〉じゃん。もう。脅かすなよ。めんどいなあ。
「はあ~い。どおも会長~」
「なんだねその弛緩した態度は。いちおう秘密結社だぞ。暗号化されているかね?」
「たぶん~」
「電話したのは他でもない。ぜひにというミッションが君を待っている。しかも緊急だ」
「え~。またですかあ? もう勘弁して下さいよお」
「前回の件。君の命を懸けた決死の活躍ぶりに、全幹部が感動しているぞっ」
「いや、命懸けたわけじゃなく、ただ死にかけただけなんで。しかも結局失敗してるし」
だが会長はいつになく上機嫌で、
「ははは。
「え? 正体分かったんですか?」
「いやまだだ。だがな。こちらもカウンターを用意した。我々も、〈P〉内部にもぐらを確保したのだよっ」
「ええっ?」
「この前のミッションの直後だ。文化祭の後」
「・・・なるほどっ。か。会長っ。なかなかやるじゃないですかっ。会長も隅に置けませんねっ」
「はっはっはっ。いやあ。そうでもないよ。いやあっ。ふあっはっはっはっは」
「羨ましいなあ。モテやがってこの野郎っ」
「ふあっはっはっ」
「あやかりたいっ。ちきしょうっ」
「はっはっはっ」
「では失礼します」
「まだ話は終わってないぞ」
ちぇっ。切るとこだったのに。
「実は、そのもぐらからの最新情報なんだが――
「はあああっ!?」
意表を突かれた俺の脳髄に直撃が走った。
「え? 知らなかった? ごめん。ショックだった?」
「いやっ。まあ知らなかったですけどっ。別にショックじゃないですねっはいいっ」
「だよね。君はご令嬢のオフィシャルアンバサダーというだけであって、それ以上ではないよね。〈P〉が勇み足で、危険分子に分類してしまっただけだよね?」
「・・・まあそうですね・・・」
「
「えええっ!?」
ちょ! モデルじゃないの? ミカって、男何人いるの?
「も。モデルじゃないんですか?」
「お。なんだ知ってるじゃないか。モデルはフリーランス。アルバイトだな。建築設計事務所って給料安いらしいからなあ」
ああ同一人物なんだ。ちょっと安心。ってえ! 安心してどうする俺っ。
「そうなんですか。・・・あの。えっと。らぶらぶなんですか?」
「たぶんな。越してくる前、東京でもちょくちょく会ってたらしいし。お父さんの事務所だし」
あああああ。俺もう無理。立ち直れない。イケメンでモデルってだけでもアウトなのに、建築家! しかもミカパパのもとで働いている。もう、かっこよさしか感じない。ミカとの素敵な未来が確約されてんじゃんそれ。
「まだ若いが、実力はあるらしいよ。若手のコンペで最優秀賞もらってる。ググれば出てくるぞ」
あああああっ。むごすぎる追い打ち、痛み入ります。俺もうダメぽ。神は残酷。どうしてイケメンに、さらに才能を与えたりできるの? なんて不公平なんだ! この俺を差し置いて。もうやだっ。
「・・・すいません。ちょっと気分がすぐれないんで、これで失礼します。なんか急に、押し入れに入りたくなったんで」
入ってもう出てきません。そのまま朽ち果てますっ。
「そうか? だが悪いが、この話はどうしても最後まで聞いてもらわねばならん」
「え~~。気分悪いよぉ。吐いちゃうかも」
「そっちで吐く分には私は構わないよ。・・・実はだ。〈P〉がハイアラートを出した。今朝だ。辻を、君と同じ〈危険分子〉に指定したのだ」
「・・・は?」
「しかも、まずいことに、ひょっとするとレベル4の可能性がある」
*
吐きそうな俺の頭は、さらに混乱の極に達した。
「ええと。ちょっとフォローできてないんですが。そもそも、やつは東京人でしょ? 管轄外では?」
「君は、また〈組織〉と〈P〉を混同しているぞ。〈P〉の使命は、管轄する地域社会において、いわゆる不純異性交遊を殲滅することだ。それに尽きる。どこの出身だろうが関係ない。この街に一歩足を踏み入れた瞬間から、直ちにやつらの監視下に置かれる。むろん辻も例外ではない」
「危険分子って・・・やつはそんなヤバいやつだったんですか?」
「君はそんなヤバいやつなのか?」
「違いますよっ。俺は善良かつ無害な一般市民ですからっ」
「だよな」
電話の向こうで会長は嘆息した。
「最近、特に〈P〉の暴走がひどいんだよ。目に余る。どうもやつらが導入した、『人格の潜在的危険度を判定するシステム』が誤動作するようなんだ。ディープラーニングのボルツマンマシンに、ヒトラーか何か読ませてしまったらしい」
「つまり、辻は俺みたいに良い人なのに、変なレッテルを貼られてしまったと?」
「そう。というか、君より良い人だと思う。かっこいいし」
「・・・吐きそう・・・」
「悪いが、吐いてからでいいので、我々のユニットに合流してくれ。〈ミレーマ〉はこれを看過できない。事態は急を告げている。彼に危険が迫っている。才能あふれる前途有望な若者を、血に飢えたやつらの餌食にしてはならない。何としても、守らねばならない」
やつを守る? ・・・やだなあ。内心、むしろ〈P〉に加勢したくなっちゃう俺がいる。ここだけの話だけど。
「・・・なぜ俺が?」
「君は前回の功績によって、全会一致で終身名誉ボランティア会員に指名された。誇るべき栄誉だ。誰でもなれるってもんじゃない。最初の3か月会費無料」
「そのあと取るんかいっ」
「機関紙もただでもらえるぞ」
「要らんっ」
「それに加えて、緊急時・補充要員のウェイティングリストに、自動的に名前を入れてもらえる。今回は、常態化している人手不足に加えて、俊英2名の骨折がまだ完治していないため、君がポップアップした」
「それって、前回とおんなじ理由じゃないかっ」
「前回と同様、最高の相棒と組んでもらう。
「親友じゃねえしっ。友だちじゃねえしっ。知らんやつだしっ」
*
だが待て。同じ危険分子でも、レベル3ならば俺と同じだから、せいぜいBB弾でびびるぐらいで実害はない。しかしレベル4となると――そうとうにきついお仕置きが待っていたはずだ。・・・たしか不慮の事故とか言ってなかったっけ? 超ヤバい。
「あの。ほんとにレベル4なんですか、やつは?」
会長の声が曇った。
「うむ。それがよく分からないのだ。3以上なのは確実だが、どうも、〈P〉内部でも意見が割れたらしい。最終的にどこに落ち着いたのか、現時点では不明だ。確かにそこが最重要ポイントなんだが」
「不公平じゃないですか。俺といい辻といい。だって、この街には若い男女ごろごろしてるわけでしょ? なぜミカさんがらみだと、こんな点数辛いの? 変!」
「もっともだ。たぶん詳細設定画面で、有名人とかセレブ相手だとペナルティが跳ね上がる仕組みをオンにしているな。社会的影響を鑑みて。一種の有名税かな」
「・・・も。もし4だったら? 俺たち、どうやって〈P〉の刺客を阻止すればよろしいので?」
「それは簡単だ。たぶん
「なるほ・・・はあああっ?」
「本当は、前回同様、私も同行すべきなんだが、あいにく生徒会の会議が目白押しでね。すまんな」
会長! なんだよ! 今回は丸投げかよ! 南高の会長がらみのときは、あんなにやる気満々だったじゃねえかっ。
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