第3話

頭の中が真っ白になる・・・・・・とはこの事なんだな。




と、俺はしみじみと感じた。


村の駐在さんが、実は魔王でしたー。


なんて言われて「なんだよそれ!!!!!!」とオッサンに掴みかかれただけでも偉いと自分でも思うよ。


「うんうん、そうだよねそうだよね、君の気持ちはわかるよ、でもね、本当の事なんだ。


あと本当にこれは申し訳なく思ってるんだけどね」


「これ以上何があるってんだよ!!!」


「本当に申し訳なく思ってるんだ。」


オッサンは・・・魔王は・・・・まっすぐ俺の目を見て口を開いた。





「・・って夢を見てよ」


「何だいそれ!あ、でもおもしろいかもね!真ちゃんも

大分ラノベ脳になってきたね!」




昼休み、昨日見た夢を龍に話すと、案の定バンバン背中を叩かれて笑われて

からかわれた。




「大体、真ちゃんがこれから異世界に行くのに、魔王が先にここに来てるって事は

ここが異世界

って訳じゃん?ここが」


屋上から見渡す限りの田んぼ、畑・・・・遥か彼方に見える大型スーパー、あとは広大な駐車場かパチンコ店の看板。


「ここが!異世界なら平和すぎて勇者とか要らないじゃんかよー!」


「あははははは!そうだねぇ!何も無いしねぇー!!!!あはははは!!!」


「ばっ・・・笑うなって言ってんじゃんかよ!ただの夢だっつーの!くそあのオッサンめ、夢にまで出て来て・・・・


俺の異世界はもっとこう、対魔王の為に生死も問わず闘うっつーの!街の皆を守るんだ!!!!!」


そうだ、あんな夢になんか踊らされてたまるか!


「うん、真ちゃんにはそういう世界で勇者目指してほしいな!あとは異世界に行く「だけ」なんだから・・さ!」


「おう!」


そうだぜ!待ってな異世界!勇者はここにいるぜ!!



放課後、いつものように龍と部屋でどうでもいい話をしていると、昨日と同じように「ただ今、お兄ちゃんたち!」と


今日はいつもより元気のいい咲が部屋に飛び込んできた。その手には昨日と同じ菓子やら飲み物を持って、後ろには夏樹も続く。


「お邪魔します・・・・あ、真ちゃん・・ここ座っていい?」俺の隣を指さすから、俺は「別に聞かなくても好きにしろよ」と


答えると夏樹が「うん!」と頷いた。


何だか、こっちも機嫌がいいっていうか、いつもより元気だな、顔色もいいし・・・・。


「おやつ食べたら真ちゃんの寸法測ってもいい?」「ああ」

ほんと、真面目だなぁ夏樹は・・・・


「去年よりちょっと背、伸びたね・・・」


「そっか?」


「ん、」


咲は龍のおすすめラノベを読んでいて、龍は「でね、この子がいじらしいんだよ!主人公の妹なんだけど」ととにかくうるさい。


さすがに咲も困っているようだ。


「先にネタバレしちゃだめだよ、龍お兄ちゃん」


「てへぇ~、ごめんねぇ~、でもほんっと面白いから、全部読んでみて!」


「んー・・でも私、真お兄ちゃんが好きそうな勇者とか出てくるの読みたいなぁ・・」


よしよし、さすがは俺の妹!

「やっぱり、囚われのお姫様を勇者が助ける・・みたいなの、好きだなー」

「俺も好き!」


思わず妹に同意してしまった。


「勇者、聖剣、魔王ときたら、囚われの姫だよな!囚われてるのは可哀想だけどな!俺がすぐに助けてやるぜ!!」

「ま、真ちゃん・・・そんな・・動かないで・・もう少しだから・・・」


ああ、そうだ寸法測ってたんだっけ、忘れてた。


「ええー、そんな本持ってたかなー・・・、ちと探してくるわ」と言い残し龍が部屋を後にする。


姫か・・・姫って言ったら夏樹を想像しちまうなー。


頭の中で白いドレス姿の夏樹はすぐに想像できた、確か保育園の劇でそんなのやったからな。


勇者は勿論俺!つーか・・・男は全員勇者、女は全員姫だったけど。


そのなかでも夏樹が一番・・・・


「真ちゃん、終わったよ?ありがと、もう楽にしていいから」


「・・・・え、あ、おう・・・・」


まただ、なんだろう、昨日と同じだ。


胸が・・・もやもやする・・・・・・

ぼうっとする目の前に、咲がコップや菓子を片付けているのが見えた。


「・・あれ?龍は?」


「え?今日は来てないよ?」


咲は4つのコップのうち、使われてないコップを俺に見せて笑った。


「やだよー、お兄ちゃんてば!どうしたの?」

「・・・・」


「それより今日は、私、夏樹ちゃんちにお泊りに行ってくるね」

「・・あ、ああ」


「??お兄ちゃん?前から言ってたよね・・お泊りの話」

「あ、あーあー、泊まりね、おう!夏樹に迷惑かけんなよ!」


なんだろう・・・・本当に俺、どうしちまったんだろう。



夜11時。

眠れない・・。

なんだろうこの違和感。

胸がもやもやする・・・・昨日はこんな事なかったのに。


それどころか変な夢まで見て龍に笑われ・・・・・・・・・夢なんか見たか?

龍と話したのか?


ごろりと寝返りを打つ。


まぁ・・いいや、また明日になったら龍に面白い小説を借りよう・・・


少し毛色が違ったのもいいな。

恋愛ものとか、俺一度も読んだ事ねーし・・・


またごろりと寝返りを打つ。


恋愛もの・・・読んだ事が無い?

一度もか・・・

可愛い表紙に誘われて何冊か買った気が・・・・

俺は飛び起きて、部屋の電気をつけると本棚を見やる。


ずらりと並ぶファンタジー小説・・・・ハードカバーの本やラノベが並んでいる・・・が、文庫本の大きさでは縦に2冊入るスペースがある。

何冊か文庫を取り出すと・・・・


「やっぱり・・俺・・こんな小説も読んで・・・」


買った覚えも、読んだ記憶も無い、

けれどこの本棚の管理は勿論自分でしかしない。


まさか家族のだれかがここに・・2.3ページめくるだけで女の子が裸になってしまうような本を隠したとは思えない。


龍でもない、あいつは堂々と本棚にエロ本の類を並べている・・・・。


「眠れないのか?」


「!!!」


振り向くと、そこにはいつもの「制服」姿の龍が立っていた。


「りゅ・・・う?何・・して・・・」

「やぁやぁ、親友が何やら深刻そうな顔してエロ本眺めてるから心配になってさ、

様子見に来たんだよ」


「・・あ!あ、いや!!これは」


俺はとっさに本を隠す。


「いーじゃん別に、隠す程の事じゃないって、ただ、俺は真ちゃんが辛そうだったから様子見に来ただけだよ」


そうだ、龍に相談してみよう・・・




明るい月を見上げる影がふたつ、地上に長い影を作って佇んでいた。


「大分、力が満ちてきた様子です」


「ええ・・そうですね」


「それでも・・・・まだ、足りません・・・」影の一つが月を見上げる。


「でもこれ以上は・・・」長い黒髪にその表情を隠した姿を見て、もう一人が呟く。

「姫」


「ここは多少強引ではありますが・・私の力を・・・・」


「!何者!!」


小さい影が跳ねて草むらに飛び込んだかと思うと、一人の男が月下に晒しだされる。


「っわわ、ちょ!まって!僕だよ僕!!」

「?!!!おまわり・・・さん?!!!!」


五月雨は埃まみれになったスーツを叩きながら立ち上がる。


「ええと・・君って・・・確か・・・真君の・・・・・」


五月雨が戸惑うのも無理はない。


月下にさらされた二人、真の妹の咲と幼馴染の夏樹は・・・・

月に良く似合うバニーガール姿だったからだ・・・・・・。


「貴様!何者だ!なぜここに・・・昨日もお兄ちゃんに何かしたのだろう!何のつもりで我々につきまとう!!」


バニーガール姿の咲に凄まれて、五月雨はお手上げといった風に両手を上げた。


「僕も基本、やってる事は君たちと同じだよ!異世界から飛ばされちゃって、

この地が満たされるのを待ってるんだ」


「な・・・何?!」

「君、ほら、バウニー族のお姫様でしょ?僕のお嫁さん候補の」

「え?!!」

「それでは・・・、あなたが・・・」


ヒュッと風を切る音がして、咲が夏樹の元に駆け寄る。


去り際に放った、ウサミミ型の小刀6本は五月雨に触れる前に弾かれてしまった。


「・・・・魔王・・・」


敵意をむき出しにする咲だが、辛そうに肩で息をしている。


「あ、ああ・・向こうの世界だと思って無茶な事しちゃだめだよ?この世界は重力が強すぎる、僕なんて魔法の元になる精霊たちが少ないから最低限の魔法や幻術を使う事しか出来ないんだ・・・・」


とうとう咲は膝をつき、その傍に夏樹も崩れてしまった。


「どう・・して・・・貴様・・・は・・、立っていられる・・・・・」


息も絶え絶えに、だが五月雨を睨む目はそのままに問われる質問に五月雨は溜息をついて答える。


「年季と、単純に実力の差だよ、君たち、昨日の真君の力を得て少し無茶してこんな処まで走って来たんだろうけど、僕はほら車で来たし。」


五月雨が二人に近づく「近づくな!!!」咲は最後の力を振り絞って、夏樹を守ろうと両手を広げた。

「何か勘違いしてるだろうけど」五月雨が二人を肩に担ぎあげる頃には、

二人のすがたは人間に変わっていた。



「僕はいい魔王だよ、友達になってよ。」







俺が知らない事は龍が知ってる、俺たちは親友なんだから。


「そうそう、俺たちは親友だし、男同士だし!なんでも俺に相談してみ!、な!」


龍が俺の肩に手を置いて座らせる。

俺は・・・・うまく言葉に出来ないまま今の感情をぶちまけた。


「なんか、さ、なんか、何もないのに胸がざわつくっていうか・・・もやもやするってか・・・・・


なんか大事な事忘れてるような・・気がするんだよ・・・・、俺、昨日はそんな事なかった、夜も爆睡したし・・何も・・・


なかった・・・・今ままで」


「そうそう何もなかっ・・・・・・・・」


俺の肩に置かれた龍の手の力が強まる。


「なかっ・・・」


「龍??何だよ、からかってんのかよ!」

「ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーとか、

嘘でーーーーーーーーーす!!!!!!!」


狂気じみた龍の声が響く。

俺は、そんな親友を見ている事しかできなかった。


「昨日ねーーーーーーーーーーーーーーまーーーーことちゃーーーんは、だいっっっっ好きで好きで好きでたまんない、


エロい事したいナンッバーーーーーワン夏樹ちゃんの事想ってーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


県境までチャリでブッ飛ばしたんだよねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


いやーーーーーーもう、びっくり、青春!!!ねぇねぇ真ちゅあん、チューボーにもなって、オナニーーーも出来なくて、毎日もやもやしてんの何でだと思う?

ね?おもうーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー???」


涙がこぼれる・・・


恐怖からではない・・・なにか大切な物を無造作に、無理やり、むしり取られた事だけが理解できたからだ。


龍・・・お前は・・・・


「・・っ・・・お前は・・・・誰なん・・・・・だ」


「ほんっと馬鹿だなぁ真ちゃんは・・・俺は、

俺様はなぁ・・・・・・・・・・・・」


異世界に魔王がいたらこんな感じかもしれないと思った。

いや異世界なんて生ぬるい・・これが俺の現実で、訳の分からない「異世界」


肩に置かれた手から力がぬけて、そこにはいつもの表情に戻った龍が笑っていた。




「お前の大好きな・・・・・勇者様、だよ。」


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