『アキンドの恩返し』―彼氏と彼女、かく語れり



 アキンドは必ず約束を守る男だ。

 二か月後に帰ってきたぜ、虹色諸島。


 なんせ此処ここもうけ話が眠っていると確信したからな。

 東方貿易の損失をガッツリ取り戻さなきゃ商人の名が泣くってもんよ。


 言った通り、人魚の皆さんには俺達の文明を堪能して頂こう。


 豪華帆船をチャーターし、内部をレストランに改造した上で、最果て島に乗り付けてやったさ。料亭の売り文句はこうだ。


「これぞ蛮族の夜明け、美食の衝撃で価値観を一新せよ」


 当然、奴らは新しい店に興味津々。

 恩あるリップルちゃんにはゲストとしてたっぷり贅沢させたからな。

 口コミには現地人を使うのが一番よ。


 おっと、当然だが、お客の全員がタダというわけにはいかないぜ。

 物々交換、大いに結構。辺りには嵐に巻き込まれた沢山の沈没船があるはずだからな。そこから金目のものを引き上げてくれたら、ご馳走を提供しようじゃないの。


 目論見は的中したぜ。毎日が満員御礼。

 貿易商人どもの沈んだ遺産を丸ごと頂きだ。一度でも味わったら贅沢は止められまい。まったく笑いが止まらねーぜ。

 アキンド様は転んでもタダじゃ起きないのさ!

 別に構いやしないだろ? 人魚の皆様には無用の長物ちょうぶつなんだからな。

 

 しかし、こうなると欲が出てくる。

 更なる金儲けのネタが、そこら辺を飛び回っているからなぁ。













 あぁ、毎日が夢のようです。

 私、アキンドさんの船上レストランで歌姫としてやとわれちゃったんですよ。

 毎日、舌がとろけるような美味しいご飯。甘いお菓子。

 そして何より、海の夜景を眺めながら王子様が語ってくれる愛の言葉。


「かき集めたどんな財宝よりも、君の唄と美貌が勝るな。俺達は磁石みたいなもの、どうしたってかれ合うのさ」


 ですって! いやん、最高!


 でも、付近の沈没船はあさりつくしたみたいで、そろそろ別の商売に鞍替えするそうなんです。特別報酬ボーナスとして私に『人魚姫』の絵本をくれましたよ? 今更、そんなもの。


 ただ、私が卵を産む時、かたわらに居てくれたらそれで良いんですよ。


 せっかくなので帰ったら読んでみますが。

 ところが、せっかく良い気分だったのに、自宅では蟹のマサミちゃんが私を待ち構えていたんです。何やらプンプン怒っているではありませんか。女の嫉妬しっと……とはまた違うようですが。


「ちょっと、あのアキンドって奴はとんでもない男よ」

「へ?」

「虹色諸島にしか生息していない貴重な飛行貝を、外界で売りさばくつもりなのよ」

「えぇ? そんな事をされたら、私達の使う分がなくなっちゃう」

「無理なサルベージ作業で怪我人魚も続出だし。とんだ王子様だわ、アンタ騙されているんじゃないの」

「そ、そんな筈は……」


 私は恐る恐る、もらった絵本を開いてみます。

 きっと、きっと最後は王子様と人魚姫は結ばれるハッピーエンドのはず。


「ほんぎゃー!」


 潰れたヒキガエルのような悲鳴が我が家を揺るがせたのは、僅か五分後の出来事でした。



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