第343話 DiMaggio&Monroe

 昨晩、初めて煉と関係を持ったオルガは、愛されている実感に喜んでいた。

(これが愛……)

 オルガを抱き締める煉は、その頭を撫でつつ、自身は、フェリシアの膝に後頭部を預けている。

「フェリシア、筋肉つけた?」

「はい。ライカ隊長の下で軍事訓練を受けています」

「チェルシーやエマも?」

「はい。最近、籠りっきりの為、少しダイエットを始めようかと」

「これです」

 エマは、自身の脇腹の肉を摘まんで見せる。

 見た所、全然、良い気がするが、本人が気にしている以上、煉は何も言えない。

 ライカが耳打ちした。

「(殿下が筋肉質な女性がお好みなので、それもあるんですよ)」

「なるほど……?」

 思えば、キーガンやライカ、スヴェンやウルスラ、ミアと、確かに筋肉質なのは多い。

「「うふふふふ♡」」

 勝ち誇った顔でスヴェンとウルスラのコンビが、すり寄ってくる。

 2人は、煉が好みな体質なのを自覚しているようだ。

 そして、スポーツブラをチラ見せ。

「おいおい、挑発か?」

「師匠が構ってくれないのが、悪いんです♡」

「ですです♡」

「昨日は、5回も抱いたのに?」

「1日に最低10回希望します♡」

「私は、30回です♡」

「なら、私は50回―――」

「だったら、私は、100―――」

「やめなさい」

 シャルロットが2人の首根っこを掴んだ。

「貴女たちは側室です。殿下は陛下と正室を御優先しなければなりません」

「あー、シャルロット。そのことなんだが」

「はい?」

「気が変わった。2人は、愛人で」

「「え?」」

 2人は、固まった。

「側室だけど、振る舞いが側室らしくない。相応の礼儀作法が無いと色々危ないと思うんだ」

 トランシルヴァニア王国は、伝統的に社会階級の国家だ。

 それもその筈、地理的に近く、また歴史的にイギリスとドイツから深い影響を受けており、イギリスからは身分制度、ドイツからは高等職業能力資格認定制度マイスターの文化を受け継いでいるのだ。

 この身分制度は、王侯貴族の間にも広く浸透しており、不作法な者は、軽視されやすい傾向にある。

 煉も当初は、平民出身、ということで軽視されたが、最近の働きぶりが評価され、身分を悪く言う者は少なくなりつつある。

 2人が粗相を犯せば、当然、下に見られやすい。

「側室になりたければ、相応の礼儀作法を習得しておくんだな?」

「「……」

 ガーン! という効果音が聞こえてそうなくらい、2人はショックを受ける。

 そんな2人にシャルロットが追撃した。

「愛人は、色々と楽よ?」

 そう言って、煉と熱いキスを交わすのであった。


 昼頃。

 BIG4とイチャイチャしていると、パソコンに新着メールが届く。

 フェリシアを抱擁しつつ、煉はその中身を見る。

「……」

 フェリシアは空気を読んで目をらした。

「大丈夫。重い話じゃないよ」

 抱擁して、その頭を撫でた。

 メールをゴミ箱に入れた後、煉の左右の手は、チェルシーとエマと握り、背後からは、キーガンが抱き着いている。

 チェルシーが、頬ずりしつつ言う。

「殿下は、日曜日でも関係無いんですね?」

「駐在武官だからな。しゃーない」

 現場自体への出動は減少傾向にあるが、逆に事務職は、増加傾向だ。

 トランシルヴァニア王国の国家元首は、アメリカの大統領並に忙しいのだが、王妃(あるいは、王配)は、驚くほど暇な時が多い。

 オリビアが心労でダウンした時は、煉が代わって国事行為を担うが、それ以外は、基本的に顧問アドバイスに徹している。

 尤も、まだ18歳しか生きていない若い女王は、前世から数えて半世紀以上も生きる夫に頼るしかない。

 それを洗脳マインドコントロールと悪く解釈するか。

 忠臣の助言アドバイスに傾聴する名君と捉えるかは、人それぞれだろう。

 キーガンが囁くように問う。

「殿下の外出禁止は、いつ解かれるんで?」

「さぁな。オリビア次第かな」

 買い物などは出来ないが、大使館の敷地内は、移動が自由なので、そこまで不自由さは無い。

 パソコンを閉じ、机上の遠くに押しやる。

「よっ」

「きゃ♡」

 フェリシアを抱っこし、膝に乗せる。

「あら? 暑い?」

「ちょっと火照ってしまいまして……」

 必死に手巾でフェリシアは汗を拭く。

「済みません。汗臭くて……」

「全然、好きだよ」

 汗が付着するのも気にせず、煉は頬ずり。

 どんなに仲良しな夫婦であっても、配偶者の汗には、触れたくないはないのが一般的だろう。

 改めて受け入れられていることを実感したフェリシアは、更に喜ぶ。

 皐月と二人三脚による治療の下、多汗症は以前よりは軽減している。

 それでも見た目には多い為、フェリシアはどうしても気にしてしまうのだが、煉は広い心で受け入れてくれる為、存分に甘えることが出来る。

「殿下♡」

「おう」

 イチャイチャしていると、着替え終わったシャルロットたちがやってきた。

「どうですか?」

 メイド服のシャルロットがスカートをひるがえす。

 冬仕様なので、夏よりも厚着だ。

 また、生足ではなく、黒タイツでしっかり寒さを抑えているのも特徴である。

「似合ってるよ。今年の新作?」

「はい。国営の服飾銘柄ファッションブランドのです♡」

 トランシルヴァニア王国の王族の事業は手広い。


・不動産

・服飾銘柄

・観光業

 など


 これらの殆ど、革命後、逃げた共産貴族ノーメンクラトゥーラから接収したものばかりである。

 オルガ、ライカ、シャロンも同じようにポーズをとる。

 全員が美女なので、パリコレのようだ。

「どう? パパ?」

「マリリン・モンローみたいだな」

「じゃあ、パパはジョー・ディマジオ?」

「そうなるな」

 シャロンは、微笑んで扇風機を押し入れから出し、スイッチを入れる。

 そして、風を使って『七年目の浮気』の名場面のようにスカートをはためかせた。

 黒タイツではあるが、太腿が露わになった時、煉は、リモコンで切る。

「はしたない」

「え~。折角、考えたのに~」

「駄目なものは駄目」

 ぴしゃりと言い放ち、煉は、シャロンの手を取る。

「パパ?」

ディマジオヤンキー・クリッパーは、《金髪爆弾ブロンド・ボムシェル》と274日(*1)で別れたが、俺は離さないよ」

 

 野球選手で大活躍したジョー・ディマジオ(1914~1999)であるが、唯一、人生で手に入れることが出来なかったのが、元妻である、マリリン・モンロー(1926~1962)との再婚だ。

 その結婚生活は、1年も満たぬ短いものであったが、離婚後、ディマジオは精神的に不安定なモンローを支え続けた(*2)

 モンローが1962年8月5日に不審死する数日前には、再婚するつもりであることを明かしている(*3)。

 死去後は、葬式で遺体を前に「愛してる」と声をかけ続け、号泣し(*2)、この他、

・オールスターゲーム中、「マリリンほど素晴らしい女性はいなかった……」と独り

 言を漏らす(*4)

・生前の約束通り20年間に渡って火曜日から土曜日まで毎日、モンローの墓前に赤

 いバラを贈り続ける(*2)

・離婚後は独身を通し、亡くなるまでモンローについてのコメントは控え、

「ある女性誌が、貴方が話してくれたら5万ドル払うと言っているが」

 と尋ねられた時も、

「世の中には金にかえられないものがある。それは愛の思い出だ」

 と即座に答えた(*2)。


 立ち上がった煉は、シャロンを抱き締め、厚く抱擁する。

「嫉妬深い夫で済まんな?」

「良いよ。パパに束縛されたいし♡」

 2人は軽くキスし、そのままイチャイチャしだすのであった。


[参考文献・出典]

*1:康奉雄「ジョー・ディマジオ」『SLUGGER』通巻第3号(1998年7月号)

   日本スポーツ企画出版社

*2:福岡県立図書館 HP

  1954年 映画の黄金時代~50年前の映画界~(2004年)

*3:PBS.org. 2013年

*4:著・伊東一雄 監修・吉川達郎 産経新聞

  『メジャーリーグこそ我が人生:パンチョ伊東の全仕事』(産経新聞ニュースサービス 2003年)

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