第306話 女王陛下の沈鬱

 BIG4がベッドの中で問う。

「殿下、呪いは本物なんですか?」

「どうやって陸軍大将を引きずりおろしたんですか?」

ちまたでは、殿下を呪術者と噂している者も居ますが?」

「お教え下さい」

 4人―――エマ、チェルシー、キーガン、フェリシアは興味津々だ。

 煉はヨナ、ミアの母娘を抱っこしつつ答える。

「俺は何もしていないよ。功労者は、この2人」

「すっごーい!」

「呪術師なんですの?」

「占い出来ますか?」

「視てもらう事お願い出来ます?」

 4人の興味は、煉から母娘に移る。

 ヨナが不安げに見上げた。

殿下デンカ?」

「話す話さないは自由だよ」

「分カッタ……」

 ヨナは頷き、煉の膝から降りる。

「皆、占ウ」

「「「「オー!」」」」

 4人は興奮し、普段寡黙なエマに至っては、指笛を鳴らすほどだ。

「デモ、占イ、100%、ジャナイ。当タルモ八卦ハッケ当タラヌモ八卦ハッケ

 5人が盛り上がる中、煉は上機嫌なミアの相手だ。

「ミアも有難うな。貢献してくれて」

「ウン。コーケンデキタ♡」

 フンスと、ミアは鼻息を荒くする。

 褒められて嬉しいのは、誰だって同じだ。

「殿下、モット褒メテ♡」

「あいよ」

 頭を撫でると、ミアは鼻歌を歌い出した。

 故郷の民謡なのか、煉には初感覚な曲調である。

「♪」

 上機嫌なミアとは対照的に、不機嫌な女子が2人。

「「……」」

 シーラとレベッカである。

 寝室に侵入したのは、良い物をBIG4が先に居て、更に新加入の母娘が居るとは思わなかったのだ。

 2人の視線に気付いた煉は、手招き。

御出おいで」

「「♡」」

 2人は不可視の尻尾を振り、左右に分かれて挟み撃ち。

「(少佐、少佐)」

「うん?」

「(私も活躍したかった)」

「ああ、そうだなぁ……」

 煉は、苦笑い。

 今回はヨナ、ミア、ライカ、ナタリー、エレーナが現場で活躍した。

 その為、シーラやスヴェン、ウルスラはほぼ何もしていない。

 殆ど暇な分、有事でも働けないのは、逆にストレスが溜まるのかもしれない。

「でもシーラは、癒し役だから、傍に居るのも仕事だよ」

「(……はい)」

 傍に居る事自体、苦ではないないのだが、暇は苦痛のようだ。

 シーラを抱き寄せて、膝に乗せる。

 ミアは一瞬、嫌な顔をするものの、煉の顔色を伺って作り笑顔を浮かべた。

 一応相手を敬うようになったのは、良い傾向だろう。

 一方、レベッカは、

「おいちゃん」

「ん?」

「はい♡」

 いつも通り、マイペースだ。

 レベッカが渡したのは、にちゃにちゃの御握りであった。

「これ、作ったのか?」

「うん。でも、みず、おおすぎた♡」

「そっか。じゃあ、次にかそうな?」

「うん♡」

 レベッカにあ~んされ、煉は口を大きく開け、にちゃにちゃ御握りを頬張る。

 塩も多過ぎて海水を固形化したような、塩辛い味だが、作った以上、食べるしかない。

「えへへへ♡」

 自作を食べた煉に、レベッカは頬擦り。

(塩分過多だろうな)

 と思いつつ、煉はその額に優しくキスするのであった。


 夜中、煉はオリビア達が就寝したのを確認すると、そっと部屋を抜け出す。

 午前0時過ぎの城は、不気味だ。

 吸血鬼が出現しても可笑しくは無い雰囲気である。

「……スヴェン、ウルスラ、キーガン、シャルロット、休め」

「「「護衛ですから♡」」」

「侍女ですから♡」

 3人は笑顔で返し、シャルロットは煉の真横へ。

 残りのシャルロットは、半歩後ろに付く。

 城内で不届き者に遭う可能性は、限りなく0に等しいのだが、それでも4人は、基本的に煉がトイレに抜け出したとしても、付いてくる。

 どんなに眠たくてもだ。

 煉としては、そこまでは求めていないのだが、4人に止める気配は無い。

 恐らくこの習慣ルーティンは死ぬまで続くだろう。

(重いなぁ……でも、有難いけどな)

 近隣のイギリスのバッキンガム宮殿では、1982年に2回、同一犯が侵入し、2回目では、女王と遭遇する事件が起きている(*1)。

 この時、侵入者と女王は、共に冷静沈着であった為、大事件には至らなかったのだが、バッキンガム宮殿の警備の脆弱性を如実に表すことになった(*1)。

 2019年にも侵入事件が発生し(前者とは別人)、この時も女王の寝室に数mまで迫った(*2)。

 この他、


 2013年 ナイフを所持した男が宮殿のフェンスをじ登ろうとして逮捕

 2016年 男が宮殿の壁をじ登って逮捕


 と、過去10年間に2回も侵入未遂事件が起きている(*2)のだが、今回は実に37年ぶりに女王の危機であった、といえるだろう(正確には、2019年のは武装している為、今回が初めての危機であるが)。

 バッキンガム宮殿でこれだから、トランシルヴァニア王国もスヴェン達が気を遣うのは、当然の話であろう。

 シャルロットが問う。

「それで、何処へ?」

薔薇の下でUnder the rose、だよ」


 煉が向かった場所は、薔薇が天井に飾られた東屋であった。

 そこで待っていたのは、チェルシー。

 イングランド系でマシュマロのような白い肌を持つ美女だ。

「お待ちしておりましたわ」

 チェルシーは、キーガンを一目見るも、それ以上の反応を示さない。

 恋敵であるものの、今は、密談の方が大事、と考えているようだ。

「申し訳御座いません。こんな夜中に呼び出して」

「全然」

 煉は真向いに座る。

 シャルロットは、その隣へ。

 残りの3人は、東屋を囲むように警備を始めた。

「それで話、というのは?」

「単刀直入に申し上げます。10が、殿下に面会を申し込んできました」

「!」

 シャルロットの表情が強張る。

 10―――多くの日本人には、意味が分からないだろう。

 然し、政治の世界においては、その言葉は、重要な意味を持つ。

 《《ナンバー10》―――その正式名称は、『ダウニング街10番地』。

 日本で言う所の首相官邸。

 アメリカで言う所のホワイトハウスである。

「……首相が何故、自分に?」

「表向きは、オリビア様の御即位と私達BIG4の祝意です」

「……」

 筋は、通っている。

 然し、1国の首相がそれもイギリスほどの大国である首相が、祝電で良いにも関わらず、わざわざ会いに来るのは、中々無い。

「……真意は?」

「殿下の御人柄の確認です」

「俺?」

「首相は、殿下の手腕を高く買っています」

「……首相に買われる覚えは無いが?」

「明日の午前中に会談が決まりました」

「明日? 帰国日だぞ?」

「首相たっての御希望です」

「……我が国は、独立国だ。イギリスの従属国ではない―――」

「会談は、わたくしが決めましたわ」

 チェルシーの背後からオリビアが登場。

 当然ながら、ライカも一緒だ。

 2人共、寝室同様、寝間着ネグリジェである。

 着の身着のまま、来たようだ。

「イギリスとは長年の友好国であり、お話を聞く限り、『国益に叶う』と判断しました」

「……勇者様、御理解下さい。御多忙の中、申し訳御座いませんが―――」

「国家元首が頭を下げるな。強くあれ」

「!」

 煉は、力なく首肯する。

「分かったよ。オリビアに従うまでだ」

「有難う御座います」

 勅令である以上、王配は、女王に従う他無い。

 煉は、立ち上がって、オリビアを抱き締める。

「! 皆が見て―――」

「見せ付けてるんだよ」

 煉に唇を塞がれ、オリビアは、抵抗は小さくなっていく。

「「「……」」」

「「……」」

 スヴェン、ウルスラ、シャルロットは目を逸らし、キーガンとチェルシーは羨まし気に見詰めるのであった。

 

[参考文献・出典]

*1:COSMOPOLITAN HP 2020年12月28日

*2:BAZAAR      HP 2019年7月12日

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