第293話 EARTHQUAKE&TSUNAMI
2022年8月11日。
王室は、夏季休暇に入る。
11日から14日までの4日間。
学生よりかは、遥かに短いが、それでも無いよりはマシだ。
「海~♡」
モノキニを着たレベッカは、大はしゃぎで海に飛び込む。
ミア、ヨナはいつもの民族衣装だ。
女王一家が訪れているのはドイツ最北端である、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州が見える沿岸部であった。
第二次世界大戦中は、ここからドイツ軍が上陸した場所で、当時は、凄惨な戦いが行われたのだが、今では、王室所有の私有地だ。
陸側には、戦時中の犠牲者の為に無名戦士の墓があり、王族がここで遊ぶ際は、必ず献花と掃除が慣習となっている。
一家も例には漏れず、着替える前に正装で墓参りを行い、挨拶を行った後、今に至る。
「……」
スクール水着のシーラは、もじもじとしており、青、白、赤の
『何で私まで、スクール水着なのよ?』
ナタリーは、文句たらたらだ。
「勅令なんだから、仕方ないじゃない?」
今回の水着は、全員、オリビアが購入したものだ。
BIG4、皐月、ライカは、スリングショット。
イスラム教徒であるウルスラは、ブルキニ。
シャロン、スヴェン、司、エレーナは、それぞれ、白地に赤、白地に黒、日章旗柄、白のビキニである。
選定者であるオリビアは、青、赤、黄色のビキニだ。
この三色は、トランシルヴァニア王室の出自の一つである、サーミ人の伝統的な色が、模範だ。
混血が進み、純粋なサーミ人は、減少傾向にあるが、王室は先祖であるサーミ人の文化を尊重し、忘れはしない。
こういう私的な場であっても、出自の色を選ぶに辺り、オリビアの先祖に対する想いが見え隠れするだろう。
「勇者様~♡」
たわわな胸を揺らす。
当然、煉はそれに視線を固定してしまう。
男性が女性の胸を見てしまうのは、その人がちゃんと母乳が出るかどうか本能的に確認する為、という説がある。
なので、全てが下心、という訳では無いのだろうが、それでも殆どの場合、女性側は嫌悪感を抱くだろう。
スパッツ型競泳水着の煉に抱き着く。
「泳ごう~♡」
「最初からぶっ飛ばすな?」
「公務で溜まったストレスを吹き飛ばさきゃね」
普段、ひ弱な癖に、この時ばかりは、煉をグイグイと引っ張っていく。
火事場の馬鹿力夏休みver.と言った所だろうか。
「勇者様、泳ぎをお教え下さいまし」
「泳げないのか?」
「病弱ですので、からきし、泳ぎとは無縁の生活を送っていましたわ」
そういえば、と煉は思い出す。
オリビアは、体育の授業は、ほぼ見学だ。
御典医からも激しい運動は避けるよう、忠告されている。
「……」
皐月の方を見ると、彼女は、「無理はさせちゃ駄目よ」と視線で応えた。
(……了解)
視線で返し、煉は、オリビアの手を握り、海に駆け出すのであった。
戦時中は、文字通り、血で真っ赤に染まっていた、とされる海だが、王族が毎年、遊びに来るほど、海は青く澄んでいる。
5kmほど泳ぎ回った煉は、疲労困憊のオリビアを背負っていた。
「……勇者様、化け物」
肩で息を切らしたオリビアは、もう気絶寸前だ。
「『泳ぎ教えろ』って言ったのオリビアだからな?」
「それでもまさか5kmも泳ぐとは……」
「「陛下」」
キーガンとシャルロットが様子を見に来た。
「お迎えに上がりました」
「大丈夫ですか?」
「……もう、無理」
「御疲れ様。キーガン、頼んだ」
「は」
キーガンは、煉からオリビアを受け取る。
「少佐、
「興味ないし、やらないよ」
笑って否定した後、煉はオリビアの唇にキスする。
「休憩しとき。夏休みは長いから」
「……はい♡」
煉のスパルタに不満があったようだが、キスで怒りが和らいだのか、オリビアは笑顔を見せた。
「……」
キーガンは、羨ましく見つめている。
「キーガン、ライカに預けてから来い」
「! 仕事は?」
「俺が部下に守られるほど弱いか?」
「……そういう訳では―――」
「冗談だよ」
キーガンの唇にもキスし、煉はその頭を撫でる。
「……では、後程」
BIG3からのキツイ視線に耐えかねたキーガンは、オリビアを抱っこしたまま脱兎の如く離脱した。
「……恥ずかしがり屋だな」
「旦那様が情熱的過ぎなんですよ」
鋭い突っ込みを入れつつ、シャルロットは、煉と唇を交わすのであった。
オリビアが休む間、側室にとっては、鬼の居ぬ間に洗濯だ。
煉を囲んで遊ぶ。
『死ね』
そう言って、ナタリーが水をかける。
然し、煉は、シーラを抱っこして交わす。
バシャッと顔面に直撃したシーラは、
「……」
ゴゴゴゴゴゴゴ……と、容疑者を睨む。
『え? 私が悪いの?』
「……」
珍しく眉を顰めてシーラは、煉の腕から飛びおり、ナタリーを追いかけ回した。
『え? ちょっ! あいつの所為じゃん!』
普段、温厚な人ほど激怒した時、恐怖度が増すのは、よくある話だ。
「パパ~♡」
シャロンが飛びつき、煉の腰部に足を回す。
体幹だけでしがみ付いている。
「どう? この水着?」
「似合ってるよ。俺以外の男が見たら、そいつをヘッドショットしている所だよ」
案外、煉は、独占欲が強い。
ミアが1人で島に帰った時も、「防犯」と称してドローンで監視していたほどだ。
オリビア達には嫉妬深い一面があるが、煉も嫉妬心の塊と言えるだろう。
「たっくん、私は?」
「勿論、綺麗だよ」
司を片手で抱き寄せる。
「煉、私は?」
「言わずもがなだ」
皐月も忘れない。
立ち泳ぎのまま、2人を抱き寄せ、シャロンと抱き合っているのは、強靭な足腰も必要だろう。
その様子を漁民に偽装した軍人が、漁船から見詰めていた。
「凄いな。あれだけの美女を侍らせて」
「調べたら、奴は、前世で
情報将校が、資料を持ってくる。
「王者?」
「ああ。
・
・フェンシング
・柔道
・射撃
・競泳
・テコンドー
・マラソン
・レスリング
・テニス
の9冠だそうだ」
「……化け物だな」
軍人スポーツ選手が集う
これらは、あくまでも前世での記録なのだが、それでも現世でのあの余裕っぷりを見るに、前世も現世も関係無いほどの能力と言えるだろう。
その時、
『♪ ♪』
「「「!」」」
その場に居た全員のスマートフォンが鳴り響く。
『『『
「「「!」」」
その瞬間、その場に居た全員は、顔を見合わせるのであった。
日本は、
・ユーラシアプレート
・北アメリカプレート
・フィリピン海プレート
に
逆に、世界で最も地震が少ない国の一つとして挙げられているイギリスは、その国土がユーラシアプレートの内側にある為、滅多に地震が起きる事は無い。
例(*1)
年 :震源地 :
・1580年:ドーバー海峡 :5・3~5・9 :イングランドで2人死亡
・1884年:コルチェスター:4・6 :1200棟倒壊(エセックス)
死者数人
・1931年:ドッガーバンク:6・1 :間接的死者2人
近年では、震度1で報道特別番組が放送される等、イギリス人の地震に対する恐怖心は、根強い。
トランシルヴァニア王国もイギリスに近い為、地震は少ない。
然し、念には念を入れよの精神で気象庁から技術提供を受けていた。
煉達も地震に気付く。
「「「きゃあああああああああああ!」」」
地震に不慣れな、外国出身の女性陣は、悲鳴を上げた。
一方、司、皐月、煉は、冷静沈着だ。
「4くらい?」
「いや3じゃない? 煉は?」
「4だと思う」
体感なので、実際の震度が分からない為、こればかりは経験則だ。
震度1以上の地震は、直近3年間で以下の通りである(*2)。
年 :合計
2019年:170
2020年:169
2021年:308
ほぼ2日に1回、去年なんかは、ほぼ1日に1回という計算だ。
地震に不慣れな外国出身者は、日本の異常事態ぶりに毎日、怯えていることだろう。
この程度での津波は、考え難いが、正常性バイアスの場合もある為、煉達は粛々と避難を開始する。
「全員、屋内に退避! 動揺している者は、おぶってでも助けろ!」
腰が抜けて立てないチェルシーを煉は、背負う。
「キーガンはフェリシア! スヴェンはエマを! シャロンはシーラ! 他は自力で行けるか?」
「ウン!」
「ハイ!」
「大丈夫!」
ミア、ヨナ、レベッカが応じた。
エレーナ、ナタリーは、哨戒しつつ、上陸する。
血相を変えた彼女達が連想しているのは、スマトラ地震や3・11で観た大津波だ。
この程度であのような大津波は、起きにくいだろうが、世の中には正常性バイアスなるものが存在する。
煉達は、続々と上陸し、着の身着のままリムジンに飛び乗り、高台を目指すのであった。
リムジンを30分ほど爆走させた後、煉達は、高台の小屋に逃げ込んだ。
そこも又、王室の私有地内なので、一般人は居ない。
煉は、そこを本陣とし、早速、情報を集めた。
「ウルスラ、
「震源地は、ドッガーバンク。最大
「1m……そいつは不味いな」
1m、というと軽視するだろうが、自然の脅威を侮るなかれ。
津波の高さ :脅威レベル
・30cm~50cm:車やコンテナが浮き出す
・50cm~70cm:健康な成人も流され出す
・70cm~100cm:立っている事等出来ず、大きな漂流物にぶつかる等死亡確率は高い』(*3)
とされ、実際に内閣府からは、「1mもの津波に巻き込まれれば、ほぼ死亡」という分析が出ている(*3)。
又、この威力は、木造住宅に甚大な被害を与え始めるほどで(*3)でもある。
日本ほど津波対策がされていない、イギリスの津波到達地点は、最悪、3・11以上の被害が出るかもしれない。
「「「「……」」」」
出自であるイギリスを、BIG4は想うのであった。
[参考文献・出典]
*1:List of earthquakes in the British Isles
*2:福島地方気象台 HP
*3:WAVAL 2019年3月11日
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